ウートピ図書館 牧村朝子さん

「いい歳なのに、なぜ結婚しないの?」社会が投げかける“問い”から解放される一冊

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「いい歳なのに、なぜ結婚しないの?」社会が投げかける“問い”から解放される一冊

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今回の執筆者は、フランスで同性婚し、『同性愛は「病気」なの? 僕たちを振り分けた世界の「同性愛診断法」クロニクル』 (星海社) などの著書を持つ、タレント・文筆家の牧村朝子(まきむら・あさこ)さんです。

〈こんな人におすすめ〉
社会から投げかける「あなたは、なぜ◯◯なの?」という問いに疲れてしまった人

『キッド ~僕と彼氏はいかにして赤ちゃんを授かったか~』(みすず書房)

いつも、あとから理由を探してきたと思う。

あなたにも、あるんじゃないだろうか。先に走って行っちゃった自分の心を見やりつつ、「なんで自分がこっちに向かってるのかという説明」を後から必死に考えた経験が。

私にはある。女性である私が、いったいなぜ女性に運命を感じ、目をハートマークにしながら彼女をフランスまで追いかけてパリの市役所の結婚宣誓式で「ウィー!!」と叫び生涯の愛を誓ったのか、端的に言えば「なんで女なのに女が好きなのか」、ということへの理由づけを私はいつも試みてきた。なんだか、そうしなくちゃいけない気がして。

だからこそ、必要だったのだ。

「理由なんか要るの?」

そう言って心を解放してくれる、何かが。

今回紹介したい本のタイトルはこうだ。

『キッド ~僕と彼氏はいかにして赤ちゃんを授かったか~』

一言で言えば、ゲイカップルがホームレスの少女の産んだ赤ちゃんを養子として迎えるまでの話である。

ニッチなBLではない。ノンフィクションだ。著者は、アメリカの作家・舞台演出家にして社会活動家でもあるダン・サヴェージ氏。原著は1999年から読み継がれるロングセラーで、養子となる子どもが生みの親・育ての親双方とつながりを持ち続けられる“オープン・アダプション(開かれた養子縁組)”についての最良の参考書として定評がある。

正直、「意識高~いwwwwww」と思った

なので、体調も機嫌もいいバリバリ仕事モードの日の電車移動中、メガネをクイッとしながら読んだ。

・同性カップルが
・あえてのオープン・アダプション(開かれた養子縁組)で
・ホームレスの産んだ赤ちゃんを養子として迎える

このことについてどんなに意識の高い理由を社会に訴えているのか、だいぶ身構えて読んでいた。

万が一、これが「同性カップルは非生産的なので恵まれない子どもを養育することが社会的義務である」みたいな、自分以外の人間をシミュレーションゲームのユニットみたいに扱っちゃう程度の想像力しか持ち合わせないどっかの島国の政治家(に当選できなかった人)たちのような主張につながるようならばムカつく。だまされてたまるかと思う。なので「私は人間ですから!!(キリッ)」と身構えながら読んでいたのだが、この一行で吹いた。

「僕は犬アレルギーなもんで。」(p.62)

母親へのカミングアウトもこんな感じである

「母さん……僕は、ゲイなんだ」
「ほんと? ねえ、公園で二人のゲイに襲われた女性の話知ってる?」
「知らないよ、母さん」
「一人が女性を押さえつけ、もう一人は彼女の髪をとかした」(p.96)

この親にしてこの子あり、というか。こういうのらりくらりとしたジョークが、あちこちに散りばめられている。

ちなみに、著者が養子を迎えることにした理由はもちろん「犬アレルギーなもんで。」だけではない。ネタバレしたくないし、箇条書きできるようなものではないのでここでは控えるが。

もちろん、ふざけてるだけの人ではない

読み進めると、いわばこのノリが、“生きるための不真面目”であることがわかる。著者が切り返すジョークに笑ううち、はっと気づくのだ。

「なぜ、理由なんか求められるんだろう? “普通”とされる人たちは、“それが普通だよね”で流してもらえるのに……」

私が私の人生に課していた“社会的説明義務”を、私はバカ真面目に果たそうとしてきたと思う。でも、ちょっと手を止めて考えたい。私が私の人生について社会に説明するのって、本当に“義務”だろうか?

「(女なのに)なぜそんなに働き続けるの?」
「(いい歳なのに)なぜ結婚しないの?」
「(同性愛者なのに)なぜ子どもが欲しいの?」

質問の奥の蔑視を見抜いた時、答えなきゃいけないような義務感から解放される。自由のためのちっちゃな鍵を、この本は私にくれたと思う。

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