何かと注目の若い女性の貧困。先日のNHKスペシャルではネットカフェで寝泊まりする母子が取り上げられ話題になっている。そこでネット上でも多いのが「生活保護を使ったら?」という疑問だ。実は、生活保護を利用できるのに、そのうち8割程度の人が生活保護を受けていないのが現状。(日本弁護士弁護士連合会「Q&A 今、ニッポンの生活保護はどうなっているの?」を参照)
どうしてなのか?よく言われる原因の一つは「生活保護を受けることは恥だ」というような社会的価値観。もう一つは“水際作戦”によって申請ができない、というケースだ。
1.水際作戦って何?
窓口で生活保護の申請をさせず、「水際」で阻止すること。書面で生活保護を申請されれば、法律に従って処理していかなければならないのが行政の業務。そこで、生活保護を受けさせたくない窓口は、いかに申請させないかが勝負になるのだ。もちろん、申請を受け付けないのも違法である。しかし、窓口での口頭のやりとりは通常証拠が残らない。そのため「水際作戦」が生活保護を増やさない手だてになってきた。
2.なぜ水際作戦をするのか?
市役所や区役所もお金の支出を増やしたくないということに尽きるだろう。生活保護費の負担は約3.8兆円(平成25年度当初予算)、地方の負担はその1/4だ。また生活保護を受けている人には支援をするケースワーカーという福祉職員を担当でつけることになっており、生活保護世帯が増えたことでその人件費もかさむようになっている。
また、最近は一般にも「社会保障費を削らなくては」「不正受給はけしからん」「働けるのに働かない怠け者がいる」といった認識を持つ人も多い。その結果、社会保障費を削ってくれそうな国会議員や地方議員が誕生。議会でも「生活保護費をいかに削るか?」ということが議論されるようになっている。そうした議会の方向性は役所にも影響を与え、「生活保護費を削る→生活保護の水際作戦」という流れを後押ししている。
3.水際作戦って具体的にはどういうこと?
水際作戦の実態には、大きく2つの種類がある。一つは「◯◯だから生活保護は受けられませんよ」と伝えるケース。もう一つはあからさまに「受けられませんよ」とは言わないが、色々と言うことで自分から諦めさせるケースだ。
前者は「住所がここの市(区)にないから受けられない」「借金があるから受けられない」などと言うケース。これ自体違法な説明だ。(詳細は「窓口の不当な水際作戦に打ち勝つ!知っておきたい生活保護申請ノウハウ」 を参照して欲しい)
それに対してより巧妙なのが後者だ。例えば「働けるんだから頑張りなさい」「親兄弟に連絡がいくのは嫌でしょう」「色々揃える書類があるから後日揃えてきてください」等、一見まっとうなことを、しかも一般市民にはよく分からない役所用語を用いて説明する。そうすると、「あぁ、生活保護を受けるのは大変だ」「そうそう簡単に受けられるものではないんだ」と思って諦めてしまう。
4.生活保護を受けるのは悪いこと?
生活保護に抵抗感のある人もいるだろう。しかし、考えてみて欲しい。こうした貧困にあえぐ若い女性が多くいる社会で、この先やっていけるのだろうか?
国際通貨基金(IMF)は「格差が縮小するとより高速で永続的な成長が促される」と報告している(2014年4月23日付け日本経済新聞)。つまり、貧困にあえぐ人がいるのは社会全体の成長への損失なのだ。
生活保護費自体は増えていくだろう。現在、生活保護受給者のうち45%は高齢者だからだ。つまり、生活保護費増大の大きな部分は高齢化の影響。また、働ける世代の受給者が増えたと言ってもその半分以上は50歳以上の人だ。全体から見れば若い女性が生活保護費を使っている割合は非常に小さい。若い女性の貧困がここまで広がっている現実からすれば、もっと活用されていいだろう。女性が活躍できる雇用や子育て支援の充実と同時に、現状としては唯一、活用可能な生活保護をステップにして次につながっていけば、将来の社会の活力につながるのではないだろうか。