川上全龍さん×東小雪さん×増原裕子さんインタビュー

日本からLGBTという言葉がなくなる日を目指して

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日本からLGBTという言葉がなくなる日を目指して

マドンナやスティーブ・ジョブズも実践していたとして、世界的に注目されている「瞑想」。最新の研究により「ストレスが減る」「免疫力が向上する」といった効果も解明され、脳科学の知見を取り入れてアレンジした瞑想トレーニング「マインドフルネス」は海外でブームとなっています。そうしたなか、臨済宗・妙心寺派春光院の副住職として座禅教室を開き、ハーバード・ビジネススクールの学生、グローバル企業のCEOといった世界中のトップエリートたちに禅の精神を伝えているのが、川上全龍(かわかみ・ぜんりゅう)さんです。

川上さんは同時にLGBTの支援者(アライ*)でもあり、2010年からは同性カップルの仏式結婚式を執り行うなど、さまざまな活動を展開しています。世界的ブームとなっているマインドフルネスと、アライとしての活動の意外な関係とは? 今回は川上副住職と、『同性婚のリアル』(ポプラ新書)を著し“レズビアンふうふ”として知られる東小雪(ひがし・こゆき)さん&増原裕子(ますはら・ひろこ)さんの3人がトークを繰り広げます。

*自分自身はLGBTではないが、LGBTを支援することを表明している人。

「回復の手段」としてのマインドフルネス

東小雪さん(以下、東):川上さんとは、2年前の「東京レインボープライド」で初めてお会いしましたね。これまでは同性婚を支援する「アライ」の方という印象が強かったので、『世界中のトップエリートが集う禅の教室』(KADOKAWA)を出されて驚きました。私、マインドフルネスに関心があって。

川上全龍さん(以下、川上):そうなんですか?

増原裕子さん(以下、増原):小雪さん、よく瞑想していますもんね。

『世界中のトップエリートが集う禅の教室』(KADOKAWA)

『世界中のトップエリートが集う禅の教室』(KADOKAWA)

:はい。川上さんも開発にかかわられたというアプリ「MYARO」を使って体の状態をチェックしつつ瞑想しています。以前、本で書いたことがあるんですが、私は性暴力被害の経験と、そのPTSDに悩まされていました。私自身はカウンセリングを受けたり、その体験を人に語ったりすることで生きる力を取り戻したんですが、みんなが実践できるものとして「回復の手段」に関心があって。

マインドフルネスを知った今にして思えば、フラッシュバックのときに呼吸法や瞑想がすごく役に立ったように感じています。そして、これからの性被害者の支援、特に知的障害などがあって自分の体験を言語化することが難しい方の支援に有効なのではないかと考えています。マインドフルネスは、日本以外の国では普及しているんでしょうか?

なぜ、日本ではマインドフルネスが浸透しないのか

川上:発祥の地であるアメリカでは盛り上がっています。行き過ぎた功利主義によってリーマン・ショックが発生し、社会が混乱に陥ったことで、「精神的な充足」の大切さが見直されるようになり、その結果、東洋思想に目が向いたんです。イギリス、シンガポールなどでも流行しつつあります。いっぽう日本ではオウム事件が原因で宗教に対するアレルギーがあり、積極的に取り組んでいる方は他の国と比べて少ないですね。

今の人たちには科学的な知見がないとなかなか受け入れられないので、科学的に効果が実証された瞑想であるマインドフルネスはまだまだ浸透すると思っています。宗教が科学に近づくことに対することへ意見されることもありますが、「人間をいかに幸せにするか」を考えるという点で本来一致しているんですから。

川上全龍さん

川上全龍さん

LGBTが住みやすい社会は、誰にとっても優しい

川上:宗教が築いてきた知見を科学で解き明かし、それが人間の幸福の役に立つのであれば、どんどん手を取り合っていけばいいと思います。また瞑想が「人間の幸福」に効果的なのは、単に自分が幸福になるためのものではなく、瞑想が利他の精神を育てるからでもあります。これは私のLGBT問題支援とも関係しています。

増原:それはどういうことですか?

