今年のお盆休み、みなさんはどんなふうに過ごしましたか?
久しぶりに家族や幼なじみのいる地元に戻った人、コンクリートとアスファルトで焼けるように暑い都会を離れて自然の中でのんびり過ごした人……と、「地方」を訪れた人もきっと少なくないはず。
何にも邪魔されることなく広がる青空と大きな入道雲、カブトムシやクワガタがたくさんいる雑木林、夕暮れになると聞こえてくるヒグラシの声。そういうものに触れて、「ここに住むのも、悪くないな」と考えた人きっといるでしょう。
「気になるニュースの数字」、今回のテーマは「地方移住」です。
北海道の「移住体験」が7年で5倍に
今、政府が掲げている「地方創生」の一環として、地方の県や市町村は移住者を増やそうとさまざまな施策を打ち出しています。その一つが、「移住体験」です。
例えば、北海道内の市町村が行っている「北海道体験移住ちょっと暮らし」。北海道への移住や二地域居住を希望する人が家電や家具の揃った住宅に一定期間滞在し、地域での生活を体験するこの取り組みですが、2006年には417人だった利用者が、2013年には2264人と大幅に増加。移住への関心が7年の一気に高まっていることがわかります。
東京都民の2人に1人が移住を検討中?
さらに、体験の利用者を居住地ごとに見てみると、首都圏が42%と半分近くを占めていることがわかります。また、平成26(2014)年に行われた「東京都在住者の今後の移住に関する意識調査」によれば、東京都から移住する予定、または移住を検討するとした人は40.7%。さらに関東圏以外の出身者で東京から別の地域へ移住したいと考える人は49.7%にも及びます。都民のおよそ2人に1人が将来的に移住を考えていることになります。
政府の世論調査によると、2005年の調査に比べ、2014年の調査では全体的に「農山漁村への移住願望がある」と答えた割合は増加。年代別で見ると、特に増加が見られたのが30代と40代。30代では17.0%から32.7%へ、40代では15.9%から35.0%へと、どちらも2倍程度、移住希望者が増えています。
10代、20代の女性はUターン移住を希望
では、移住を希望する人々は「地元に帰りたい」(Uターン)のか、それとも「地元ではない別の地域で暮らしたい」(Iターン)のか?
人気なのはやはりUターン移住で29.3%。一方のIターンは20.1%となっています。男女年齢別で見ると、「Uターン移住をしたい」と答えた割合がもっとも高かったのは10代から20代の女性でした。
なぜ、若い女性はUターン移住を希望するのか? それは彼女たちが移住を考えたきっかけや理由を聞くと、見えてきます。
「移住のきっかけ」として男性で多かった回答は10代から20代では「就職」(28.6%)、30代、40代、50代では「早期退職」(29.2%、31.6%、49.2%)、60代では「定年退職」(45.5%)と仕事との兼ね合いが挙げられています。
対して、女性の場合は10代から20代では「結婚」(39.3%)、30代では「子育て」(25.5%)、40代では「親族の介護」(34.1%)と、家庭の事情がきっかけに結びついています。確かに、働きながら子育てをするなら近くに実家があった方が便利ですし、土地勘のある場所の方が子育てもしやすいと考える人もいるでしょう。
地方の「スローライフ」に憧れるのは男性
さらに同じ調査によれば、「移住したい理由」で男女ともに一番多い理由は「出身地だから」。2番目に挙げられるのは、10代から30代の女性では「家族、知人など親しい人がいるから」、男性では「スローライフを実現したいから」となっています。女性の方がUターン移住を望むのは、結婚や子育てなどの家庭の事情から、親戚や知人のいる地元へと戻った方がいいと判断するから。「スローライフ」に憧れているのは、実は女性よりも男性だったのです。
ちなみに、国土交通省の「国民意識調査」で「地方に住むことの魅力」として80%を超えた回答は「自然環境が豊かであるから」「生活費が安くゆとりを持った生活ができる」「時間的にゆとりを持った生活ができる」。いずれの回答も地方移住者より都市生活者の方が、その割合が高くなっています。「緑がない」「生活費がかかる」「あわただしい」……といった都会の生活の欠点。それを補うような形で、地方への「憧れ」があることが見て取れます。
自然は豊かで、家賃相場や物価も安く、ゆったりとした時間が流れる「田舎暮らし」。それは確かに満員電車に揺られ、日々働く都市生活者にとっての「理想」かもしれません。
年収が高い人は地方移住を望まない?
しかし、地方へ行けば都会で当然のように享受していた「生活の利便性」は低下します。実際に地方移住希望者の36.7%が「日常生活の利便性」を、35.9%が「公共交通の利便性」を不安要素として挙げています。さらに問題なのは、「働き口」です。
増加している移住希望者ですが、政府の調査によれば、そのうち「すぐにでも移住したい」と答えた割合はわずか4%。70%ほどの人が「20年先」「20年以上先」との回答をしていることから、長期的な視点で移住を考える人が多いことが明らかになっています。
移住するには会社を辞める必要があるとなれば、早期退職をして転職先を探したり、独立を考えなくてはなりません。それには長い目で見た人生設計が必要となってくるでしょう。
また、キャリアインデックスの「Uターン就職への移行と年収の関連」によれば、「Uターン転職をしたいとまったく思わない」割合が年収300万円未満では31.6%に対し、500万円以上では40.5%と、年収が高くなるにつれてUターン転職に対する意向が薄れていくことがわかっています。
働き口はあったとしても、年収は減るかもしれない……。そう思うと移住の決断はなかなか下せないものです。
今月24日、政府は「地方創生推進交付金」に900億円の予算を計上しました。地方に人を呼び込むため、現在多くの市町村が観光振興や前述した体験プログラムを組んでいますが、やはり移住希望者の心をつかむ決め手は「安定した働き口」なのかもしれません。
(安仲ばん)