セクシーな女性モデルを多数はべらせ、歌う男性アーティスト――そんな内容のミュージック・ビデオに、読者のみなさんは飽き飽きしていないだろうか? 実は、昨年から今年にかけ、海外で従来の男女の役割を入れ替えるミュージック・ビデオが続々登場している。
半裸の男性モデルをはべらせるジェニファー・ロペスの『アイ・ラ・ヤ・パピ』
第一に紹介するのは、今年3月12日にユニバーサル・ジャパンからリリースされたジェニファー・ロペスの新曲『アイ・ラ・ヤ・パピ』。こちらのビデオは、プロデューサーが提案する新作ミュージック・ビデオの企画に対し、ロペスの友人らが「(ロペスが)男だったら、とりあえず周りに水着姿の美女をはべらせる企画になるよね」と笑い飛ばす、確信犯的な場面からスタート。
男性アーティストのミュージック・ビデオを皮肉る内容と分かっていても、ところどころ無意味に挿入されるイケメンモデルのアップや、ロペスらのゴージャスな服装と男性モデルらの半裸のコントラストに違和感を覚えずにはいられない。女性であっても、自身がいかに男性目線のエンターテインメントに慣れているのかを実感させられる内容だ。
過激すぎて削除される事件も起こった『ブラード・ラインズ』のパロディー
第二に紹介するのは、昨年大ヒットしたロビン・シックの楽曲『ブラード・ラインズ』のパロディー・ビデオ。キャッチーなメロディーで昨年全米1位を記録した『ブラード・ラインズ』だが、レイプを連想させる歌詞や、女性モデルを“物”扱いするミュージック・ビデオの描写に非難が高まっていた。レスポンスとしてニュージーランド・オークランド大学の学生らによってつくられたこちらのパロディーが秀逸だ。
男性モデルにバイブをくわえさせたり、顔に生クリームをかけたりなど、過激な表現も多く、一度はYouTube上からビデオが削除される「事件」も起こったが、「トップレスのモデルが踊る元ネタのビデオが削除されず、こちらのビデオだけ削除されることは何事か」との批判を受け、現在はYouTube上に再掲されている。
ジェンダーの境界をぼかすイングリッド・ミカエルソンの『ガールズ・チェイス・ボーイズ』
最後に紹介するのは、1989年に大ヒットしたロバート・パーマーの楽曲『シンプリー・イリジスティブル(Simply Irresistible)』にオマージュをささげた、シンガー・ソングライターのイングリッド・ミカエルソンの新曲『ガールズ・チェイス・ボーイズ』のビデオ。衣装も構成もパーマーのビデオを忠実に再現しているのだが、全員女性だったバックダンサーが、こちらのビデオでは全員男性になっている。
後半に進むにつれて男性ダンサーの一部が女性ダンサーにすり替わり、既存のジェンダーの境界をぼかす内容だ。
「強い女性」が売れる? 海外エンタメ市場に地殻変動
これらのビデオが続々とリリースされている背景には、海外のエンタメ市場全体の大きな地殻変動がある。昨年12月には、フェミニストなイメージを強く打ちだしたビヨンセのセルフタイトル・アルバム『ビヨンセ(Beyonce)』が空前の大ヒット(参考記事:ビヨンセが楽曲の宣伝にフェミニズムを利用? NEWアルバム『Beyonce』が海外で賛否両論)。今年に入ってからは、男女の役割分担を踏襲する典型的なプリンセス・ストーリーから大きく転換したディズニーの新作映画『アナと雪の女王』が興行収入11億ドルを突破し、歴代アニメーション映画興行収入第1位として記録を更新し続けている(4月21日現在 Box Office Mojo調べ)。どうやら、「強い女性」像を前面に押し出すエンタメ作品や、古典的なジェンダー観をくつがえす作品が売れに売れているようなのだ。
このトレンドは続くのだろうか? そして、はたして日本にも波及するのだろうか?今後もこの流れから目が離せない。