40代からの私
ポケット弁護士エリカちゃん第9回

親がいよいよ“終活”をスタート 子どもが覚えておきたい遺言書のあれこれ

親がいよいよ“終活”をスタート 子どもが覚えておきたい遺言書のあれこれ

流行にのって親が「終活を始める」と言い出した時、子どもとしてのっぴきならないのは遺言書の問題。遺産の分割は、きちんと法律的な知識に基づいて決めておかないと、後々大きなトラブルの元に……。アディーレ法律事務所の篠田恵里香(しのだ・えりか)先生によると、「どんなに仲のいい兄弟でも、愛情とお金が絡めばとにかく揉めます」とのこと……(!)。血で血を洗う争いになる前に、遺言書の基本知識を覚えておくことをおすすめします!

〈今回のポイント〉
【1】遺言書って必要?
【2】覚えておきたい遺言書の書き方
【3】遺言書の保管&開封に注意!

〈登場人物〉

ririko

リリコ(32歳)
小さなデザイン会社に勤める中堅デザイナー。基本的に他力本願。趣味はネイル、お酒(ワインと焼酎)、サイゼのお気に入りメニューは「ミラノ風ドリア」。例えれば、だらしない石原さとみ。

erika

エリカちゃん(永遠の30歳)
「六法全書」の妖精。本名はオピストコエリカウディア・スカルジュンスキィ。辛口で正論をバシバシ言うが、困っている人は放っておけない姉さんキャラ。例えれば、リカちゃん人形サイズの真木よう子。

日曜の夜にかかってきた母からの電話

数ヵ月にわたる離婚騒動も一件落着し、久しぶりにひとりゆっくりと家で過ごす日曜の晩。サザエさんをツマミに「家庭っていいな〜私も結婚したい〜(してたけど)」と缶ビールをすすっていたところ、携帯に実家から着信が。何事かと思って出ると母からだった。なんでも父がお風呂でぎっくり腰をやってしまって、素っ裸のまま救急車で運ばれたらしい。

すっかり気落ちした様子の母は、「お父さんのあの姿見て、私たちももうそろそろ終活を考えなきゃいけない歳なんだって思ったわ……」と声を詰まらせた。電話を切った後、なんだかしみじみ考えてしまう。う〜ん、確かに私も32歳になったし、親だっていつまでも若くないんだよなぁ……。

大した財産なんてないけど、遺言書って必要?

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「はあ……」

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「なあに? そのため息。今の電話、気になってるの?」

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「ああ、エリカちゃん帰ってたんだ。まあね。親の口から終活って言葉が出るのって、結構くるものがあるね」

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「そうね〜。けれど、順当にいけば親は子を残して先に亡くなっていくものだし、特に遺産なんかの問題は子どもたちが揉める原因になったりするから終活って大事よ」

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「そっか。まあ、うちは昔から兄とはケンカしたことないくらい兄妹仲いいからそのへんの心配はないと思うけど……」

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「甘いわ!! どんなに仲がよくても、お金の問題はとにかくグッチャグチャに揉めるケースが多々あるのよ!!」

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「グッチャグチャ……(怖)」

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「そのために終活、なかでも遺言書をきちんと書いておくことは大切なの」

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「な、なるほど……。うちには大した財産なんてないし、遺言書って超お金持ちぐらいしか実際のところ必要じゃないと思ってた……」

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「他人事じゃないわよ〜。今の時代、突然事故に巻き込まれたり、病気になったりすることだってあるから、30代や40代でも遺言書を書いておくのはおすすめよ。遺言書は15歳以上なら誰でも作れるわ」

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「もう自分の遺言書も書いた方がいいってこと……!?」

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「そうよ。だいたいの場合、遺産は遺された人たちで分けなきゃいけないものだから、遺す財産がある人はみんな書いとくべきなのよ。それに何度も書き直しができるし、もっと手軽に書いてほしいわね」

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「え〜でも難しそう。それこそ法律とか、専門的な知識が必要なんでしょ?」

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「遺言書には種類があるの。自筆証書遺言公正証書遺言秘密証書遺言の3つよ」

