あ〜、会社行きたくないな、働かずに稼げたら……なんて、誰しも一度は考えるもの。今回は、巷でふたたび流行しているネットワークビジネスについて。アディーレ法律事務所の篠田恵里香(しのだ・えりか)先生は「汗水流して働いてそれでお金を儲けるっていうのが基本的な人としての稼ぎ方。むやみに手を出すべきではない!」と一喝。それではネットワークビジネスの何が問題なのかリーガルレッスンで学びましょう!
〈今回のポイント〉
【1】ネットワークビジネスって違法じゃないの?
【2】ネットワークビジネスもクーリングオフできるの?
【3】ネットワークビジネスのトラブルで何が一番怖い?
エリカちゃん(永遠の30歳)
「六法全書」の妖精。本名はオピストコエリカウディア・スカルジュンスキィ。辛口で正論をバシバシ言うが、困っている人は放っておけない姉さんキャラ。例えれば、リカちゃん人形サイズの真木よう子。
仕事も恋も停滞気味だったから…
大親友のララコに子どもが生まれてから、深夜のサイゼでタラレバトークをする相手もいなくなってしまったし、酔っ払った勢いで結婚&即離婚なんて今思うとトレンディドラマみたいなことも、もう一年も前。最近は仕事も停滞気味だしお給料も上がらない。なんかこのままでいいのかなって、最近悩んでしまう。
そんな時に、運命的な出会いがあったのだった。相手は行きつけのバーの常連さん。堤真一似の45歳。ちょっと上かな〜と思うけど、人気の美容サプリの販売をしているとかで、羽振りもいいみたい。何より話が面白くて、彼と話していると、私も頑張らなきゃ!高みを目指さなきゃ!って思えるんだよね。
そもそもネットワークビジネスって何?
「リリちゃん、あの人、気をつけた方がいいわよ」
「え? 何、どういう意味?」
「なんか胡散臭いわ。今日、私がいない間にあのバーに行ったわね? 何の話をされたの?」
「そういう言い方やめてよ! すごく親切な人だよ。今の仕事環境のこと話したら、僕の仕事の手伝いをしないかって言ってくれたの!」
「何それ。彼もデザイナーなの?」
「違うよ。美容サプリを販売してて、すっごく売れてるらしいの。しかも私がさらに人を紹介して、その人が売り上げを出すと私にもお金が入ってくるんだって。これ、すごくない?」
「……リリちゃん、まさか契約してきてないでしょうね?」
「するに決まってるじゃん! 副業でやってる人も多いって言ってたもん。こんなおいしい話見逃すなんてできないよ! 私、人生勝ちたいもん」
「信じられない……。あなたそれ典型的なネットワークビジネスよ?」
「知ってるよ! でもネットワークビジネスは違法じゃないし、ちゃんとそれで成功している人もいっぱいいるって言われたもん!」
「あのね、あなたネットワークビジネスって何かちゃんとわかってるの?」
「そ、それは……」
「ネットワークビジネスってのは、勧誘して販売員を増やすことで拡大していく商品やサービスの取引のことよ。マルチ商法とも言われるわ。違法ではないけど、販売員を増やせば増やすほど経済的利益が出るから、強引な勧誘が横行してるの。規制もされているし、トラブルがすごく多いのよ」
「でも、彼は成功してるし、そんな怪しいのじゃないよ。言っとくけど、ねずみ講とネットワークビジネスは違うからね?」
「結局、彼がリリちゃんを仕事に誘ったのだって、彼の稼ぎになるからじゃない」
「エリカちゃんひどい!!!」
「確かにねずみ講とネットワークビジネスは違うわ。一番の違いは商品やサービスの販売を目的にしてるかってこと。実際に何も販売してなくて、お金の配当だけが目的になっていたらねずみ講と言われるわ。でもネットワークビジネスだって規制されているのよ」
「だから、美容サプリを販売してるって言ったじゃん! 水素っていう今はやってる栄養素が入ったサプリなの!」
「ちょっと……もう何から突っ込めばいいかわからないわね……」
ネットワークビジネスもクーリングオフできる
「とにかくエリカちゃんには関係ない。放っておいてよ!」
「ふん。反抗期の中学生みたいね。考えが足りないわ! あなた勧誘なんてして、ただでさえ少ない友達がまた減るわよ」
「さっきから失礼だよ!」
「ネットワークビジネスがトラブルになるのは、この勧誘って部分が大きいのよ。例えば待ち伏せしたり、何度も電話をかけたり、そうやって自分のまわりの人を勧誘するのは違法なの」
