杉田千種さんインタビュー

ファッション中毒の女性編集者が「服を買わない生活」で気づいた 本物の「おしゃれ」とは?

ファッション中毒の女性編集者が「服を買わない生活」で気づいた 本物の「おしゃれ」とは?

1年間まったく服を買わない。
毎日の洋服に悩み、ショッピングでストレスを発散する女性たちには信じがたいことですが、それを実践した人がいます。小学館で「週刊少年サンデー」の編集を担当する杉田千種(すぎた・ちぐさ)さん。洋服を買わないことで見えてきた自分らしいおしゃれとは?

尊敬するスタイリストが教えてくれた一つのルール

——服を買わない生活を始める前は、よく買っていたのですか?

杉田千種さん(以下、杉田)
:そうですね。洋服を買うことが趣味と言ってもいいくらいで、お給料をいただいたら8割を洋服に注ぎ込んでしまう生活でした。そんな時に、キャサリン妃の洋服を研究しているスタイリストのにしぐち瑞穂さんと『幸せを引き寄せる キャサリン妃着こなしルール』という本を作ることになったんです。

にしぐちさんとは制作の過程でよくお会いしていたのですが、いつ会ってもおしゃれな方なんですね。にしぐちさんしか着ないだろうという服を選んでいらっしゃるんですが、それがすごく素敵で。「どうしたらそうやって自分に似合う服ばかり選べるのですか?」と訊いてみたところ、イギリスに留学したことがきっかけで、1年間服を買わずファッション誌も見ず、手持ちの服だけでコーディネートするというルールを自分に課してみたら、自分の好きな方向性や自分にしか似合わないものがはっきりとわかるようになった、と教えてくれたんです。それを聞いて、私もやってみたいな、と。

——洋服に関心がないのではなく、好きだからこそ始められたんですね。

杉田:にしぐちさんとそのお話をした時、ちょうど私が出産直後だったということも大きかったと思います。赤ちゃんの世話もあって本当に時間がなくなって、服のことまで手が回らなくなってしまった。それで、あまり頭を使わずに自分らしい服を着るにはどうしたらいいか考えていたんです。

——30代は仕事と私生活の両方で忙しい時期。杉田さんと同じように考える人は多いと思います。

杉田:そうですよね。私がなぜ「服を買わない生活」をやったかというと、やはり一番は仕事を大切にしたいという気持ちが強かったから。仕事に集中するために、趣味に費やす時間は減らしたいという思いがありました。

同じ服を着ることの意外なメリット

——服を買わない1年を、実際にどんなふうに過ごしていたんですか? ファッションにはまったく触れなかった?

杉田:新しい服は買いませんが、手持ちの服をどう組み合わせるか、かなり考えました。ショッピングの代わりに映画を観たり昔の漫画や小説を読んだりして、自分の好きなものを突き詰めて考えるようになっていきました。

——でも、コーディネートに時間がかかってしまいそう……。

杉田:最初は時間がかかっていましたが、次第に自分らしい組み合わせがわかるようになって、選ぶ時間がぐんと減りました。そのなかで気づいたのは、同じ服ばかり着ていてもまわりは気にしないということ(笑)。逆に、気に入った服を何度も着ていると自分の趣向を印象づけることができて、人が勧めてくれる服が自分の好みと合うようになりました。そうなると、すごくラクですね。

——杉田さんが見つけた「自分の好きなもの」とは、何だったんですか?

杉田:私の場合、子育てをしているのでスカートより細身のパンツがラク、背が低いのでビッグシルエットは着ない方がいいという結論が見えてきました。あとは、アニマル柄のものを取り入れると気分が明るくなることもわかりました。ということで、今日もアニマル柄のブレスレットを着けています(笑)。

アニマル柄には、まったく興味がなかったんです。背が低いのを気にしてヒールの高い靴ばかり履いていたのですが、妊娠して履けなくなってしまった。そんな時に夫がプレゼントしてくれたぺたんこ底のサンダルが、パイソン柄だったんです。そのサンダルを履いた時、なんだか自分らしいなと感じて、以来アニマル柄にも挑戦するようになりました。

——素敵なきっかけですね。

杉田:「服を買わない生活」をしたことで、これまで自分が買ったものや身につけてきたものにはちゃんと理由があったんだ、とわかりました。毎日、同じ服ばかり並んでいるクローゼットを眺めていると、どこに惹かれて買ったのかを思い出すんですね。すると、「さらさらとした生地が好き」とか、「ちょっとガーリーなディテールが好き」とか、自分にとってのポイントが見えてきたんです。

杉田千種さん

杉田千種さん

本当におしゃれな人の2つの共通点

——「おしゃれだな」と目を引く人は、こうした部分がわかっているのかもしれませんね。おしゃれな人の共通点とは?

杉田:やはり物を見る目が厳しいということかと思います。例えばフランス人は、1着の服を買うために20着くらい試着して選ぶのだそう。そうやって買ったものはボロボロになるまで大事に着るそうです。

それから、妥協しないということ。以前、イラストレーターのフジモトマサルさんの自宅に呼ばれたことがあったのですが、スプーン一本からテーブル、照明に至るまですべてがおしゃれでした。こんなに素敵なもの、一体どうやって探すんですか?と訊いてみると、気に入るものが見つかるまでとことん探す、と。「間に合わせでとりあえず買う」という考えがまったくないんですね。前述のにしぐちさんもそうですが、おしゃれな人は、好きなものに関して本当に妥協しないですよね。

——なるほど、参考になります。私は最近、「好きなもの」に「大人っぽさ」をプラスしていかなきゃ、と感じるようになりました。

杉田:だったら、少し背伸びをしてみるといいかもしれません。これまで入れなかった憧れのお店に足を踏み入れて、「いいもの」に触れてみるんです。すると、「いつか着たい服」に出会えるはずなので、次はその服を着こなすためにどうするか筋道を考えてみる。大切なのは、今どうするかより、将来どうなりたいか、どう見えたいかということ。それを考え続けると、理想がだんだんと着るものに反映されていきますよ。

ラクすることを恐れない

——洋服に限らず、すべてに通じそうな発想ですね。それにしても、杉田さん、仕事も育児もしっかりやって、そのうえこうして自分のスタイルも保っていらっしゃるのはすごいことだと思います。

杉田:仕事も子育ても、「今あるもの」でどうやって回していくかを考えた時に、「ラクすることを恐れない」ようにしようと決めました。

私にとってもっとも忌むべき状況は、家事や子育てのせいで仕事ができなくなること。そうならないためにも、やるべきことがたくさんある今の状況では、「新しいことを始める」より、「今やっていることをやめる」方が効率的ではないかと思ったんです。私の場合、「服を買わない生活」を1年やってようやく気づきましたが、当たり前だと信じ込んでいることを疑ってみると、よりスムーズな方法が見つかるものなんですよね。

(竹川春菜)

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