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観光ガイドとは真逆のすごいハワイ本 「人間は世界の中心じゃない」と教えてくれる

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今回の執筆者は、ブロガーのチェコ好きさん。旅、読書、アートを主軸にした「チェコ好きの日記」が人気を博し、今年3月には『旅と日常へつなげる ~インターネットで、もう疲れない。~』(あの出版)も刊行。海外旅行好きだというチェコ好きさんが、観光ガイドとは一線を画す、ハワイの本を紹介します。

こんな人におすすめ
世間の価値観に押しつぶされそうになっている人

池澤夏樹『ハワイイ紀行』(新潮社)

私たちが日々過ごしているなかで、「人間」の気配を感じとらない日はない。ほとんどの人は平日、会社や学校に行くだろうし、家でぐうたら寝ている休日だって、コンビニやスーパーに行けばやっぱり「人間」がいる。無論、家から一歩も出ないような日だって(私にはこういう日がよくある)、インターネットに接続すれば、スマホやPCの向こうにはやっぱり「人間」がいるのだ。

長く「人間」たちの間で生活していると、私たちは、まるでこの世界のすべては「人間」が支配しているものなのだと、錯覚する。だけど実際は当然ながらそんなことはなくて、未開の洞窟に深海、砂漠に雪山と、人間の実効支配が及ばない地はこの世界にいくらでも存在する。そしてそこで世界を支配しているのは、微生物や奇妙な深海魚たち、太陽と砂、それからいつ雪崩となって襲ってくるかわからない、氷の結晶である。

「そんな世界と私たち、いったい何の関係が!?」と、ここまで読んでくれた人は思うかもしれない。もちろん、関係は、ない。だけど、関係ないからこそ、いいのだ。

池澤夏樹の『ハワイイ紀行』は、作家である池澤氏が、あの有名リゾート地であるハワイを旅した紀行文である。ここまで語っておいて結局ハワイかよ……と思うかもしれないが、この本のメインになっているのはあのショッピングセンターが並ぶオアフ島ではなく、マウナケア山を擁するハワイ島や、第二次世界大戦の海戦で知られるミッドウェー島などである。

これはいわゆる「ハワイの観光ガイド」とは一線を画す本で、読んでいるとオセアニアの歴史やらサーフィンの哲学やら、私たちの日々の生活とはおよそ関係ない情報が、するりするりと頭の中に入ってくる。

そして、そのおよそ関係のない情報こそが、「今、ここ」で悩んだり苦しんだりしている私たちを、ゆっくりと解放してくれるように思うのだ。

アホウドリたちが支配する島

戦争の舞台になった島というと、どんなおどろおどろしい爪痕が残されているのかと、普通は思うだろう。しかし、ハワイ諸島のほぼ最北にあるミッドウェー島は現在、アホウドリの世界最大の繁殖地なのだという。

冷戦終結後は軍事基地としての役割も終え、自然保護区として観光客の受け入れも制限されている。だから私たちが実際にミッドウェー島に行ってみることはたぶん難しいのだけど、本を読めば、「人間」の立ち入りが厳しく制限されたその場所の様相を、うかがい知ることができる。

「人間」がいないミッドウェー島を包んでいるのは、第一に静寂である。車やバイクの音も、電車の発着音も、ここにはない。島の主であるアホウドリは地面を覆い尽くすほどの数がいて、「人間」の存在などまったく意に介さずに、仲間同士で自由に歩き回っている。「人間」が中心にいない世界、「人間」が遥か後方にある世界。そこで作家の池澤氏は、陰に隠れてこっそりとアホウドリたちを観察している。ここは鳥たちの楽園であり、鳥たちこそがルールだ。ここでの人間は、「お邪魔させていただいている」ちっぽけな存在に過ぎない。

「◯◯しなければならない」というまわりの無言の圧力に、私たちは時に負けそうになる。だけど、『ハワイイ紀行』で語られている世界の存在を知ると、そんな「◯◯しなければならない」はやっぱり、限られた世界のごくごく小さな縛りでしかないことを再確認できる。これは「宇宙のことを考えると今の自分の悩みなんてどうでもよくなる」という話にも似ているのだけど、同じ地球上の話なので、それよりはもう少し身近だ。

世界に存在するルールは、無数にある。特定の「ねばならない」に縛られることなく、その中から自分の好きなものを自由に選んでいいのだ、と私はこの本を読むと実感できるのだ。

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