「そんなことしないよ!」
「実際にそういうトラブルが多いってことは、そこまでして勧誘しなきゃならなくなるってことでしょ? それに「◯◯円稼げる!」とか「必ず稼げる」って言ったり、マルチなのに「マルチじゃない」って言って勧誘するのも違法よ」
「だ、だからそんなことしないってば!」
「あなた、親兄弟や友達にそのよくわからないサプリ売りつけるの? それ本当に効果あるの?」
「あ、ある……ような気がするもん……」
「みんな、そんなわけのわからないサプリを売りたいって言ってひょこひょこ勧誘されに来てくれるわけ?」
「いきなりじゃ驚くかもしれないし、それは何かのついでに言うよ」
「はい、それ違法! 勧誘っていうのは会社名や勧誘目的であるってことを明らかにしなきゃしちゃダメなんですー!」
「うう……」
「ねえ、リリちゃん、悪いことは言わないわ。考え直して。ネットワークビジネスもクーリングオフできるわ」
「……しない」
「契約書を受け取ったのは今日ね? なら今日から数えて20日以内であれば、書面でクーリングオフできるの。通常のクーリングオフなら8日間なんだけど、ネットワークビジネスについては20日間認められているのよ」
「しないってば!」
「クーリングオフの期限を過ぎていても、途中でやめられるわ。その時、お金だって少しは返ってくるはずよ」
「エリカちゃん、そういうの余計なお世話っていうんだからね!」
本当に怖いネットワークビジネスのトラブル
「ネットワークビジネスのめりこんじゃっている人って最近結構いるのよね。それこそ人に迷惑をかけているのに、人を幸せにしていると思ってるケースもあるの。マインドコントロール的なところがあることをしっかり自覚してほしいわ」
「だって……本当に幸せになれるもん……」
「よくあるのは、例えば友達からすごくいいって勧められてやってみたら、実は何の効果もない詐欺的商法だったということ。自分も誘われて、人を助けるために勧誘したのに、後々「あんた騙したわね!?」という扱いをされて、友達関係を破壊したっていう話はよく聞くわ」
「……」
「ねえ、本当にいいものであればみんなに紹介して買ってもらえばいい話。自分が儲けるために人を無理やり巻き込んでいくなんておかしいのよ。手を出すべきじゃないわ」
「でも、今の仕事、これからも続けていけるかわかんないもん……」
「やっぱり汗水流して働いてそれでお金を儲けるっていうのが、基本的な人としての稼ぎ方というか、あり方だと私は思うわ。それに仲のいい友達であればあるほど、巻き込んだり、巻き込まれた場合に失うものも大きいわよ」
「うう……エリカちゃんは妖精じゃん。妖精にわかるわけないよ! 何を言われても私の気持ちは変わらないから! もう出てってよ! リーガルレッスンされたって、生活が変わったわけじゃないもん! もうエリカちゃんなんかいらない!!」
「リリちゃん……わかったわ……」
ハッとしてエリカちゃんの方を向くと、そこには誰もいなかった。でもこれでいいんだ。エリカちゃんは何もわかってない。私、絶対成功してみんなのこと見返すんだから! そのためにする努力だもん。何だってやってやろうじゃないの!
〈今回のまとめ〉
【1】 ネットワークビジネスって違法じゃないの?
きちんと価値のある商品・サービスを販売している場合、違法ではないわ。けれどその仕組みのせいでトラブルがとても多いの! 私はオススメしないわね。
【2】 ネットワークビジネスもクーリングオフできるの?
できるわ! 契約書を受け取った日から20日間はクーリングオフできるわ。期間外でも、途中で脱退することは可能よ!
【3】ネットワークビジネスのトラブルで何が一番怖い?
一番のトラブルは人間関係に大きなヒビが入るってこと。仲のいい友達であればあるほど、巻き込んだり、巻き込まれた場合に失うものも大きいわ!
【新刊情報】
この連載を監修しているアディーレ法律事務所の篠田恵里香先生の著書が刊行されます!
『ストーリーから学ぶ交通事故の示談金を受け取るまで』
リリコ(32歳)
小さなデザイン会社に勤める中堅デザイナー。基本的に他力本願。趣味はネイル、お酒(ワインと焼酎)、サイゼのお気に入りメニューは「ミラノ風ドリア」。例えれば、だらしない石原さとみ。