「行政がホモの指導をする必要があるのか」
兵庫県議会議員・井上英之氏による発言だ。同性愛は「社会的に認めるべきじゃない」「偏った性嗜好」等とした上で、県内のHIV感染予防啓発活動は「行政が率先して対応する必要はない」と述べた。
発言撤回の予定はないとする井上県議に対し、オープンリーゲイである豊島区議員・石川大我氏などから抗議の声が出ているが、今回の発言が抱える問題点は同性愛者への差別だけではない。HIV/エイズに対しての無理解もまた露呈してしまった形だ。
HIV感染者・エイズ患者は増えている
エイズ予防情報ネットによれば、日本での新規感染・患者数は数年の横ばい状態を経て右肩上がりの状態が続いており、昨年のエイズ患者報告数は過去最多となっている。
HIV=「ヒト免疫不全ウイルス」は免疫力を壊してしまうウイルスだ。これによって、健康な状態であれば治癒できる病気が治らなくなったり、そもそも感染しないような病原菌にもかかったりするようになると「後天性免疫不全症候群」(=エイズ)という状態になる。
HIVは血液・精液・膣分泌液との粘膜接触で感染するため、感染経路は性的接触・母子感染・血液を介してのものとなるが、日本では性的接触を原因とするものが最多である。
エイズは未だ治ることの無い病気だ。しかし発症前に発見し、適切な医療を受けることができれば、日本ではすぐに死に至ることもない。ただし自覚症状がほとんどないため、HIVに感染しているか否かは検査を受けなければわからない。
つまり、発症前の早期発見には検査を受けることが必須であり、そのためにも受検をうながせるような予防啓発活動が重要なのである。
エイズは”ゲイの病気”ではない
HIVは、たしかに男性同性間の性的接触での感染が7割以上と最多である。しかし女性にとっても決して他人事ではないのだ。
厚生労働省は、HIV感染の可能性が高いと予想されつつも、予防のための知識・行動へのアクセスが様々な理由で困難な人々を“個別施策層”としているが、これにはMSM(男性と性的行為をする男性)のほか、青少年・性産業従事者・外国人があげられている。MSM 以外は性別を問わないし、性産業従事者は女性の方が多く存在している。
またMSMにはゲイだけでなくバイセクシュアルや、異性愛者でも男性と性的接触を持つ人々も含まれている。自分や自分の現在の恋人がそれには当てはまらなかったとしても、元恋人、その元恋人、そのさらに元恋人……と遡っていけば、HIV陽性者がいても不思議ではない。
検査は無料・匿名で行える!
12月1日は「世界エイズデー」だが、その半年前である6月1日~7日は国内では検査普及週間とされており、東京都ではさらに検査・相談月間として、1か月を通してキャンペーンが実施される。(東京都HIV検査・相談月間)
HIV検査は保健所などを利用すれば無料・匿名で受検できるし、HIVと同時にクラミジアや梅毒などの検査を行ってくれる場合もある。HIV検査相談マップでは、全国の検査・相談の出来る場所を探すことが可能だ。
例えば東京都南新宿検査・相談室では平日夜間や土日にも検査が受けられるし(東京都南新宿検査・相談室)、多摩立川保健所では毎週月曜日の通常検査の他、毎週土曜日には即日検査が実施されている(東京都多摩立川保健所)など、利便性に配慮された検査所もある。
感染の疑われる行為の2~3か月後でなければ判定ができないなどの注意点もあるが、せっかくの無料・匿名で受けられる検査だ。「試しに1度受けてみる」というのもよいが、これを機に、定期的に受検する機会をつくることも検討してみてもよいかもしれない。