年始に話題となった長谷川三千子氏が産経新聞に寄せたコラム。ウートピでも取り上げたように(参考:「女性の社会進出は間違い」「家庭に戻すべき」長谷川三千子氏の発言にツイッターで賛否両論)しばらく話題となった。4月21日には田母神敏雄氏がブログで女性の社会進出に反対する記事を書いて賛否を呼んでいる。長谷川氏、田母神氏の説は極端なものだが、雇用のあり方が変わる中で女性の働き方についての議論が活発となり、さまざまな意見が噴出している。
昨年情報誌『選択』に掲載され、一部で話題になったのが青山学院大学大学院国際マネジメント研究科の須田敏子教授のインタビュー記事。「日本の女性はなまけている」という刺激的な見出しがつけられたものだったためネット上の一部で反発があったが、その一方で女性の社会進出の具体策が論じられていたために「見出しが内容と合っていない」「内容には共感できる」など好意的な反応もあった。須田教授に、女性が働くことの意味についてお話を伺った。
専業主婦になるのはリスクのあること
――『選択』での須田先生のインタビュー記事は面白く拝見しました。見出しには批判的な意見も集まりましたが……。
須田敏子教授(以下、須田):『選択』の見出しには本当に困りました。発行の2、3日前になって、編集部から電話があり、雑誌オーナーの意向で「日本の女性はなまけている」と見出しを変えられてしまった。なんとか了承してほしいと言われました。しかし内容とは全く異なるタイトルでとても了解することはできず、掲載を見送ってほしいと頼んだところ、現段階で掲載見送りとなると別の原稿もなく発行できないと言われた。あくまで了解はできないと答えた中での発行でした。
――そうだったのですね……。年始に話題となった長谷川三千子氏のコラムは、「少子化対策」として男女の役割分担を提唱するものでした。
須田:社会を維持していくための課題を男女のジェンダー問題で捉えるのは止めたほういいですね。生産人口を増やすためには子どもの数が増えることも大切ですし、働く人を増やして税金を払う人、社会保険料を自分で払う人を増やすことも必要です。「女性は家庭に入れ」を別の角度からいうと、税金や社会保険料を自分で払わなくてもいい人を増やすことです。
――女性が働くことによって、女性が子どもを産まなくなったり、初産年齢が上がると言われることもあります。
須田:その主張があるから少子化になってしまったんですよね。世界的に見て「女性が働いているから子ども産まない」っていう主張がある社会はどんどん少子化になってしまっています。同時に専業主婦になるのは、リスクのあることだということを知る必要があります。もし夫が病気や事故にあって子育て期に不幸にも亡くなってしまったらどうなるでしょう。先進国の中でも日本やアメリカなどは社会保障のレベルが低い(※)ので、もし何かあったときにその責任を個人で引き受けなくてはなりません。
※2009年の調査で、対GDPにおける社会保障費の割合は、フランス=32.1%、スウェーデン=29.8%、ドイツ=27.8%、イギリス=24.1%、日本=22.2%、アメリカ=19.2%、韓国=9.6%。日本はOECD諸国平均の22.1%をわずかに上回っているが、高齢者・医療に関する社会保障費の割合が一方で、家族・住宅に関する割合は少ない。
女性が働きづらい社会は男性にとってもリスクが大きい
――長谷川氏のコラムも、「女性は家庭に入れ」と言いながら自身は大学の名誉教授であるという矛盾について反発がありました。
須田:専業主婦を推奨して、その人の旦那さんが早死にしてしまったときに、その人の面倒をみる覚悟があるのでしょうか? 専業主婦を勧めるのでしたら、その覚悟があったのちに言ってほしいと思います。誰だって自分は幸せになりたい。明日食べるものに困るのは嫌だし、あまり躊躇しないでものを買いたいでしょう。人間の基本的な欲求の部分です。
――専業主婦志向の女子学生が増えているという調査結果もあります。
須田:働くのも大変だし、就職も大変。子育てしながら働くのも大変そう。男性だって働かないことがまったく非難されなかったら、「専業主夫になりたい」と答える人は多いかもしれません。でも、「専業主婦になりたい」という人のどのくらいが今、現実的に専業主婦になれるでしょうか。本音を言ったら男性だって困る。今40代後半以上の男性は、結婚した時代は奥さんが仕事を辞めるのが当たり前だったけれど、今になって「仕事を辞めないでくれれば良かった」と思っている人も多いでしょう。雇用が不安定な状況で、「本音では働いてほしい」という男性は多いはずです。
>>【後編に続く】「良いお母さん」のレベルが高い日本 須田敏子教授が語る、女性が働きやすい社会への提言
●須田敏子(すだ・としこ)教授
青山学院大学院国際マネジメント研究科教授。青山学院大学経営学部卒業後、日本能率協会グループで「人材教育」編集長を歴任。その後、英国に留学。リーズ大学で修士号、バース大学で博士号を取得。