日本人の約60%が抱えている「疲労」。そのうち40%は「半年以上疲れが続いている」というデータがあります。抗疲労研究の第一人者で、『すべての疲労は脳が原因』(集英社新書)の著者である梶本修身(かじもと・おさみ)医学博士に、これまでの常識をくつがえす「疲労回復の落とし穴」について聞きました。疲れている女性をますます疲れさせる意外な要因とは?
疲れているのは体ではなく脳だった
――一言で疲労といっても、運動疲労やデスクワーク疲労、精神的な気疲れなどさまざまな種類がありますよね。これらは一体どこから来ているのですか?
梶本修身先生(以下梶本):たとえば長時間のランニングやゴルフをしたあとは、体がドッと疲れますよね。ところが、私たちが行った研究では4時間体に負荷を与える運動を続けても、じつは筋肉や肝機能にはほとんど影響しないことがわかっています。
ではどこを酷使しているのか。それは体ではなく「脳」。少し専門用語を交えていうと、「脳の自律神経*の中枢」(視床下部や前帯状回)なのです。運動をすると、呼吸、体温、心拍などが上がりますね。すると、これら人間の生体機能をコントロールしている自律神経の働きが活発になり、視床下部や前帯状回などに負荷がかかっていきます。結果、本来の自律神経の機能がうまく果たせなくなってくる……この「脳疲労」こそが、運動疲労をはじめ、デスクワーク疲労、気疲れなどすべての疲労の正体です。
*自律神経:呼吸、消化吸収、血液循環、心拍数といった生体機能を24時間調整している神経。自律神経の働きが悪くなると、さまざまな不調を引き起こす。
日中は休むヒマなしの脳
――なるほど。すべての疲れは、自律神経のオーバーワークから来ているんですね。
梶本:自律神経には、交感神経と副交感神経という2系統があります。簡単に説明すると前者が緊張へ導く神経、後者がリラックスへ導く神経です。この2つの神経が均衡を保っている状態がベストなのですが、交感神経に強く傾いてしまうことで疲労を蓄積しやすくなるんです。
――仕事をしている日中などは、集中・緊張の連続で、交感神経だけがフル活動しているような気がします。
梶本:仕事中は、どうしても交感神経を休めることが難しいですよね。たとえ一息つけるような時間があっても、スマホ社会の現代は絶えず情報のシャワーを浴び続けているような状態ですし。昼間は交感神経を休めるヒマがほとんどないような状態です。
気晴らしの運動や旅行は逆効果
――本来なら疲労の原因を取り除くことが一番いいのでしょうが、仕事や育児をやめるわけにはいきません。リフレッシュのために仕事帰りにスポーツジムに通ったり、休日に遠出をしたり、残業疲れをお酒でリセットしたりするのはどうですか?
梶本:あまりおすすめできないですね。これらの疲労回復説には科学的根拠はなく、かえって交感神経を優位にして疲労を悪化させるリスクのほうが高いです。
――脳疲労を悪化させない一番いい方法とは?
梶本:質のいい休息をとり、疲弊した脳を休めてあげることです。自宅に戻ったら部屋でゆっくりくつろぐのがベスト。感動も興奮もない状態が理想です。そこで、「気晴らしに」とゲームをしたりDVDを見たりすると、また交感神経が優位になって脳が疲弊してしまいます。リラックスへ導く副交感神経を優位にするためには、犬や猫のようにゴロゴロ寝ころび何もしないでいるのが一番ですね。
(江川知里)