ねこシェアハウス299・松尾江美子さんインタビュー

シェアハウスで、保護猫の命を守る―殺処分を減らす「一時預かり」とは?

シェアハウスで、保護猫の命を守る―殺処分を減らす「一時預かり」とは?

猫を飼いたいと思っていても、「住んでいる部屋がペット禁止」「一人暮らしなので面倒をみきれない」「飼い方がわからなくて不安」などの理由から、飼えずにいる人は多いのではないか。

そんな「猫を飼いたくても飼えないで悩んでいる人」と「保護猫」を繋ぐのが、ねこシェアハウス299。猫の殺処分ゼロを目指す取り組みのひとつとして、「飼い主を増やすことも大切」との観点から考え出された、猫と暮らせるシェアハウスだ。

現在、東京都練馬区の平和台と小竹向原の2か所で運営され、どちらも女性専用となっている。代表は、自身も「猫を飼いたくて飼えずに悩んでいた」という松尾江美子(まつお・えみこ)さん。ねこシェアハウス299を始めたきっかけから、立ち上げの経緯について話を聞いた。

ねこシェアハウス誕生のきっかけ

――ねこシェアハウス299の「299」を「肉球(ニクキュウ)」と読ませたり、物件名が鳴き声にちなんだ「myuhouse(ミュウハウス)」だったりと、猫への温かい愛が伝わってくる取り組みです。どんな思いを込めてスタートしたのでしょうか?

松尾江美子さん(以下、松尾):とても長い間、ずっと猫を飼いたいと思っていたんですけど、家族が猫嫌いだったこともあって、なかなか飼えなかったんです。私自身に猫アレルギーもあったので、「もうこのまま飼うことはないのかな」とあきらめかけていました。でも、2年くらい前に、猫の殺処分に関するドキュメンタリー番組を見て、こんなにたくさん猫が殺されていて、里親募集もしているのに、自分が何もできないことに悔しさを感じて。「私にできることって一体何だろう」と考えた末に、私と同じように猫を飼うことをあきらめている人に猫と暮らせる場所を提供することならできるな、と思いついたのがきっかけでした。

「一時預かり」としてのねこシェアハウス

――平和台のシェアハウスの定員は人間5名に猫5匹、小竹向原の定員は人間6名に猫6匹となっています。シェアハウスで暮らす猫は定住しているわけではなく、里親会で新しい飼い主が見つかるとハウスを卒業し、また新しい保護猫を迎え入れるというサイクルだそうですね。

松尾: 里親会や譲渡会の主体となるのは保護団体ですが、たくさんの保護猫をそれらの団体だけで抱えるのは大変です。ねこシェアハウス299は、ボランティアで保護猫を預かってお世話をすることで保護団体をお手伝いする立場にあります。

保護猫の所有権はあくまで保護団体にあり、里親会や譲渡会の開催、里親の審査なども、シェアハウスではなく保護団体が行っています。ハウスの猫も定期的に譲渡会に参加していて、オープンから1年で6匹が卒業していきました。

保護猫を保護団体から預かってお世話するボランティアは、「一時預かり」と呼ばれています。猫を飼ってみたいけど躊躇していた方はけっこういると思うんです。いきなり飼うのは大変ですが、ねこシェアハウスの一時預かりを通して猫と暮らす経験をすれば、「自分でも飼えるかも」と自信がつきます。環境が整わなくて飼いたくても飼えないという人も、一時預かりをする場、例えばこのシェアハウスがあれば猫と関わることができますし、保護猫をお世話することにも繋がります。一時預かりというシステムはまだあまり知られてはいませんが、今後はもっと広めて、保護猫の面倒をみられる場を増やしていきたいと考えています。

ねこシェアハウス299

入居者の各個室に猫専用ドア

――ねこシェアハウスでは、どんなふうに人と猫が生活を送っているのでしょうか。

松尾:入居者は、実家に猫がいたという方と、猫を飼ったことがないという方が半々くらいいます。通常のシェアハウスと同じように入居者一人ひとりに個室があるのですが、猫だけが行き来できる猫専用ドアも付いていて、猫が家中を自由に歩き回れるようになっています。

ねこシェアハウスは、普通の一軒家を改装して利用しています。猫と暮らすとき、においは大きな問題ですよね。いろいろ調べたところ、内壁に漆喰を塗ると、においや湿気を吸収してくれると知り、自分たちで塗装作業をしました。ハウスを作るにあたっては、先に近隣住民に手紙を出すなどして理解を得られるように努力しました。そのおかげか、猫が脱走したときには、ご近所のみなさんがとても親切に協力してくださるんです。

ねこシェアハウス299

猫は高いところが好き。壁には猫が登れる棚も設置されている。

「完全室内飼い」「不妊・去勢手術」で猫を守る

――ねこシェアハウス299では、完全室内飼いだそうですが、なぜですか?

松尾:猫を危険な目にあわせないためです。都会だと交通量も多く、車にはねられたり、事故にあったりする可能性があります。病気になってしまうとか、迷子になって帰れないということもありますし。また猫の糞尿被害の問題もあり、ご近所トラブルを防ぐことも目的のひとつです。

――猫を飼うとなると、不妊や去勢の手術も必要になってくると思いますが、それについてはどう考えていますか?

松尾:不妊・去勢手術は、ホルモン値が安定して長生きする、病気のリスクを減らせる、性格が穏やかになるなどの効果もあるそうです。特に殺処分を減らすには、不妊・去勢手術は有効な手段です。実は殺処分されている猫は、野良猫が産んだ子猫がほとんどなんです。環境省の統計によると、保健所に引き取られる猫のうち71%が子猫で、子犬は19%です。猫の場合、子猫を増やさないようにする取り組みが、猫の殺処分を減らすことに直結するわけです。不妊・去勢手術の是非は、どういう猫が殺処分されているのか、どういう過程でそういった猫が生まれてくるのか理解した上で議論する必要があると思います。

「猫=飼いやすいペット」という誤解

――いまは「猫ブーム」といわれていますが、どう思われますか?

松尾:日本人はブームが大好きで、スイーツでもブームがよく移り変わるじゃないですか。そんな「ノリ」を猫ブームにも感じてしまって、「ブームが終わって、次のブームに乗りかえようってなったら、猫の命はどうなるの?」と懸念しています。

「猫って犬より飼いやすくていいよ」という発言にも疑問があります。猫って、そんなに飼いやすいわけではないんですよ。何を考えているのかわからないし、「こうしてほしい」とコミュニケーションをとろうとしても伝わらず、まったく予測がつかない動きをするんです。部屋を散らかしたり、大切な物を壊されたりすることだってあるし。そういう場合に「許せない!」「もう無理!」と感じれば、ブームにあおられて猫を飼った人の中には、ポイッと捨てちゃう人だっているかもしれない。安易に猫を飼うと、猫も人間も苦しむことになる可能性だってあるんです。

いまだ1日300匹の犬・猫が殺処分されている

犬・猫の殺処分の数は、ここ10年で約4分の1に減少している。その理由のひとつとして、迷子の犬・猫を元の飼い主に返したり、捨て犬や捨て猫を新たな飼い主に渡したりする、「返還・譲渡」の取り組みがある。自治体や動物保護団体などによる地道な努力のおかげで、保健所に引き取られた犬・猫の返還・譲渡の割合は、2004年の7%から、2014年には33%まで増えた。

しかし、犬・猫の殺処分は、いまだ年間10万匹以上も行われており、いまなお1日300頭もの犬・猫が命を奪われているという現実がある。そうした現状の只中で、ねこシェアハウスから学ぶことは多い。

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