5月16日、俳優の東出昌大さんと女優の杏さんが双子の女児を出産したことを発表。杏さんの父、渡辺謙さんも自身のSNSで喜びを明かしました。杏さんは現在年30歳で、今回が初めての出産。それだけでも初めてのことだらけで大変なのに、双子を授かったら……と考えると、おめでたいことながら不安がよぎるのも事実です。
杏さんの双子出産もさることながら、街を歩いていると双子用のベビーカーを押している人がちらほら。「最近なんとなく、双子が多いような……」と感じている人も少なくないかもしれません。事実、双子や三つ子などの「多胎児」の出生率は世界的に増加しています。
年間2万人の双子が生まれている
まずは日本の多胎児に関するデータを見てみましょう。
1960年の「人口動態調査」によれば多胎児の出生率は1%。しかし、その割合は徐々に増加、2005年には2.2%とピークに達します。そこからやや減少に転じ、2014年は1.9%。それでも約半世紀前の割合と比較すれば、約2倍も増加しています。
ご存知のように、日本の出産総数は減少傾向にあります。その一方で、双子の出生数は年間約2万人とほぼ横ばいをキープしているのです。
なぜ、双子の出生率が上昇しているのか? その理由は「不妊治療」にあります。不妊治療解禁の歴史を振り返りながら、数字を読み解いてみましょう。
排卵誘発剤と体外受精が原因?
まず、多胎児の増加が不妊治療によるものとされる理由は二つあります。その一つが、排卵誘発剤の使用。排卵誘発剤とは女性が排卵が見られず妊娠しづらい場合に内服薬や注射で排卵を促す方法。また排卵がある場合でも、人工受精の確率を上げるために用いられる場合もあります。これが日本で使用されるようになったのは1966年。さらに、1975年には注射剤の保険適用がなされました。
もう一つの理由は体外受精です。体外受精は精子と卵子を体外で受精させ、胎内に戻す治療法。複数の受精卵を胎内に戻すことで、妊娠する確率を上げるため、これが多胎児の増加につながると考えられています。
体外受精が日本で始まったのは1983年。結果的に多胎児の出生率が増加し、これを受け、1996年には体外受精で子宮に戻す受精卵の数に制限が設けられました。日本産婦人科学会が設けたルールは「年齢を問わず、胚移植は原則3個以内に制限する」というもの。
このルールにより4つ子の出産は減りましたが、双子や3つ子に関しては変わらず、2007年に日本生殖医学会が再度ルールを制定。以下のように年齢ごとに明確にルールを定めました。
・40歳以上で3個以内
・35歳以内で2回目以降の治療と35歳以上40歳未満は同2個以下
・35歳未満で1回目の治療では原則1個。
27人に1人が体外受精で誕生
なぜ、こんなにも厳密に「戻す受精卵」に関するルールが定められたかというと、多胎妊娠にはさまざまなリスクがあるからです。
日本の単胎出産による出産時期の死亡率はおよそ1000人に対し4人。しかし、これが双子となると死亡率は2倍に、3つ子になると約12倍になると言われています。また、死産だけでなく、「未熟児」「早産」などのリスクもあります。冒頭で紹介した女優・杏さんの場合も、その双子が未熟児だったことが、最近の報道でわかりました。
日本産婦人科学会の調査によれば、2012年に日本で生まれた体外受精児の数は3万7953人。前年と比べ、約5500人も増え、過去最多となりました。総出産数から計算すると、およそ27人に1人が体外受精で誕生した計算になります。
イギリスでは「母親が45歳以上」が一番多い
では、体外受精が日本よりも早く実施された国の多胎児事情はどうなっているのでしょうか?
1978年に世界で初めて体外受精児が生まれたイギリスでは、1000人に対し16人。1976年には1000人に9.6人だったのが、2011年にはピークを迎え16.1人になっています。またこの調査によれば、もっとも多胎児を出産していたのは45歳以上の女性。35歳から39歳で多胎児を出産した女性が1000人に対し約25人であるのに比べ、45歳以上では100人を超えます。
この理由については「高度な不妊治療を受けた結果」ではないかと予想されています。高齢出産を考える女性が不妊治を受ける可能性はかなり高いと言えます。日本でも体外受精が増加した要因として、やはり「晩産化」の傾向が挙げられています。
アメリカでは過去30年で78%増
また、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)の調査によれば、2014年のアメリカの双子出生率はなんと、1000人に33.9人。これは過去もっとも多い数字となりました。アメリカでも日本やイギリスのように多胎児の出生率は増加傾向にあります。1980年から2009年の間では双子出生率が78%も増加しているのです。
体外受精の浸透と、高齢出産の増加。このふたつの要因が加速すれば、日本でもさらに多胎児の出生率が上昇していく可能性があるでしょう。
(安仲ばん)