川上:僕自身はアライを自認して、同性カップルの仏前結婚式などを行っていますが、これは別にLGBTの方のためだけではありません。LGBTの方が住みやすい社会になればまわり回って自分も住みやすい社会になる、という発想なんです。

レインボーパレードにおける「男性の露出」

川上:本日(2016年5月8日)はちょうど「東京レインボープライド」の開催日ですね。東さん、増原さんもご参加されるとうかがっていますが、僕はアライの立場から日本のレインボープライドに思うことがあって。これは台湾のレインボープライドを見てきた方と話したことですが、日本のパレードってちょっと男性の露出度が高すぎるように思うんです。

:たしかにセクシーな格好で歩いている方が、とくにゲイの方に多いかもしれません。でも大多数の参加者は普段着でパレードに参加しているんですけどね…。

ゴールは「LGBTという言葉がなくなる社会」

増原:パレードに参加している人の9割くらいはTシャツとジーンズのような格好をしているんですけど、メディアが目立つものだけを切り取りがちなのは問題ですよね。

川上:レインボープライドは一種の晴れ舞台なのでそうした格好をしているのは理解できます。ただ、「自分たちとは違う格好をしたLGBT」という部分だけがメディアによって強調されてしまうと、本来の目的が達成できないんじゃないか、とも思うんです。逆説的に聞こえるかもしれませんが、私たちが望んでいるのは10年後、20年後に「LGBTという言葉がなくなる社会」を作ることじゃないですか?

増原:そうですね。

本気で「世の中を変える」とは

川上:今、アイデンティティに悩んでいる子どもたちが、偏見を気にせずに自己表現できる社会を作っていくのが大人としての使命じゃないかと僕は思っています。ですので、ちょっと辛口かもしれませんが、「(パレードで露出の多い格好をしている人を見ると)世の中を変える気があるのかな?」と思ってしまうところもあります。

:なるほど。みんなが「世の中を変えたい」と思っているわけではなく、「普段はひっそりと暮らしたい」という方も少なからずいらっしゃいます。露出度の高い人に「服を着てください」とは言えないし、運営する側が「スーツを着てください」と言うのもおかしい。そのへんはすごく悩ましいですね。

増原:私は個人的に、パレードの日はそれぞれの参加者がいろいろな想いを胸に参加するわけですから、洋服の違いも多様性と受け止めていて、それぞれが自分らしさを表現できる格好で歩くのがいいと思っています。

左:増原裕子さん 右:東小雪さん

左:増原裕子さん 右:東小雪さん

「違いの強調」の一歩先へ

増原:ここまでは「可視化」が特に必要だったと思います。川上さんの本でも、アメリカ留学中にゲイについての冗談を友達に言ったら、その友達自身がゲイであったことがわかってひどく恥じた、それがきっかけで今はアライとなっているというエピソードを拝読しました。見えていなかったからこそ放置されていた偏見が、可視化されることで改善してきた経緯があります。

川上:ご指摘の通りで、日本でもまだ可視化が必要な面はあると思います。一方で欧米ではすでに「違いの強調」の段階は終わっていて、たとえば企業のCMを見ていても、運転席と助手席に女性同士のカップルが座っていて、後部座席で赤ちゃんが寝ている……というようなLGBTの日常が普通に描かれているものもあります。日本もそうした段階に移る時期にかかっているのではないでしょうか。

増原:違いを受容しあって、日常の風景になるという段階ですね。

誰もが誰かのアライになれる

増原:そもそも私は「当事者」と「アライ」を分ける必要はないとも思っています。LGBTのアライという概念が、今この過渡期の数年は必要かもしれませんが。LGBTを取り巻く課題はたくさんある社会課題のひとつにすぎなくて、他のマイノリティの課題ともつながっている。LGBTの課題が解決すると、結果的に他の課題が解決することもあります。たとえば、私たちはLGBTの課題では当事者ですが、障害者など他のマイノリティの課題ではアライになりたいと思っている。誰もが誰かのアライになれるんです。

川上:「誰もが誰かのアライ」、すごくよい言葉ですね。マイノリティをマイノリティとして切り分けず、つながりや共感を育てる社会をマインドフルネスで実現していければと思います。

(平松梨沙)

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