ポケット弁護士エリカちゃん第5回

10年前に友人に貸したお金を返してもらう方法―ポケット弁護士エリカちゃん

10年前に友人に貸したお金を返してもらう方法―ポケット弁護士エリカちゃん

「大人の女のリーガルレッスン」
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学生の時は「1,000円貸して!」のようなカワイイお願いだった友人間のお金の貸し借り。ところが大人になるとその金額が大きくなったりして、返す返さないであっという間に泥沼化……。友情関係にヒビが入る前に、きちんと個人間のお金の貸し借りの基本を抑えることが大切です。今回は友人に貸したお金をきちんと返してもらう方法をレクチャー。アディーレ法律事務所の篠田恵里香(しのだ・えりか)先生の監修のもと、大人の女として不可欠なリーガルマインドを身につけていきましょう。

〈今回のポイント〉
【1】友人間のお金の貸し借り、押さえておきたい基本のキ
【2】貸したお金の時効を延ばす裏ワザをチェック!
【3】友情を守るために、しておきたいこと

〈登場人物〉

ririko

リリコ(32歳)
小さなデザイン会社に勤める中堅デザイナー。基本的に他力本願。趣味はネイル、お酒(ワインと焼酎)、サイゼのお気に入りメニューは「ミラノ風ドリア」。例えれば、だらしない石原さとみ。

erika

エリカちゃん(永遠の30歳)
「六法全書」の妖精。本名はオピストコエリカウディア・スカルジュンスキィ。辛口で正論をバシバシ言うが、困っている人は放っておけない姉さんキャラ。例えれば、リカちゃん人形サイズの真木よう子。

「授かっちゃったみたい♡」と、大学からの悪友・ララコに衝撃の告白をされたのが先月のこと。今まで10年以上もの間、さんざん朝まで飲み散らかし、サイゼで恋バナに花を咲かせ銀行・マスコミ・代理店と次々合コンを荒らしまくり、もちろん痛い思いもしたけれど、それでも私たちが一緒ならいつだって最強だって思えたソウルメイトのララコが、とうとう結婚!

しかも、おなかの中には女の子がいるらしい。相手はまさかの25歳証券マン(ララコの好みのタイプはリリーフランキーなのに!)。人生、本当に何があるかわからない。もちろんすっごく寂しいわけなんだけれど、目の前で幸せそうにサイゼのオレンジジュースをすすってる姿を見たら(サイゼでララコがソフトドリンク飲んでるとこ初めて見た)、今までひどい男に引っかかってきたララコだし、幸せになってくれよな、という気持ちになるってもの。というわけで、ララコが安定期のうちに休みを合わせて二人で台湾旅行に行こうということになったのだった。なので明日は仕事終わりにその打ち合わせをする予定。なんだけど、私には一つ気がかりなことがあって……。

友達にお金を貸したんだけど、忘れられてる……!?

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「はあ……」

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「リリちゃん、浮かない顔ね。仕事のこと? それとも親友が先に結婚しちゃって、取り残された気分になってるのかしら?」

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「ああ、エリカちゃん……。なんか自分の小ささにね、ちょっと嫌気が……」

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「え?何? 本当にララコちゃんに嫉妬でもしてるの? そういうの余計にブスになるからやめたほうがいいわよ」

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「違うよ! それにその言い方じゃ私がブスみたいじゃん!」

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「?」

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「うっ……(ムカつくけど、エリカちゃんはすごい美人だから何も言えない)」

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「じゃ何?もう夜遅いんだから簡潔にね。私、眠いの」

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「あのね、台湾旅行のことを考えてて思い出したんだけど、10年くらい前に私、ララコにお金貸してるの。それ、まだ返してもらってなくてさ」

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「何ですって!? 何のためにいくら貸したわけ?」

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「う〜ん。当時ララコが夢中になっていたメキシコ人の男がいてさ、彼がメキシコに帰るって言うから後を追いかけたいって泣きながら相談されて。それで貸しちゃったんだよね、10万円。結局ララコはメキシコまで行ったけど彼にフラれて帰ってきて、その後の落ち込みようがすごかったから私もお金のことは何か言い出せなくなっちゃって」

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「びっくりするぐらいアホな理由ね……貸す方も貸す方だわ」

