このたび私たちは、「ウートピ図書館」を開館することにいたしました。 ここは、皆様の寄贈により運営をおこなう私設図書館です。ウートピの主な読者層は、人生の分岐点に立つアラサーの女性。読者の皆様がもっと自由に、もっと 幸福に、人生を謳歌するための杖となるような本を収集すべく、ここに設立を宣言いたします。
失恋した時に支えてくれた本、仕事で失敗した時にスランプを乗り越えるヒントを与えてくれた本、そして今の自分の血となり肉となった本などなど。作 家、ライター、アーティスト、起業家、ビジネスパーソン……さまざまな分野で活躍されている方々の「最愛の一冊」を、人生を模索するウートピ読者のために エピソードと共に寄贈していただきます。
今回は、ライターの小沢あや(おざわ・あや)さんです。
『かわいい夫』 山崎ナオコーラ (夏葉社)
結婚するかどうか、迷っている人
この夏、どうやら私は入籍をするらしい。らしい、というのは、結局入籍日まではどうなるかわからないからだ。自分のことだからわかるが、直前になって「やっぱりやめる」などと言い出しかねない。結婚については、少しばかりネガティブな感情もあった。このままではいけない。好きな人と過ごす生活はよいものだ、ということを知り、結婚に対する認識を改めなければならないと思った。
そのために、まずはよそ様の事例と幸せを浴びたい。最初に、twitterやMixChannelで若い子のカップル共同アカウントを眺めてみた。10代総オノヨーコ状態がそこにあった。私は「彼との2ショット自撮りをネットにアップすることは一生ないだろうな」という気づきを得て、そっとアプリを閉じた。
芸能人カップルのブログも読んだが、ぺこ&りゅうちぇるだと甘過ぎるし、フジモンとユッキーナだと重過ぎる。空腹時に、いきなりEggs ‘n Thingsのパンケーキや、ラーメン二郎を詰め込むようなものだ。うどんのように、するりっと喉に通せるような優しいものがいい。
自慢にならず、だれも傷つけない“のろけ”
そんな折に手に取ったのが、この『かわいい夫』だ。タイトルの通り、筆者・山崎ナオコーラさんの“かわいい夫”との日常が綴られているこの本は、「自慢にならないように、誰かを傷つけないように」という気遣いが随所に散りばめられている。
“夫の収入は世間一般に比べるとかなり低い。”という書き出しは、初見ではぎょっとする人もいるかもしれない。しかし、読み進めるにつれて山崎さんが書店員という夫の仕事に心から敬意を払っていることが伝わってくる。
山崎さんの小説家としての収入は、書店員の夫のそれよりも多い。この本には、妻が一家の大黒柱である、ということへの他人からの反応も描かれている。他人の夫婦関係にまで誰に迷惑をかけるわけではないのに”こうあるべき”という重圧があちこちに漂っているのには困ったものだ。社会の寛容を祈るほかはない。
結婚とは、何か?
“私は昔、結婚というのは、自分にぴったりの、正解で唯一の人を探し出してするものだと思っていた。しかし、今はそうは思わない。たまたまそばにいる人を、自分がどこまで愛せるかだ。”
独身のうちにこの言葉に出会えたことにより、私はとてもトクをした気分になった。相手の魅力を引き出すのにも、愛と思いやりが必要だ。それを兼ね備えている山崎さんもまた、かわいい妻である。かわいい夫というタイトルではあるが、ここにはひとつのかわいい夫婦のかたちがあった。
私はまだ、本当に結婚するかはわからない。でも、以前より結婚を身近に感じ、「悪くないかも」と思い始めている。