「Call Me Kuchu」イベントレポート

同性愛が非合法化されたウガンダ 映画「Call Me Kuchu」から考えるセクシュアル・マイノリティの人権

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同性愛が非合法化されたウガンダ 映画「Call Me Kuchu」から考えるセクシュアル・マイノリティの人権

6月13日、アメリカ・フロリダ州オーランドで発生した銃乱射事件では100人以上が死傷しました。その被害者の数もさることながら、過激派組織「イスラム国(IS)」に忠誠を誓う発言をしていたとされる犯人の選んだ標的が、同性愛者の集うナイトクラブ「パルス」だったことも大きく報道されました。

アメリカの連邦最高裁判所が同性婚を憲法上の権利として認めるとする判断を示したのは、昨年6月26日のこと。それだけに、1年も経たないうちに起きたオーランドの悲劇が人々に与えた衝撃は大きなものでした。

「反同性愛法」が議会で可決されたウガンダ

オーランドの事件から1週間後の6月19日、アフリカ中部の国・ウガンダにおける同性愛者たちの生きざまを描いたドキュメンタリー映画「Call Me Kuchu」(2010年)の上映会が、セクシュアル・マイノリティを主な対象とした講座を開催する「パフスクール」の主催で東京・表参道の東京ウィメンズプラザにて開かれました。

ウガンダでは2014年、同意に基づく同性愛行為の一部に関して刑罰を強化した「反同性愛法」が発足しました。新たな「反同性愛法」では、「重篤な同性愛」つまり障害者や未成年者への同性間性交渉や、度重なる同性間性行為に終身刑を課すとしていました。また、同性愛者に家を貸しそのことを当局に通知しなかった者には懲役5年が科され、さらに同性愛者だと知りながら身内を通報しなかった者や、LGBTの支援活動など「同性愛を広める」行為も処罰の対象とされている面が、これまで同性間の性行為のみを処罰の対象としていたことに比べて、LGBTの人々の社会的生命をより危うくさせる側面を持つものでした。

当初は、同性間の性行為に、最高刑で死刑を課すといったセンセーショナルな法案が検討されていたこともあり、こうした内容からなるウガンダの「反同性愛法」は、基本的人権を脅かすものとして、国際社会から非難を浴びることになりました。ウガンダに経済支援をしている欧州諸国の中には援助の打ち切りを行う国もあらわれ、国内は混乱。成立から半年ほどで「採決の際に不備があった」ことを理由に裁判所は同法を無効としました。

「反同性愛法」が保守派の議員により最初に提案されたのは2009年。今回上映された「Call Me Kuchu」の中では、それ以前からセクシュアル・マイノリティに対する差別や偏見と闘ってきたウガンダの人権活動家、デイビッド・カトーという人物の姿が描かれています。

セクシュアル・マイノリティのプライバシーが新聞で晒される社会

自身も同性愛者であるデイビッド・カトーは、偏見と差別に苦しみ一時は故郷ウガンダを去りますが、セクシュアル・マイノリティである「Kuchu(クチュ)*」の人権のために闘おうと決意して帰国。支援者や活動家の仲間たちと共に活動を続けていました。しかし、やがて地元新聞に自分たちの実名や顔写真、住所が掲載されるようになります。皮肉なことに新聞は飛ぶように売れ、掲載をやめる気配のない新聞社を相手に訴訟を起こしたものの――。

*ウガンダで“オカマ”や“ヘンタイ”を意味する言葉。セクシュアル・マイノリティに対して蔑視的に使用される。

作中には、「私が私であること」を必死に守ろうとする当事者や支援者と、その一方で地元新聞の編集長やセクシュアル・マイノリティの排斥を訴えるためにアメリカからやってきた白人のキリスト教原理主義者などLGBTを認めないさまざまな人物も登場します。権利を脅かされる側と脅かす側のコントラストを鮮明に映し出しながら、事態は最悪の結末を迎えます。

ウガンダの人権擁護活動家デイビッド・カトー氏(左)/(C) 2010 Katherine Fairfax Wright

ウガンダの人権擁護活動家デイビッド・カトー氏(左)/(C) 2010 Katherine Fairfax Wright

大統領が“人気取り”のために同性愛への罰則を拡大

同作品は、現在、アメリカ版のNetflixで配信されている他、日本国内でもさまざまな映画祭で上映されてきました。今回の上映後には、トランスジェンダーの当事者でLGBTの若者支援を行うアクティビスト、そして同作品の翻訳スタッフの一人である遠藤まめたさんが登壇し、ウガンダのホモフォビアの問題について考察しました。

「2014年以前にも、ウガンダにはもともと男性同士の性行為を禁じ、懲役刑を科す法律がありました。これは1962年までウガンダを植民地にしていたイギリスが持ち込んだものです。世界中に同性愛を禁止する法律を持つ国はたくさんありますが、その多くが植民地支配を受けていた時代に、欧州によって持ち込まれた法律に由来しています」

遠藤さんによると、1986年からウガンダを率いるムセベニ大統領が、支持率が下がったことを受けて、人気取りのために罰則を拡大し、最高刑を終身刑まで引き上げる決断をしたと言われているそうです。

同性愛差別には、宗教的な要因もある

セクシュアリティの自由を権力によって制限することで、国民からの支持を得ようという思惑は、結果的に国際社会から反発を招くことになりました。時代の流れに逆らうような法律が可決された背景には、ウガンダ国内における宗教的要因もあったようです。

「ウガンダの国会議員がこうした法案を提出することになったのは、ウガンダ国内で布教活動を行っているアメリカのキリスト教原理主義者の宣教師が世論を扇動した結果とも考えられます。同性愛だけでなく中絶や進化論を認めない彼らは、セクシュアル・マイノリティの権利保護に傾いた本国ではもはや支持を得られなくなり、信仰心の厚いウガンダを新たなる活動のターゲットとして定め、国民のホモフォビアを煽っているのです」

ウガンダに限らずアフリカでは、セクシュアル・マイノリティに対する暴力や殺人、親族による矯正レイプ*といったヘイトクライムが後を絶ちません。その卑劣さを批判するだけでなく、その根本にある宗教や思想を理解することが必要なのかもしれません。

*矯正レイプ:性的指向を矯正させようとして行われる強姦のこと。親族が加害者になるケースもある。

悲しい出来事がある中でも、人々は声を上げ続けている

「オーランドの銃乱射事件も、『Call Me Kuchu』 で描かれているヘイトクライムも、根っこにはつながっていることがあります。今回のような事件があると、自分もまた、その場所にいたら殺されていただろうと思い、当事者たちは大きな衝撃を受けます。ヘイトクライムは今に始まったことではありませんが、そのような悲しい出来事がある中でも、人々は声を上げ続けて、現在のセクシュアル・マイノリティの権利保護の動きにつながっています。自分たちは、長い歴史につながって生きているひとりなのでしょう」

遠藤まめたさん

遠藤まめたさん

上映会の最後には、約30人の参加者によって作品の感想やオーランドの事件について語る時間が設けられました。「ヘイトクライムは標的とされたコミュニティ全体が被害者」「無知ゆえに、そのグループに対して排他的になってしまう可能性が高まる」「オーランドの犯人もまた抑圧を感じていたのではないか」など、活発な意見交換が行われました。

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