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「それで、今回旅行つながりで思い出しちゃったわけ。そういえばあの時の10万返してもらってないなって。今さらだし、結婚のお祝い代わりに、とも思ったけど、結婚式呼ばれてるから普通にご祝儀は払うんだよな……とか小さいことを考えちゃってさ。それに借用書みたいなものがあったわけじゃないし、口約束で貸したわけだし。自分にも責任あるもんね、だからいつまでもこうやって考えてる自分が小さい人間なんだって……」

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「グチグチうるさいわね! 耳がカビそうだからやめてくれる? あなたねー、そうやって言いにくいことを先延ばしにして、結局いつも損してるのは自分なのよ? そのへんわかってる?」

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「だって〜〜〜!!!」

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「まず、お金の貸し借りは口約束だったとしても成立するから、あなたに返還を求める権利はあるわ」

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「そ、そうなんだ!」

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「個人間の貸し借りでも、貸す際に約束をしておけば法律の範囲内で利息をつけることだって可能なのよ。それと気をつけてほしいのが、返してって請求するのに時効があるってことね」

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「時効!?」

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「個人間であれば、返す期限の翌日から10年間。これが時効になるわ。ただ、時効に焦ってその人の家に何度も行ったり、脅すようなことを言ったりやったりすればこちらが恐喝罪などになるから注意よ。それに保証人になっていない限り、貸した相手の家族や結婚相手に請求することも基本的にはできないからね!」

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「うわ〜知らずにやってる人いそうだね〜」

10年の時効を延ばす裏ワザ

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「時効の10年間と言うのは、例えば7月1日に返してください、という約束だった場合、10年後の7月1日になると請求権が消えてしまうってことなの。確か、ララコちゃんに貸したの、10年前って言っていたわね?」

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「うん……。そのくらいになると思う」

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「実はこの時効、貸した相手の“債務の承認”があると振り出しに戻るの」

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「どういうこと?」

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「つまり、例えばリリちゃんがララコちゃんにお金を貸して5年が経ったときに、「あの時、いついつまでに返すってことで10万円貸したけど覚えてる?」と確認をして、ララコちゃんが「ああそうだった! 返すね!」と返したとするでしょ。これは、ララコちゃんはリリちゃんに借金があるということを認めた、つまり債務を承認したことになるの。そうすると、時効はその承認した時から10年後に延びるのよ」

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「ええ!?じゃあ、1年ごとに承認があったら時効も1年ずつ延びていくってこと?」

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「そうよ。それに、もしうっかり時効の10年が経ってしまって、例えば15年後に「あの時○○円貸したよね?」「はい、返します」という債務の承認がある場合も、そこから10年間返還を請求できるとされているの」

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「そうなの!? じゃあ、ララコが借りたってことを認めたら、私の10万円も返してもらえるかもしれないってことか……」

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「10年間という言葉に振り回されないで、リーガルマインドがあれば自分でその10年間をコントロールできるってことを覚えておいてほしいわね。ただ、債務の承認もそうなんだけど、証拠は大事よ。そもそも借金の返還請求は、きちんと“私が○○円貸した”“相手が返すという約束をした”という2つの事を立証できないといけないわ。借用書のようなものがあればベストだけれど、領収書や自分の口座からお金をおろした記録なんかも間接的な証拠になるの。メールやLINEでのやり取りなら確実に立証することができるわ。逆に貸す時にはこの2つをしっかり押さえておくべきってことね」

相手がお金を返してくれない!こんな時どうする?

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「そういえば、貸してから2、3年後にメールでそんなやり取りをしてた気もする……。後で前の携帯の履歴見てみるよ」

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「その方がいいわね。もし相手がお金を返してくれない場合、取り立てる方法もいろいろあるんだけれど、相手にインパクトを与える手段としては内容証明がオススメね。これは書面がすごく厳かで、いかにも法的!って感じだから相手もぎょっとすると思うわ(ニヤリ)」

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「ひっ……」

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「それでも返してくれないとなったら、裁判所での手続きになるわね。これにもいつか種類があって、まずは「民事調停」と言われるものから説明するわ。リリちゃんも調停って言葉くらいは聞いたことあるでしょ?」

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「うん……でもなんだか難しそう」

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「簡単に言うと、民事調停は、調停委員と呼ばれる人たちが当事者たちの話しを聞いて、ズバリ「じゃあ100万を月々5万ずつ返しなさい」と当事者を含めて話し合いで決めるものよ。もし債務者がこの決定に従わなかった場合、強制執行もできる効力を持つわ」

