小説家・南綾子さんインタビュー

アラサー以降の友情は「ぬるま湯」くらいがちょうどいい 小説家・南綾子さんインタビュー

アラサー以降の友情は「ぬるま湯」くらいがちょうどいい 小説家・南綾子さんインタビュー

さまざまな局面で人生の岐路に立たされていることを実感する、アラサーという時期。それまで同じ電車に乗っていた友達が、“結婚”や”出産”という名の電車に乗り換える姿を目の当たりにする機会も多くなります。

みなさんはそれでもその友情、続けますか? それともーー?

ご自身の経験をもとに、婚活中のアラサー女性たちの心の機微を細やかに、そしてリアリティたっぷりに描いた小説『ぬるま湯女子会、38度(ときどきちょっと熱い)』(双葉社)を上梓した作家の南綾子(みなみ・あやこ)さんに、アラサー世代の友情について聞きました。

地方の友達との会話は、もはや“異文化交流会”

南綾子さん

南綾子さん


ーー南さんご自身は、それまでの友達との友情に、違和感を覚えたことはありますか?

南綾子さん(以下、南)
:そうですね。私は地方出身なんですが、地元では“30代独身”ってだけでマイノリティ扱いされてしまうんです。都内と地元では、同じ“独身”でも意味合いがまったく違います。それまで同じ立場だったのに、地元の友達とはもはや、“異文化交流会”なんです。本来、友達との時間は楽しみたいものですが、“異文化交流”は仕事っぽいスイッチを入れなければならず、純粋に楽しめません。

男性は、3人の子持ちと童貞の”異文化”同士でも、3時間サッカーの話ではしゃいで「オレら、ずっと友達だよな」となりますが、女性はそうじゃないですよね。これは女性が、趣味の話よりももっと身近な、生活の話を好むからだと思います。生活の話題は、「今の彼氏の話」「子どものトイレトレーニングの話」など、フェーズによってまったく変化してしまうため、共通の話題で盛り上がることは難しい。

ーー“異文化”に気づいたきっかけは?

:長い付き合いをしていた幼なじみとは彼女が1人目を出産してからも、会った瞬間昔に戻れるような、空気感で喋れていたのに、2人目を出産して以降、はっきりとした“違い”を感じました。

私が興味のあることに彼女は興味ないし、彼女が興味のあることに私は興味ないな、と。私は子ども番組の「なんとかおにいさんが〜」って言われてもわからないけど、彼女はそういう話がしたいんだろうな、私の海外旅行の話なんて興味ないんだろうな、と。

その時、「話が合わない友達とは距離を置いていいのかも。その時々で、無理のない友情に更新していっていいのかも」と思ったんです。

婚活現場で知り合った、部活仲間のような女たち

ーーそして出会ったのが、婚活現場で知り合った仲間たちだったんですね。

:本当に楽ですよ〜。“30代独身”の時点で、「とりあえず1回負けている」同士。お互い恥ずかしいところを見せていますから、マウンティングのし合いや見栄の張り合いも意味がない。つき合いがラクなんです。

ーー例えば「この前、大手商社マンに誘われて」なんて友達の前で言うと、普通は……。

:「こいつ自慢してる!」と思われるリスクがあるし、面倒な気の遣い合いをしなければなりません。でも、婚活仲間は自慢ではなく現状報告だとわかってますから、純粋に応援したり、ろくでなしならコキ下ろしたりできるんです。

ーーなるほど。30代女子の友情で面倒なことっていろいろありますよね。

:友達関係に何よりも重きを置いている子がいますが、あれって揉める原因ですよね。「彼氏ができたら遊んでくれなくなっちゃったね……」とか言ってくる子。その点、婚活仲間は、「男を優先してくれ! 私のせいでその1回のチャンスをふいにするのをやめてくれ! 私も男を優先するから! むしろあとで話聞きたいから、男と会ったあとに会おう」が共通認識。

誰かが「いち抜け」する恐怖は常についてまわりますが、足の引っ張り合いをしている場合じゃないですしね。仲間の中に、結婚へのモチベーションが低い子がいたら、やりにくいかもしれませんが。

ーーまるで部活のようですね。

:ほんとそう! 目標がみんな、県大会突破という名の“結婚”ですからね。全員同時に突破できたら、これ以上幸せなことはありませんね。

結婚が決まったら、相手の男への文句は封印

ーー小説内では、婚活仲間で辛辣にダメ出しし合う場面が度々も登場しますが、友情は壊れませんよね。そんな関係でも、「これだけは言ってはならない」という地雷はありますか?

:婚活仲間がつき合う前の男にちょっとでも気になるところがあったら、散々文句を言いますが、交際や結婚を決めたら、その瞬間から男の悪口は言わないようにしています。そこは、“やっかみ問題”が生じる危険性もありますしね。

実は最近、婚活仲間の1人が結婚したんですが、彼女が結婚を決めた段階で、もう私たちにはとやかく言う権限はありません。それが大人のたしなみでしょうか(笑)。

友達の幸せを願える人になりたい

ーー作中登場する、「友達の幸せを願える人になりたい」という言葉が印象的でした。どうすればそうなれますか?

:私自身は、人に興味を持ちすぎてしまい、人の気持ちに憑依してしまうおうとするから、自分との差を感じてもやもやしちゃうんですよね。私はこんなに不幸せなのに、どうしてあの人は幸せなんだろう、と比較しちゃう。私の不幸せと人の幸せは、まったく関係ないこと!と思うに尽きますね。

だって、好きな人には幸せでいてほしいですから。純粋に、友達には幸せでいてほしい。

ーーそう思える友達がいること、とても羨ましく思います。ただでさえ、大人になってから新しい友だちを作るのって難しいのに。南さんのように、大人になってから友達を作るにはどうすれはよいのでしょうか?

:「大人になってから友達が作れない」と言われる方がたまにいますが、たぶん誘いを待ってしまっているからだと思います。私は結構、自分から誘っちゃうんですよ。「ネタになりそうだな」という下心もありますが、何より「話が合いそうだな」と思い、お茶などに誘います。私に興味のない人からははぐらかされますが、それにもめげずに。たいていの人は応じてくれますよ。

波長が合う時だけ一緒にいればいい

ーー一方で、古くからの友達と独身/既婚で立場が変わったら、いままで通りの友情を維持するのは難しいのでしょうか。先ほど、「出産を機に話が合わなくなった幼なじみと距離を置いた」とおっしゃいましたが。

:共通の話題がなくなった友達との友情を維持することに何の意味があるんだろう、と思うこともあります。でも、縁を切るんじゃなくて、手綱をゆるく持っておけばいいんじゃないかな。たとえば私が結婚したり、出産したり、逆に友達が都内で仕事復帰したりすれば、共通の話題が戻ってくるじゃないですか。

昔からの友達と距離を置くのは、そんなに悪いことでもないと思います。無理に会い続けもやもやが爆発して、決定的な亀裂が生じたら、元も子もありません。

「もやもやする私が悪い」と思ってしまう人もいるかもしれませんが、悪いかどうかはともかく、心身に悪いことはしないに限ります! 「仲よくし続けよう」と無理することなく、波長があった時だけ一緒にいる。それが自立したアラサーの友情の形なんだと思います。

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