シングルマザーや性風俗に従事する女性の貧困が、社会問題としてメディアでも度々取り上げられている。彼女たちの多くは自分ひとりの力では変えようのない環境や、メンタルヘルスの問題などによって生活に困難を抱えていることから、社会的な支援が急務だ。
「普通の生活」からの転落 “貧困思考”のワナ
一方で、一見“普通”の生活を送っている働く30代単身女性の間でも、貧困が広がっているという。大学や短大を出て定職についているにもかかわらず、生活に窮しているのだ。女性誌で編集者として活躍する沢木文さんの著書『貧困女子のリアル』(小学館新書)では、リア充をアピールするために消費者金融や家族に借金を続ける35歳、美容マニアで常に金欠状態の39歳、夢をあきらめられずに貧困生活を送る読モ34歳など、「貧困になるのは自業自得」と思われがちな女性たちが続々と登場する。
しかし、彼女たちの背後には、一歩間違えば誰しもが陥る“貧困思考”のワナが横たわっているというのだ。沢木さんへのインタビューを通して、“普通”の生活を送る女性が貧困状態に身を落とす理由を探る。
SNSでの見栄が原因になることも
――著書『貧困女子のリアル』では、仕事もあってごく平均的な生活を送れるはずの女性たちが、貧困に苛まれている状況が詳しく紹介されています。彼女たちに共通点はありますか?
沢木文さん(以下、沢木):私が取材をした女性のほとんどが「人にいい顔したいから」と考えていますね。特定の友人や恋人だけではなく、SNS上でも好かれようとして、ちょっと背伸びをする。そのために、消費を断ち切ることができずに徐々に貧困に陥っている印象です。
――お金の使い方も「見栄のため」であるケースが多いようですね。著書では、SNSにアップしたいがために30万円のトイプードルを購入した結果、世話をしなくなって衰弱させた女性の例も紹介されています。
沢木:SNSは確実に浪費を後押しすると思います。モノ消費だけではなく、コト消費も同じことです。貯金がないのに頻繁に旅行する人、1回8000円の紅茶の会につい参加してしまう人は、貧困の入口に立っていると思います。SNSはログで残るので、何かをしたり人と交流したりしている様子を投稿することで自分が成長したと勘違いしてしまうんです。何かを消費する前に「このモノやコトを自分は本当に必要としているのか」「お金を払う価値はあるのか」という点を疑う必要がありますね。
挫折経験のなさが貧困を招く
――疑うことはできたとしても、あきらめられない人もいると思うのですが。
沢木:それは、やはり挫折の経験がないからでしょう。私自身の経験を例にとると、思春期の頃に好きな人に告白したのですが、「顔が好きじゃない」とフラれたことで、「顔より内面を磨かなきゃ」と思うようになりました。それ以降、本や映画、音楽に親しむようになり、消費以外に興味が向くようになりました。
こんなこと、誰にでもあるようなたわいない経験に思えますが、意外と経験していない人が多いのかもしれません。金欠なのに高額な化粧品や洋服をポンポン買う人を見ると、「失敗したことがないんだな」と思ってしまいます。「貧困思考」に陥らないためには、一度痛い目をみて挫折するか、消費する前に「このモノやコトを自分は本当に必要としているのか」と疑いつづけるしかないですね。
――ただ、このタイプの貧困女子は世間からなかなか理解を得られないのではないでしょうか?
沢木:そうですね。はっきり言ってしまえば自業自得ですから。社会的な支援が必要な人たちではないですが、実情はかなり追い詰められていると思います。ただ、本人たちは結婚すればチャラだと思っているケースが多いですね。しかも、このタイプの貧困女子にはなぜか「中途半端な美人」が多いので、結婚相手の理想も高い。とはいえ、彼女たちが理想とするハイスペックな男性もバカじゃないので、すぐに本質を見抜きます。30代後半に差し掛かって結婚相手について高い理想を語っている人は、だいたい「イタい人」なわけです。でもほとんどの人が「イタい人」に対して「無理でしょ」と真実を告げることはありません。周囲の反応を真に受けない方がいいですね。ここでもやっぱり「疑う力」が必要になってくるんです。
ちなみに、最近ハイスペックな男性たちが、パートナーに美人妻、いわゆる“トロフィーワイフ”を求めるケースが減っているような気がします。たとえば、「経営者と官僚」「医者と弁護士」「投資家と新聞記者」というように高め合える相手を求めているようです。
実家に経済力があると、逆に危ない!?