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「次に「支払督促」。これは訴訟の半分の費用で裁判所から督促状を送ってもらえる仕組みね。支払催促に相手が異議を述べた場合や、証拠がない複雑な事件などの場合は訴訟になるわ。訴訟にも種類があるんだけれど、今回のようなケースは60万円以下の請求につき1回のみ審理すればオッケーの「少額訴訟」が簡単でオススメね」

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「な、なるほど……」

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「実は「お金を返してください」という訴訟って一番簡単な訴訟なの。裁判=弁護士というイメージがあると思うけれど、この訴訟はある程度お作法さえ学べば全然自分でできるし、裁判所のHPを見て必要な書面だって作れちゃうわ。争いのある事件なら、弁護士は必要かもしれないけどね」

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「そうなんだ〜。知らないことばっかり」

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「法律の知識を知らないということで損する場合があるの。だからリーガルレッスンは本当に大切なのよ!」

お金の貸し借りで友情を壊さないために……

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「でもさ、私、あの時のララコにお金を貸したこと、後悔はしてないの。そもそもきちんと借用書を作ったりしておかなかったから、返してって言えなくてなんだかモヤモヤしちゃったんだよね」

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「まあ私にも腐れ縁の友達っているから、そういう気持ち、わからないでもないわ。リリちゃんの言う通りこういうことは事前にきちんと書面で残すようにした方が後々トラブルを減らせるわ」

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「書面を作るって、やっぱ借用書ってこと?」

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「そうね。まず法的に有効な借用書というのは、貸主・借主の名前、金額と返済期限をしっかり書いているもの。そして日付と署名押印が入っていること。あとは実印の印鑑証明をつければバッチリ。当然、法律に違反した利息が書いてあったり、日付や金額に誤りがあったりしたらダメよ!」

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「ふむふむ」

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「それ以外に、「公正証書」というものもあるわ。これは作成必須なものではないけれど、もしお金が返ってこなかった場合に、裁判を起こさなくても強制執行ができるものなの」

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「強制執行ってなんだか怖いね……」

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「強制執行っていうのは、相手方の給料や預金、財産を差し押さえることよ。そうやって返済してもらうの。ちょっとひどいと思うかもしれないけど、お金を返してもらわないと困るのはこっちなのよ! 公正証書は手数料を払って、公正役場というところに作成してもらうの。100万円までの債務については5000円程度で作ってもらえるわ」

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「5000円か……。後々もめて大変な思いをするならそのぐらい安いもんだよね……」

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「そうよ。ただ、この公正証書は相手側の同意がマストよ」

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「そっか!それがハードルだね」

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「ただね、リリちゃん。友人間のお金の貸し借りで一番問題なのは、やっぱり友情に亀裂が入ることよ。しかも金銭的なトラブルは感情論になりやすいわ。泥沼の争いを避けるためにも、借用書くらいはしっかり作ってほしいわね。そして、貸す時にはもう返ってこないぐらいの気持ちで貸すことが大事よ!」

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「うん。わかった。とりあえず、ララコには明日言ってみるよ」

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「その意気よ! 今日はちょっと難しそうな専門用語が続いたけど、大丈夫だった……ってあら!? 信じられない!リリちゃんったら寝てるの!?」

遠くでエリカちゃんの声が聞こえる。ちょっと億劫に思っていた明日のララコとの打ち合わせだけど、きちんと話ができそうだ。安心した気持ちで、私は深い眠りに落ちていった。

〈今回のまとめ〉
【1】 友人間のお金の貸し借り、押さえておきたい基本のキ
まず、口約束でしたお金の貸し借りにも請求権はあるわ。法律の範囲内で利息をつけることも可能よ。返済を請求できる時効は10年。ただし、お金を貸したことを立証できるようにしておくことがマストよ!

【2】 貸したお金の時効を延ばす裏ワザをチェック!

「○○円貸しました」「はい、事実なので返します」という債務の承認があれば、たとえ時効が過ぎていても、時効のカウントはそこから10年になるわ。この債務の承認はメールやLINEでも証拠になるから覚えておいて!

【3】友情を守るために、しておきたいこと
どうしてもお金の貸し借りの必要がある場合、事前に両者の間で返済についての取り決めを行うべきね! 借用書や公正証書をきちんと作って、返済期限や金額を明確にしておくことは、二人の友情のためにも必要なことだと思うわ。

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