日本人の60%が抱えている「疲労」。なかでも厳しい疲労に晒されているという35~45歳の女性には、どんな疲労対策が有効なのでしょうか。今回は、疲労に負けない体をつくる「食」についてご紹介。最新の疲労研究から明かされた、究極の疲労回復フードを『すべての疲労は脳が原因』(集英社新書)著者の梶本修身(かじもと・おさみ)医学博士が解説します。
栄養ドリンクに疲労回復効果はない?
――どうしようもなく疲れが溜まってくると、まっ先に栄養ドリンクに手が伸びてしまいます。
梶本修身先生(以下、梶本):結論からいうと、栄養ドリンクにはみなさんが期待しているような疲労回復効果はありません。栄養ドリンクには、カフェインと微量のアルコールが配合されていることが多いのですが、カフェインの覚醒作用とアルコールの昂揚感で、疲労が軽くなってように感じるだけ。今のところ、栄養ドリンクの成分の中に明確な疲労回復効果が証明されているものはないんです。
徹夜でプレゼン用の資料をつくるとか、テスト勉強の直前に気合いを入れるなど、一時的な「目覚ましドリンク」として使うなら問題ありませんが、「疲れた……」が口グセの人が栄養ドリンクを常飲し、疲労をマスキングするのはおすすめできませんね。
――夏バテ対策のうなぎや、スタミナ食といわれる焼き肉などはどうですか?
梶本:確かに、日本が慢性的な栄養不足に悩んでいた時代には有効だったのでしょう。しかし飽食の現代では、脂肪分・カロリーともにリッチなウナギや焼き肉などは逆に消化器官、そして消化吸収をつかさどる自律神経に負荷をかけてしまう可能性があります。疲労を悪化させる心配の方が大きいです。
高価なウナギよりコンビニのサラダチキン
――科学的に疲労軽減効果が証明されている食べ物はあるのでしょうか?
梶本:あります。産官学連携で行われた抗疲労成分を明らかにする実験で、社会的に疲労軽減効果が期待されている23種類の食品に含まれる成分を評価しました。このうち、科学的に疲労感と疲労を両方抑制する成分としてわかったのは4種類。クエン酸、カルニチン、コエンザイムQ10、そしてダントツの疲労抑制効果を示したのが鶏の胸肉に多く含まれている「イミダペプチド」という成分でした。
――鶏胸肉は、高タンパク・低脂肪食材としてダイエットなどでは重宝されていますが、疲労軽減効果があるというのは意外でした。何か理由はあるのですか?
梶本:渡り鳥は、長時間何万キロもの距離を飛び続けますよね。鳥たちの強靭なスタミナを支えているのは、羽を動かす胸の筋肉に含まれる大量のイミダペプチド。鶏は家畜化されてはいるものの、野生の渡り鳥と同じようにイミダペプチドを胸肉に含んでいるのです。鶏以外だと、海を回遊するマグロやカツオなどの大型魚にも含まれています。
――イミダペプチドを効果的に摂取する食べ方を教えてください。
梶本:1日あたり200ミリグラムのイミダペプチドを摂ること。これは、毎日鶏の胸肉100グラムをとればクリアできます。最初は 2週間続けてみてください。イミダペプチドは加熱にも強いので、鶏肉は蒸してもゆでても焼いてもOK。ゆで汁などはスープにすれば、余すことなく有効成分を摂ることができますよ。
調理をするのが面倒くさい、忙しくて時間がないという人は、コンビニなどで売られているサラダチキンが便利です。最近は、ハーブやスモークなどさまざまな味が売られているので飽きずに食べることができると思います。
胃下垂の女性は疲れやすい
――逆に、疲労を蓄積させやすい食べ物や食べ方はありますか?
梶本:消化吸収に時間がかかり、自律神経に負担をかける食べ物や食べ方ですね。脂っこい食べ物や、ダラダラ食いはやめましょう。
もうひとつ私が指摘したいのは、女性に多い「胃下垂」。「胃下垂は太りにくいからうらやましい」とよくいわれますが、通常の人よりも胃に負担がかかるため、消化吸収をコントロールしている自律神経を疲弊させやすい体質ともいえます。食後は、胃の下に溜まっている食べ物をできるだけ早く流してあげることが大切で、可能なら体を右下にしてしばらく横えていると効果的です。
(江川知里)