不妊治療患者支援NPO理事長・松本亜樹子さんインタビュー 第5回

産めなくても、その先には人生がある 後悔しない不妊治療の「やめ方」

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産めなくても、その先には人生がある 後悔しない不妊治療の「やめ方」

高額な治療に何度トライしても、なかなか妊娠にできない――。不妊治療の「終わり」を意識しながらも、“治療をやめる”という決断ができずに苦しんでいる人は少なくありません。「子どもがいないと将来が不安」「老後が寂しい」「子どものいない人生なんて考えられない」。やめられない理由はさまざまですが、共通しているのは、「未来への不安感」です。

不妊治療の「その後」をハッピーに過ごすには、どんな準備が必要なのでしょうか。不妊で悩む人を支援するNPO法人「Fine」理事長であり、これまで5000人以上の不妊体験者に接してきた妊活コーチの松本亜樹子(まつもと・あきこ)さんに話を伺いました。

【松本亜樹子さんへのインタビュー記事一覧はこちら】

「目的を失うのが怖い」という気持ち

――不妊治療の「終わり」を意識しながらも、治療をやめるという決心がつかず、もがいている人は少なくありません。

松本亜樹子さん(以下、松本):「不妊治療の結果=妊娠」と考えてしまうと、まるで試験勉強でもしているかのような気分になって、「結果を出すまで頑張らなくちゃ」「結果を出せない私はダメだ」と、自分を追い詰めてしまいます。妊娠が目的となることで、「目的を失うのが怖い」という心境に陥り、治療がやめられなくなってしまうんです。

けれど、不妊治療の結果として得られるものは、妊娠だけではないんです。治療をやめても、子どもがいなくても、自分にはその先の人生があると気づけるといいなと思います。「そんなの当たり前」と思われるかもしれませんが、私自身、治療中は「やめたら人生が終わる」と考えていて、なかなかやめられませんでした。

「子どもをほしい理由」を夫婦で考える

――「その先の人生」に向き合うには、気持ちの準備が必要です。どのようなステップを踏めばいいでしょうか?

松本:まずは、「子どもがほしい理由」を夫婦で考えてみるといいと思います。私もそうでしたが、不妊治療中の人にとって「どうして(治療をしてまで)子どもが欲しいの?」という質問は、一番つらいんです。自分の努力を否定されているように感じてしまう。ですが、あえてそのつらい問題に向き合うことで「次」が見えてくると思うのです。

――「なぜ欲しいのか」という質問には、どういう声が多いのですか?

松本:「家庭を持てば子どもがいて当たり前だから」「老後が不安だし、夫婦だけでは寂しいから」「子どもがいないとかわいそうだと思われるから」といった答えがよく挙がります。でも、本当にそうなのか、もう一度、ふたりで考えてみる。例えば、「老後が不安」といっても、いずれは子どもも巣立っていきます。遠くに行ってしまい、ほとんど会えないというケースも多いですよね。

「夫婦だけでは寂しい」なら、人との関わりを求めて何か行動を起こすこともできるかもしれません。自分が抱える「不安」に向き合うことで、対処法が見てくるんです。そのうえで、自分たちの将来ビジョンを新たに描き直してみることです。

20年、30年先の人生プランを考えてみる

――夫婦としての未来像を描いてみるのですね。どんなふうに考えればいいのでしょうか?

松本:目の前のことではなく、10年、20年、30年先という長いスパンで、人生プランを考えてみてください。その際、できるだけ遠い将来のことを思い描くのがコツです。たとえば、10年、20年先なら、まだ子どもが一緒にいるかもしれませんが、30年後だったらどうでしょう? 仮に子どもができたとしても、自分たちの元から巣立っている可能性が高いですね。

その時に、どんな夫婦でありたいか。そこに辿りつくまでの人生を、夫婦でどんなふうに生きていきたいか。ビジョンを立てて共有することが大切です。

将来のビジョンはそのつど変えていけばいい

――「子どもがいない生き方でもそれなりにハッピー」という未来が描ければ、歩きだす勇気が出てくる。心がラクになりますね。

松本:「自分にはこれしかない」「こうあるべき」と決め込んでしまうとつらいけれど、別の生き方もあるということを頭の片隅に置いておくだけでも、心はラクになります。また場合によっては、早めに方向転換して治療をやめるという選択もできるかもしれません。

人間は日々変化・成長していくものなので、将来のビジョンはそのつど変えていけばいいんです。心がかたくなにならないように、いい意味での“ゆるさ”を持っていられるといいですよね。何より大切なのは、夫婦で心を合わせることだと思います。

「産みたい派」か「育てたい派」か

――「それでもやっぱり子どもに関わりたい」という場合には、ボランティアで育児を手伝ったり、養子を迎えたりという選択肢もありますね。

松本:不妊治療をする方は、言い換えれば「子どもを産んで育てたい」人たちですが、細分化すると「産みたい派」「育てたい派」に分かれるんです。「自分はどちらだろう」と考えてみると、別の未来が拓けてハッピーになる場合もあります。

産むことにこだわらず、子どもの成長に関わりたいという思いが強いなら、「養子」という選択肢もあります。欧米と違い、日本は養子縁組が制度として利用しにくい国なので数は多くありませんが、不妊治療の末、養子や里子を迎え、幸せに暮らしている夫婦を何組も知っていますよ。

――不妊治療が終わっても、その先の人生はまだまだ続く。幸せのカタチはひとつじゃないと気づくことで、前を向いて進むことができますね。

松本:夫婦の数だけ、「人生の選択」と「幸せのカタチ」があります。治療をやめても、「続きの物語」はちゃんとあるから、心配しなくても大丈夫と伝えたいですね。不妊という体験も、人生全体では決してムダではなかったと思える日が、いつかきっとやってくると思います。

「幸せ」は誰が決めるのか――。それは自分自身です。子どものいない人生にも、幸せはたくさんある。小さなハッピーを夫婦でゆっくり、たくさん見つけてほしいなと思います。

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