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「ふむふむ」

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「まず、若い人におすすめなのは、自筆証書遺言。これは自筆で書くタイプのもので、費用も時間もかからない一番手軽なものよ。ただし日付や押印がなかったり、内容に不備があったりすると効力がなくなってしまうのでそこは注意ね」

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「開けてみて効果なかったらヤダな〜」

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「そういう人におすすめなのが、公正証書遺言。リリちゃんのご両親はこちらがいいんじゃないかしら。これは公証役場で、公証人と証人の立ち会いの上、内容を確認しながら作るタイプのものよ。作った遺言書も原本を公証役場で保管してくれるから安心よ。高齢の方や、しっかりした遺言書を作りたい人はこれね」

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「でもこれって、他人に遺言書の中身見られちゃうよね!?」

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「それがイヤなら秘密証書遺言ね。これは自分で作った遺言書を公証役場に持って行って、公証人と証人に遺言書が間違いなく本人のものであるというお墨付きをもらっておくものなの。ただ、これも内容に不備があると効力なくなっちゃうんだけど」

法律的にOKな遺言書の書き方

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「さっきから内容に不備があると効果なくなるって、一体どうしたらいいの? 結局何が必要なの!?」

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自筆証書遺言の場合は、全文、日付、氏名を自筆で書いて、押印するのがマスト。公正証書遺言印鑑証明や戸籍謄本、証人も2人必要ね。あとお金もかかるわ」

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「え……公正証書遺言ってめんどくさい……証人って誰にお願いすればいいの?」

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「未成年や相続予定の人はNG。配偶者や直系の血族もダメね。法律的な相談にものれるから弁護士や、主治医にお願いするのがいいんじゃないかしら」

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「なるほど〜」

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「最近では遺言書にただ「◯◯に××を遺す」という情報だけ載せるんじゃなくて、感謝の言葉やメッセージを書く人が多いわね」

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「それいいね〜感動的!」

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「それだけじゃなくて、遺産分割の理由を盛り込めるっていうのも大きいわ。こういう理由で◯◯に××を残したんだってわかれば、揉めづらくなるでしょ」

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「確かに……」

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「もっと言えば、遺言書を作る前にきちんと相続する人たちと話し合うこと私はおすすめしてるわ。いい遺言書を遺せば争いも起きなくなるのよ」

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「そっか。みんなで事前に納得した遺言なら、後から揉めなくて済むね」

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「私にはこれだけ財産があって、こういうふうに分けたいと思ってるということを記載して、みんなが同意した上での遺言書がベストの形じゃないかしら。事前の話し合いの上、財産をきちんと明確に記載して、メッセージなんかも書いてあるものがいい遺言書だと思うわ」

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「なるほど。ちなみに遺言書って財産についてしか書いちゃいけないの?」

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「そんなことないわ。遺言書には基本的に何でも書けるわよ。それに法的な効力が生じるわけではないけれど、例えば葬儀の仕方の指定や、それこそ「お前たちこういうふうに生きていってくれ」的な熱い思いも書いてOKよ」

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「遺言書に書いてあることって、守らなきゃいけないんだよね……?」

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「それも絶対ではないわ。相続人全員で協議してみんなの同意があれば、遺言の内容と異なった遺産分割も認められるの」

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「でもさ、揉めちゃったら実際に分けるのが不可能になったりしない?」

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「そんな時のために、遺言執行者を立てるのをおすすめするわ」

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「遺言執行者……? なんか秘密組織のエージェントっぽいね……」

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「リリちゃん、そのしょうもない中二病的な感性、イタいわよ」

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「う、うるさいな!」

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「遺言執行者っていうのは、遺言の内容を実行するために必要な手続きをしてくれる人のことよ。法律的な知識が必要になってくるから、弁護士にお願いするのがいいと思うわ」

遺言書の保管・開封の仕方

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「ちなみに、父親の遺言書をいざ開封してみたら、全財産を愛人にあげますって書いてあったなんてこともありがちだけど、そもそも妻と子どもは法定の相続人だから、本来の相続分の2分の1は保証されるわ」

