2016年は同性カップルの“結婚”を認める自治体や企業が相次ぐなど、LGBTに関するニュースが増えました。まさに「LGBT元年」とも呼ばれる今、「新しい!」と話題になっているLGBTサイトがあります。それは「やる気あり美」。「お坊さん座談会 ~仏教的にLGBTってどうなのか、聞いてきました~」「ゲイの井戸端会議にノンケが立ち会ってみた」など、これまでのLGBTメディアとは一線を画するポップでユニークなコンテンツを配信しています。
「やる気あり美」とは何なのか? 運営メンバー全員がLGBTという組織は、どんな意図でどんなふうに運営されているのか? 代表の太田尚樹(おおた・なおき)さんに聞きました。
「新宿二丁目やLGBT団体には馴染めない」がスタート
――「やる気あり美」はどういうメンバーで構成されているのですか?
太田尚樹さん(以下、太田):広報担当者や編集者、アーティストなど、メディアに関わっていて、情報を発信するのが好きなメンバー5、6名で作っています。
――そもそも、どういったきっかけで「やる気あり美」が立ち上げられたのでしょう?
太田:きっかけは大きく分けて二つです。一つ目は、多くのLGBT関連団体が届けたいメッセージに、当事者の自分でも興味が持てなかったからです。これじゃノンケの人だともっと興味がもてないだろう、と。届けたいメッセージは素敵でも、情報として心地よさがなくて、届きにくいことに課題感をもちました。
二つ目は、自分の居心地のいいコミュニティが見つけられなかったこと。僕は高校生の頃、ゲイであることに悩んで、めちゃくちゃ調べて、藁にもすがる思いで新宿二丁目やNPO法人に飛び込んだんですよ。でも、両方とも僕には合わなくて。「俺の行き場って、すげえアンダーグラウンドか、すげえマジメか、どっちかしかないの?」とショックだったんです。
その話を身近なゲイに思い切ってしてみたら、「マジ、それだよね!」「どこ行っても合わないよね」と意外と共感してもらえることが多くて。それで、1年くらい前に、みんなでWEBサイトとかやってみる?となったんです。新宿二丁目っぽくもなくて、ザ・人権運動って感じでもない、情報発信者になってみよう、と。
コンテンツ作りの基準は「面白くて気づきがある」かどうか
――「やる気あり美」のコンテンツは「そう来るか!」と膝を打つようなものが多くて、最初に拝見した時は驚きました。企画はどのように作られているのですか?
太田:最近は更新が止まっているんですが(笑)、月1回の企画会議で決めています。その際「啓蒙性とエンタメ性のバランス」を判断基準にしていて、面白さ第一でポンポン企画を出しつつ、頭のどこかで「それって結局、何が伝わるんだっけ?」と考えるんです。どちらが欠けていてもボツになります。
企画はタイトルやビジュアルから考えることもありますね。たとえば、「お坊さん座談会」はビジュアルありきでした。記事にはお坊さん二人と僕の写真が掲載されているんですが、当時の僕は金髪で身内に「バケモン」と呼ばれていたんです(笑)。だから、「お坊さんと並んでみると面白いんじゃない?」というところから始まったんですよ。
――「ノンケ男性の思わせぶりな一言」というGIF動画も掲載されていますよね。
太田:メンバーの一人に井上涼というアーティストがいるのですが、むちゃくちゃ忙しい男で、「何だったらできる?」と聞いたら、「GIF動画ならできる」と。完成した時は、「おまえの妄想詰め込んでんじゃねえよ!(笑)」と大笑いしたんですけど、あれ、実は腐女子の方から人気があって、みなさまからいまだにリツイートされ続けています。
そういうのを、最近では「コンテンツを消費する」と言いますよね。でも、楽しみながらLGBTを理解して、愛着を持ってもらえるならいいんじゃないか、と。
もっとLGBTに愛着を持ってほしい
太田:今、多くのLGBT系団体にとって、「理解されること」が大きなゴールになっています。でも僕は、「理解」と「愛着」は別モノだと考えていて。例えば、長く付き合った大親友でも、完全に理解しているかというとそうじゃないじゃないですか。
「理解してもらおう、知ってもらおう」というのはとても重要なことなんですが、どこの団体も右へならえでは、不十分だと思います。「理解」と「愛着」を両輪として、浸透させていくべきなんじゃないかな、と。現状だと、LGBT系の人で愛着が湧くのってマツコ・デラックスさんくらいじゃないですか。「やる気あり美」は、もっとLGBTに対して多様な愛着を持ってもらいたいな、ということで続けています。
――その手段がコンテンツということなんですね。
太田:人のあり方や意識を変えるのって、説教じゃ到底無理だと思うんですよ。「差別は悪いよ、だからやらないでね」って、ただ説き伏せるのは難しい気がします。認識を変えるのは、感動的な体験だと僕たちは思っています。黒人差別の意識が日本でほとんどないのって、もちろん多面的な不断の努力があってこそだと思うんですが、マイケル・ジャクソンをはじめとしたアーティストの力が大きいですよね。
同じように、人の心を動かすコンテンツを作りたい。ありがたいことに、記事を読んだ他の団体さんやノンケの方から、いいね!とお言葉をいただくことが多いので、今後もいい企画を考えていきたいと思っています。
――今後の展望を教えてください。
太田:はい。この1年間、ゆっくりと船を漕ぎながら向かうべき方向を考えていたんですが、「LGBTとその支援者が支え合う社会」ではなく、「どんなセクシャリティに対してもポジティブな人同士がつながれる社会」にしていきたいと思っています。「オトコ」と「オンナ」と「LGBT」が互いに理解し合っている、というよりも、「自分らしいセクシュアリティのあり方でいいよね」という人が肩を組んでいるようなイメージですね。やる気あり美は、そういうコミュニティの象徴になっていければと思っています。
例えば、「夢も働く気もない東大卒男子」とか、「イケメンで家事もできる夫を欲しがっている超バリキャリ女子」とか、いれば仲間になってほしいなと思っています。「男子たるもの夢を持たなきゃいけない」とか「女子は仕事だけじゃダメ。かわいくキメてなきゃいけない」という同調圧力がしんどいのって、LGBTと似てるなと思いますから。LGBTが個性のひとつとなるような未来を目指していきたいですね。
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