男性の育休、98%が1週間以内
2010年に流行語のベスト10に入った「イクメン」という言葉。今ではすっかり定着し、最近では自民党の宮崎謙介議員が育休を取得することを宣言し、「イクメン議員」と話題になりました。この言葉が生まれてから6年が経ち、男性が育休を取得することに対するためらいや偏見は薄くなってきているように思われます。
では、実際に育休を取得している男性はどのくらいいるのでしょうか?
昨年8月に発表された、厚生労働省による「平成26年度の雇用均等基本調査」を見てみると、女性の育休取得率が86.6%なのに対し、男性はなんと2.30%。政府が2020年までに目標としている男性の育休取得率が13%であることを考えると、驚くべき低さです。さらに、契約労働者に限った男性の育休取得率となると、数字はより下がり2.13%。政府の掲げる目標と、現実のギャップははなはだしいものです。
しかも、男性たちがどのくらいの期間、育休をとっているのかを調べてみるとさらに驚くべき結果が。東洋経済が発表した「育休取得者が多い100社ランキング」で堂々の1位に輝いた三菱UFJフィナンシャルグループでは、男性の育休取得者211人のうち、207名がたった1週間以内の取得。男性の育休に寛容な企業でも、長期の育休取得者はほぼいないのです。
3〜6ヵ月の長期取得では復職率はわずか2.2%
また、2012年の厚生労働省による調査の「取得期間別育児休業後復職者割合」を見ると、育休を1ヵ月〜3ヵ月取得した男性の中で、その後に復職できたのはわずか17.9%。さらに3ヵ月〜6ヵ月の取得になるとたった2.2%しか復職ができていないのです。一方、育児休業期間が1ヵ月未満の復職率は75.5%。
これはあくまで育児休業を取得した男性の中で何割がその後復職できたかを期間別に表したもので、「育休の取得期間別の割合」ではありません。しかし、育児休業期間が長くなればなるほど、男性が復職できる可能性が低くなることは紛れもない事実。長期間にわたり育児に関わりたいと思う男性も、これでは難しい状況です。
前述の宮崎議員はあるインタビューで育休の取得期間を「妻の退院後、1ヵ月程度を考えている」と発言していました。しかし、一般の会社人にとって、これはあまりにもリスキーなことなのではないでしょうか?
長期の育休取得は男性にとってリスキーか
また、2014年の調査では、育児休業以外で育児参加のために取得した休暇の日数も公開されています。最も多いのが3〜5日で37.3%、次に多いのが1〜2日の24.7%。こちらも長期間の取得は難しい状況のようです。
実は、過去のデータを見てみると、育休取得率が最も高かったのは2011年で2.63%。しかしながら2012年にはまたしても数字は下降し、0.74ポイント減の1.89%となっています。一時は上がった取得率がまた下がってしまった、その原因の一つとして挙げられるのが「パタハラ」の存在です。
「パタハラ」とは「パタニティ・ハラスメント」の略称。これは、父性を表す英単語のpaternityと「嫌がらせ」の意味のハラスメントを合体させた造語で、父親としての役割を果たそうとする男性に対する嫌がらせを意味します。例として、職場で育休をとろうとする男性に対しその制度を利用させない、あるいは「育児は母親の仕事」「育児休業をとればキャリアに傷がつく」といった差別的な発言をするなどの行為が挙げられます。
日本労働組合総連合会が2014年に発表した調査によると「パタハラ」の被害にあったことがあると答えた男性は11.6%。そして「パタハラ」の経験者がとった対応の1位は「誰にも相談せず、子育てのための制度の利用をあきらめた」で65.6%。「パタハラ」を受けたほとんどの人が泣き寝入りし、育休取得を断念しているのです。
「夫に育休を取得してほしくない妻」は54.5%
では、女性たちは男性の育休についてどう考えているのでしょう?
2014年のマイナビの調査では女性に対し、「将来子どもができたら配偶者に育休をとってほしいか?」というアンケートを行っています(参照)。結果は「はい」と答えたのが45.3%に対し、「いいえ」は54.7%と五分五分です。「いいえ」とした理由で多かったのはパートナーの仕事への影響と将来への不安。そしてパートナーの職場で男性が育休を取得することは「できない」と回答した女性は全体の89.9%。女性からすれば、夫の職場で育休への理解が足りないために、「育休をとってほしい」という声すら上げづらい状況なのです。
一方、こんな調査結果もあります。男性の育児休暇取得経験者に対し「また子どもが生まれたら、もう一度育休を取得したいか」という質問をしたところ、なんと83.9%が「取得したい」と回答しているのです(2014年ユーキャンによる調査)。
さらに、取得したいという意向を持つ男性の75.0%が「男性が育休をとることはよいことだと思う」と回答。男性の育児への関心は実は高いのです。そしてこちらの調査でも「男性の育休取得の障害となっている原因は何か」という質問に対し、「職場の理解が足りない」という回答が全体の57.7%にも上ります。
「パタハラ」がなくならなければ、いつまで経っても男女ともに「男性も育児に参加を」と叫び、実行することはできません。女性にとって、働く会社を選ぶ時に出産や子育てに理解があるかを調べるのは当たり前のこと。今後は男性も育休取得を前提にした職場選びを視野に入れる必要があるかもしれません。
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(安仲ばん)