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「どういうこと?」

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「つまり遺産が1000万円あった場合に、本来妻には500万円、子どもが2人いた場合、250万円ずつ支払われるの。ところが父の遺言には全額愛人にあげると書かれてた。じゃあ、妻と子どもたちはもらえないのかというと、そうではなくて、本来の相続分の2分の1、妻は250万、子どもたちはそれぞれ125万円ずつ、遺留分という形で保証されるのよ」

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「ふむふむ。愛人に全額持ってかれるなんてたまったもんじゃないもんね!」

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「ただし、遺言の存在を知ってから1年以内に遺留分があります!と主張する必要があるのよ」

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「なるほど。でもさ、そう考えると遺言書一つで全財産相続できちゃったり、もらえるお金が半額になったり、これは揉めちゃうよな〜って感じだね。遺言書をどうやって保管しておくかとか、どうやって開けるかも大事そう……」

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「そうなの! リリちゃん、離婚協議で鍛えられたのかしら、いいところに気がついたわね」

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「……伊達にバツイチじゃないよ(涙目)」

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「まず、そもそも書いた本人が保管しておく自筆証書遺言の場合、本人の死後発見されないという危険があるわ(笑)。だから誰か信頼できる人に託したり、貸金庫に保管したりしておくのは手ね」

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「信頼できる人かあ……」

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「さっき言った遺言執行者を立てて預けておくと、より安心よね。相続人に預けるのは書き換えられちゃったりする可能性もあるからおすすめしないわ。まあ、書き換えたことがバレた場合、その相続人は相続の資格自体を奪われるんだけどね」

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「うわ〜書き換えちゃうってエグい……」

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「遺産相続って、本当に予想以上に骨肉の争いになりがちなのよ。まあ、一番安全で確実なのは公正証書遺言にして、公証役場で預かってもらうことね」

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「ふむふむ」

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「それに自筆証書遺言の場合、開封にも注意が必要よ。開封するのに家庭裁判所で検認する必要があるの。検認をへずにうっかり開封しちゃうと5万円以下の過料を科される可能性があるわ」

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「うちの親には公正証書遺言をおすすめしとく……」

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「とはいえ、勝手に開封しちゃったからといって、遺言書がチャラになるわけじゃないわ。本人が書いた、法的にしっかりしたものであれば有効になる可能性は高いわね」

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「そうなんだ。私見つけたらうっかり開けちゃいそうだから、ちょっと安心」

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「リリちゃんならやりかねないわね。それにしたって、お母さんが終活を考えてるタイミングは、遺言書を作るいい機会よ。日本人はどうしても「まだお父さん亡くなってないのに遺言書の話なんて不謹慎!」って考える人が多いんだけど」

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「……エリカちゃん、もしかして、揉めた経験があるの?」

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「私、お風呂」

そう言ってエリカちゃんはそそくさとお風呂に行ってしまった。どうやら図星だったみたいだ。エリカちゃんも意外と苦労してるんだな〜。ともかく、父の容体も心配だけれど、命に別条はない今だからこそ遺言書の話、してみようかな。

〈今回のまとめ〉
【1】遺言書って必要?
遺産相続はとにかく揉めるケースが多いわ! 老いも若きも遺言書は作っておくべき! 自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類から、自分の状況に合ったものを作って。おすすめは公正証書遺言よ。
【2】覚えておきたい遺言書の書き方
自筆証書遺言の場合は、全文、日付、氏名を自筆で書いて、押印するのがマスト。公正証書遺言は印鑑証明や戸籍謄本、証人も2人必要よ。何より遺言書を作る前に、本人と相続人で話し合いをすることが大事!
【3】遺言書の保管&開封に注意!
公正証書遺言の場合、公証役場で預かってくれるわ。自筆証書遺言や秘密証書遺言の場合は、信頼できる人や遺言執行者に託したり、貸金庫に保管しておくというのは手ね。また、自筆証書遺言は開封する際にも家庭裁判所の検認が必要だから注意して!

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