全世界が夢中になっているFIFAワールドカップの裏側で、その華やかさとは対照的なブラジルの貧困問題が明るみになった。多くのホームレスたちがブラジルの街からゴミのように掃き出される姿は、世界中の人々にこの祭典がどのような意味を持つのかを疑問視させたに違いない。しかし、このようなW杯問題は、ブラジルだけで起こっているのではない。試合で使用される公式ボールが、どこで製造されているかご存知だろうか。それはインドの隣国、パキスタンである。今、そのパキスタンで作られているボールが、ある理由で問題視されている。
ボールを作る女性のひと月の賃金はボール1個より安い
スポーツブランドのアディダスがデザインしたオフシャルボール「ブラズーカ」を作っているのは、カラフルな民族衣装を身にまとったパキスタン女性たち。ラテンポストの調査によれば、労働者の90%は女性だと出ており、ほとんどの工場が女性をメインに雇っているのが分かる。彼女たちはボールを作るために特別訓練を受け、工場のラインに送り込まれる。そして、複雑なデザインのボールを、たった40分という速さで作ってしまうという。
この生産システムには驚くべき秘密があった。工場で1時間に約100個製造されているボールは、1個1万6,000円で販売されるが、アディダスは従業員をパキスタンの最低賃金である月1万円で働かせている。つまり、彼女たちが受け取る1か月の賃金は公式ボール1個より安いのだ。
W杯とその奴隷
W杯と発展途上国における低賃金労働は長年に渡り問題視されており、こういった低賃金労働者たちを「W杯奴隷」と呼ぶ。公式ボールを生産するパキスタンだけでなく、バングラディシュには出場国の公式国旗を製造する縫製工場があり、そこでは多くの低賃金労働者たちが働いている。現在はユニセフの働きかけによりほぼ撲滅しているが、ブラジルやインドなどでは低賃金で子供たちを働かせる「児童労働」が問題視されていた過去もある。
低賃金労働者と一流企業の役割
このように、W杯の裏側には多くの低賃金労働者の存在と不当な労働環境がある。そして、低賃金労働を語る上で、切っても切り離せないのが彼らを雇用する企業の存在である。パキスタンなどの発展途上国では、貧困層は仕事がなく、こういった低賃金労働をするしかない。パキスタンのボール工場で働いている女性たちの大半は、その収入だけで家族を支えている。しかし、彼女たちは家族のみならず、このような一流企業も裏でしっかりと支えているのである。
世界的に有名なスポーツブランドが国際雇用環境の質を向上させ、賃金を上げることは、そんなに難しいことなのであろうか。 W杯に関わるような一流企業が国際雇用水準を高めることで、不平等で不当な低賃金労働を世界的規模で変革できるはずである。
W杯に関わる労働問題は、ユニセフとFIFAが共に活動するようになったことでずいぶん改善された。しかし、華やかなW杯の裏側には、未だにスポットライトの当たらない女性たちや低賃金労働者たちの存在がある。世界的イベントだからこそ、そこに関わる全ての人達が正当に扱われ、それに応じた賃金を支払われるべきではないか。そうすることで、W杯がスポーツの枠だけのみならず、世界中の人々にさらなる希望を与える社会貢献イベントへとステップアップするのではないだろうか。