――著書には、親や兄弟姉妹に借金してまで、モノを買ったり旅行に行ったりする女性が登場しますが、家族にも問題があるのではないでしょうか?
沢木:そうですね。消費を軌道修正できなくなってしまう背景には、いわゆる“実家力”の存在が大きいと思います。たとえば、クレジットカードの返済が足りなくて親に借りたとします。後日、きちんと取り立てる親の子どもは貧困にはならないと思います。逆に、「いいんだよ」とか「しょうがないわね」と言って、ちょっとずつ貸しては、返済しなくても許してしまう場合は危ない。将来的に親子ともども貧困に転落しかねません。
――許してしまうのは、「子どもを助けたい」という親心なんでしょうか?
沢木:親であれば、子どもの役に立つのは嬉しいものですし、子どもに嫌われたくないという思いもあります。とくに、いまの30代の親世代は、戦後の手厚い社会保障のもとで生きてきたので、生活に困ったことがありません。とはいえ、いまほど自由に好きなことを勉強したり、やりたい仕事についたりできる時代ではなかった分、自分の子どもには自由に生きてほしいという思いが強いんですね。さらにいえば、その世代の親は「自由はお金がないと手に入らない」という思考をしがちなので、子どもに掛けるお金を惜しまないのです。基本的には、親が子どもに貸したお金を厳しく取り立てることはないでしょうから、「貧困」に陥らないためには“借りたお金は食費を削ってでも返す”を貫いた方がいいでしょう。
「1週間1000円生活+副業」で貧困予防
――ちなみに、貧困予防に効果的な習慣はありますか?
沢木:1週間1000円で暮らしてみるのはどうでしょう。一度やってみるとわかりますが、「こんなにムダが多かったんだ」と気付きます。本当に1000円で暮らせたら達成感もありますし。要は「生活サイズを縮める訓練」ですよね。
もちろん年収が1000万円、2000万円と高収入なら、それ相応の生活をすればいいと思います。でも、その年収から急に年収300万円になったらどうするか。ワンルームの古いアパートに住んで生活を切り詰められればいいですが、なかなかそんなことはできません。
――生活レベルを落とすのは大変ですよね。
沢木:それもありますし、「周りの人からこう思われたくない」という見栄も関わってきます。特に女性はスクールカーストというランク付けされるコミュニティの中で生きてきた人が多いから、周囲からの評価にとらわれず暮らそうと頭では考えても、実践するのは困難。でも、自分のペースで生きるということに慣れておかないと、これからの時代は危険です。何かあったとき、貧困状態に陥ってしまう。
収入面で言えば、副業もおすすめですね。いつ潰れるかわからない会社に、義理立てする必要なんかないですよ。たとえば 月2万円稼げる副業を5つ見つければ、月に10万になります。10万あればギリギリ暮らしていけるから、雇用に不安を抱えている人でも、「会社がダメでも、他に手段がある」と心に余裕が生まれるはず。そんなに働きたくないよ、と思うかもしれませんが、いまはフリマアプリなど、手軽で楽しく稼げるものがありますよね。月2万稼ぐには写真の撮り方や売れ筋の研究も必要ですが、真剣に取り組めば、趣味のひとつになるかもしれない。そういうふうに小さなところから「自力で稼ぐ工夫」を積み重ねることが、セーフティーネットになっていきます。
他者志向が「貧困」を生む
――結局、「貧困思考=他者志向」なんですね。最後に周囲の評価に振り回されず、「自分志向」で生きていく秘訣を教えてください。
沢木:「人から嫌われてもいい」と思うことです。そして、「自分の幸せ」を追求することが大切です。私は人を取材して原稿を書くという仕事に「自分の幸せ」を見いだしています。「自分の幸せ」を見つけるには、いっぱい失敗するしかありません。私自身、かつては会社に勤めていて、転職も何回もしました。いろんな職場でいろんなことをやってみて、失敗を繰り返しながら「これも違う」「あれも違う」と消去法で「自分の幸せ」が明確になってきたんです。
何でもやってみて、「自分にできないこと」を一つひとつ潰していくのがいいと思います。結局、それが生きやすい。行き当たりばったりでもやってみないとわからない。最初から100点や80点の人生を目指すのではなく、まずは自分が0点しか取れない部分を積極的に探してみるといいのではないでしょうか。