新卒で入社してから5、6年がすぎて、「そろそろ転職しようかな」と考え始めるアラサーという年頃。「将来が不安だから」という理由で大手企業を希望する人が多い一方、先が見えない時代だからこそ、「どこでもやっていける力」をつけたいとベンチャーを希望する人も最近では少なくありません。今回は、転職支援サービス「DODA」でキャリアコンサルタントを務める渡辺悠子(わたなべ・ゆうこ)さんに、転職先としてのベンチャーの可能性について聞きました。
いい転職先かどうかを見きわめる2つの基準
――「ベンチャー=不安定」というイメージがある人もいますが、実際にはどのような企業があるのでしょう?
渡辺悠子さん(以下、渡辺):今は、医療や食品など既存ビジネスにテクノロジーを掛け合わせた新規事業をやっている企業が主流ですね。世の中の課題を見つけて、今までになかった形で社会貢献できるサービスをつくるという感じです。「ベンチャー企業って、イケイケな感じでしょ?」という印象を抱いている人もいますが、実際には結構マジメに社会のことを考えている企業が多いんですよ。
――なるほど。ちなみに、「ベンチャー企業」とは、どのくらいの規模の企業を指すのでしょう?
渡辺:社員数、資金調達の金額、事業内容の新しさなど、どこを見るかによって違ってくるので厳密な定義はないんです。ここでは、少数精鋭のスタートアップ企業についてお話していきます。
――では、さっそくですが転職先として「いいベンチャー企業」の見きわめ方を教えてください。
渡辺:最大のポイントは社長や経営層の志です。サービスや事業をやスタートした理由、掲げるビジョン。自分も社長の志に賛同して情熱を持てるかどうかは、ベンチャーに転職する上でとても大事です。自分の頭で考えて日々仕事を作り出していかなければならないので、その組織が向かっていく方向性に共感できないとついていけなくなります。
次に資金調達の状況もポイントになってきます。例えば、同じ社員数が数名、数十名のベンチャー企業でも、自分たちでお金をかき集めている会社と、投資家から数千万円から数億円を集めている会社では、状況がまったく違います。
後者はプロの投資家がその事業の伸びしろを判断したわけですから、会社の存続や事業の拡大など、ある程度の「先が見えている」と言えます。転職先として考えているベンチャー企業名に「資金調達」というキーワードを付けて検索すると、投資系のメディアが情報を出しているので自分で調べられます。最近も創業1年経っていない数名のスタートアップベンチャーで、6億超えの資金調達の話があり、とっても話題になっていました。ただ、投資金額はあくまでも目安。やはり会社のビジョンに共感できるかどうかが重要です。
“向いている人”の2つの条件
――ベンチャー企業にはどんな人が向いているのでしょうか?
渡辺:何でも自分で決めて、やりたいことを主体的に進めていきたい人に向いています。これが第1の条件。企画職に就きながら営業もするというように、さまざまな業務を同時に抱えるので大変ですが、自分次第でどんどん仕事をこなして結果を出していけるのが魅力です。
また仕事とプライベートの垣根をなくして楽しめる人にとっても、自分で仕事を生み出し、人脈をつくりながらプロジェクトを動かしていけるので、とてもやりがいを感じられると思います。これが第2の条件ですね。
反対に、きっちり決められたルールのもと、上から与えられたことをコツコツやりたい人には向いていません。専門職に分かれて限られた範囲の仕事をこなす大手企業とは、仕事のスピードがまったく異なります。自分の価値観や性格と合いそうか、考えてみてください。
――ベンチャー企業に転職するデメリットも教えてください。
渡辺:まずは年収ですね。ベンチャー企業に転職して年収が下がることは珍しくありません。ただ、その分会社が上場したときに株を買える権利、「ストックオプション」が得られる場合もあります。ですから、一時的に年収は下がっても、ストックオプションによって数年後にペイできる……という考え方もできますね。
とは言え、ストックオプションは権利を得られる人が限られているので、それ目当てでの転職はおすすめしません。やはり、ベンチャーへの転職は、新しい経験やスキルを身につけて「将来、自分の市場価値が上がる」ことにメリットがあると考えた方がいいでしょう。
採用では「人柄」がより重視される傾向も
――やはり異業種に転職するのは難しいのでしょうか?
渡辺:一般的には、業界も職種も同じなら即戦力として採用されやすく、どちらかが違っても見込みがあれば採用されます。完全に未経験だと厳しくはなりますが、「自分の経験から何ができるのか」を売り込めばご縁が生まれる可能性も十分あります。少数精鋭だと、社長も気が合う人を雇いたいですよね。人柄を見てもらえる部分はあります。
――「転職先が合わなかったら……」と不安な人もいると思います。
渡辺:実際、うまくいかずに再転職する人もいます。でもそれは大きな失敗ではありません。なぜなら、ベンチャーで何かを生み出そうとした経験は評価に値しますし、再転職の際も「マインドが前向きな人」という印象を与えられるからです。どういう意欲があるか、なぜまた転職するのかをしっかり自己分析できれば、チャレンジはいくらでもできます。
単に「辞めたって、また転職できるよ」ということではなく、より自分に合った企業を見つけられる可能性が広がっていくと考えてください。転職回数や年齢、学歴やバックグランドに関係なく、「今のあなたがうちに来たら何ができるのか」を重視するのがベンチャー企業。実際にそこで働けば、会社に依存せずに自分の力で仕事を生み出していけるんだという自信が生まれると思います。
「おためし」制度を利用してみる
――たとえ一度失敗しても、キャリアを積んだり、自分らしい働き方を見きわめたりする上で損はしないということですね。
渡辺:少数精鋭で仕事を動かすことに楽しさを見出し、あえて小さなベンチャーを渡り歩くという話も聞きますよ。合う人にとっては、とてもやりがいを感じられるのがベンチャー企業なんです。
今は「とりあえず会って話してみる」「一日体験で実際に働いてみる」などの仕組みを持つベンチャー企業もたくさんあります。実際に転職を検討するなら、そうした制度を利用して、いろんな企業の人に会ってみることをおすすめします。自分で情報を集めつつ、コンサルタントに相談していただければ、ベンチャー企業への転職にまつわる不安は、一般的にイメージされているよりも、軽くなっていくと思います。私も相談を受け付けているので、もしキャリアやご転職でお悩みの方がいらっしゃれば、お気軽にご連絡ください。
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