大橋鎭子伝説(後編)

ストーブを60回燃やす特集を企画 とと姉ちゃんと『暮らしの手帖』

ストーブを60回燃やす特集を企画 とと姉ちゃんと『暮らしの手帖』

新・朝ドラ「とと姉ちゃん」のモデルは誰?

連続ドラマ小説「とと姉ちゃん」のモデル、『暮しの手帖』創始者の大橋鎭子(おおはし・しずこ)。戦後をがむしゃらに生き抜き、雑誌を通して女性たちの暮らしを豊かにした彼女の伝説を紹介するこの特集。前編では女学生時代から『暮しの手帖』の名が世に知られるまでのエピソードを紹介しました。後編では『暮しの手帖』が軌道に乗りはじめてから、鎭子が亡くなるまでを追っていきます。

【前編はこちら】14歳で1000万円を調達し起業 朝ドラ「とと姉ちゃん」のモデル、大橋鎭子伝説のすべて

とことんやった「商品テスト」

『暮しの手帖』の名物企画といえば「商品テスト」。

この企画が始まったのは1954年。“命がけで作られたものを評価するなら、こちらも全力で”という名物編集長・花森安治(はなもり・やすじ)の指示のもと、靴下から鉛筆、家電製品まで様々な商品を大量に使い込み、「本当にいいもの」を紹介しました。この「商品テスト」の信頼を保つため、今でも『暮しの手帖』には広告がありません。

「商品テスト」のエピソードの中でも最も有名なのが「水かけ論争」。当時、「石油ストーブが燃えたら水を被せるのは禁物」とした東京消防庁に対し、『暮しの手帖』は約60回ものテストを実施して、「バケツの水で消せる」と主張。公開実験も行われ、『暮しの手帖』側が正しかったことが証明されました。

もちろん、鎭子も“こうやって商品テストをしたらいいのでは?”というアイデアをよく出していたそうです。ベビーカーのテストをする際には鎭子自らベビーカーを押す写真が雑誌に掲載されました。

『暮しの手帖』発のふきんは、1億枚を超える大ヒット

1958年、アメリカ大使館はマスコミで活躍する日本人をアメリカに招待します。これに選ばれていた鎭子も単身アメリカに渡り、2ヵ月間滞在することに。

そこで鎭子が花森から指示されたのは“たくさんのふきんを買って帰ること”。とにかくたくさん買って帰れば、一つくらいはいいふきんが見つかるかもしれない。それを参考にして「本当にいいふきん」を日本で作るのが花森の目的でした。

鎭子が持ち帰った大量のふきんを研究し、吸水性が高いなど使い勝手のよいものを参考に1960年に作られたのが、「日東紡ふきん」。日東紡とのコラボ商品でした。『暮しの手帖』から生まれたこの商品はいまだに日本の家庭で愛され、これまでで1億枚以上も売り上げています。

名物編集長の死、直後の売り上げは90万部を記録

 
花森安治が亡くなったのは1978年。

装丁や企画の指示などすべてを監督していた花森の死は『暮しの手帖』にとっても、また出版界にとっても大きな出来事でした。花森亡き後、実質編集長のような立場を任された鎭子のプレッシャーは相当のものだったでしょう。

しかし、花森が亡くなった直後の号の売り上げは90万部を記録し、これまでにない快挙を成し遂げることになりました。鎭子は花森の意志を継ぎながら、彼女らしさを新たに加えた『暮しの手帖』を作ることに成功したのです。

死ぬまで守り続けた師匠・花森とのある約束

鎭子は会社を作る時、「女性が働ける会社」を目指しました。

女性が結婚・出産しても戻って働けるような職場を作ろうとしたのです。しかし、当の鎭子は生涯独身を貫きます。そして出版業界が斜陽になり、経営が苦しくなると土地を売るなどして会社を守りました。

実は、鎭子は雑誌を作ることを決意した時に花森と2つの約束を交わしていました。「結婚はしない」「私財を投げ打っても会社を守る」。鎭子はこの花森との約束を守り抜いたのです。そして2013年、93歳で亡くなりました。

戦後から現代までその時代を生きる女性とともに、また『暮しの手帖』という偉大な雑誌とともに駆け抜けた大橋鎭子の伝説、いかがでしたか?

「女性が働ける会社」を自ら作り、そこで働き抜く。そんな鎭子の生き方は現代に生きる女性にとってもまばゆく輝いて見えるのではないでしょうか。

(安仲ばん)

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