早稲田大学准教授・入山章栄さんインタビュー

なぜ日本人は必死で英語を覚えるのか? 経営学者が分析する「グローバル」の弊害

SHARE Facebook Twitter はてなブックマーク lineで送る
なぜ日本人は必死で英語を覚えるのか? 経営学者が分析する「グローバル」の弊害

書店の雑誌コーナーやビジネスコーナーに足を運べば「グローバル」「ダイバーシティ」などといった用語が踊り、「どうやってグローバル化を進めるべきか」「女性活用やダイバーシティとは?」というテーマがこぞって書き立てられている。あたかも、一斉に右へ倣えをしているかのようだ。しかし、「そういったビジネス書で取り上げられているような見識の多くが、世界の第一線で研究されている経営学からみると、全く異なる姿が浮き上がってくる」と指摘するのが、早稲田大学ビジネススクール准教授・入山章栄先生だ。

今回は、二冊のベストセラー『ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学』『世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア』を著書に持つ入山先生にお話を伺った。

「グローバル化」「ダイバーシティ」に踊らされている

――最先端の経営学から見て、現在ビジネスの現場で常識となっていることの中で「ちょっと違うなぁ」と思う部分はありますか。

入山章栄さん(以下、入山):まず、最初にお伝えしておきたいことがあります。経営学はあくまで「理論的に考えればこうだよ」「データを解析してみると、平均的な企業・組織の傾向はこうだよ」と指摘するものなので、世間一般に広まっている考えと比べてどちらが正しいというものではありません。

「経営学がこう言ってるから、世間は間違ってる」というものではないんですね。ただ、「経営学者としての視点から見ると言えること」というのは確かにあって、たとえば「グローバル化」がいい例だと思います。

“グローバル企業”はキャノンとマツダのみ

――「グローバル化」はもはやビジネスの世界では当たり前になった、という感がありますよね。

入山:「グローバル」というのは非常に漠然とした定義ですよね。多くの会社が「グローバル企業」を標榜している訳なんですけれども、拙著『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』の中で指摘した通り、「グローバル企業=世界でまんべんなく売り上げている企業」と定義づけすると、実際は驚くほど少ないんです。

著書の中で取り上げたのは、アラン・ラグマンというイギリスの高名な経営学者が行なった、2000年頃のデータを使った研究です。当時は北米とアジアとヨーロッパが経済の中心でした。そこで、各地で売上を比較的均等に上げている企業を「グローバル企業」だと定義づけすると、フォーチュン500に数えられるような世界の超大手企業360社の中でも、該当するのが9社しかなかったんです。

世間的には「スーパーグローバル企業」というものが多く存在していて、そういった会社は世界のどこでも売上が立てられる、ややもすると「世界中の市場を支配できるような強さを持つ」といったイメージがあるかもしれませんが、ファクトで見ると、そうではないんです。

北米でのビジネスに強い会社でも、アジアでは上手くいかないとか、逆にアジアでは上手くいっているけれどヨーロッパでは思うように売上が上がらないとか、実は一見「グローバル企業」と思われる会社でも、ほぼ大部分はそういう状況なのです。

研究から15年ほど経ちましたが、今でもこの傾向は同じのはずです。日本企業でいえば、2014年のデータを使って私が分析した結果だと、先の定義にあてはまる大手企業はキャノンとマツダの2社のみです。

「グローバル」の言葉に振り回される

――想像していた以上に少ないんですね!

入山:もちろん、これは学者がどう定義するのかによります。とはいえ、大事なのは「言葉に踊らされないこと」。「グローバル化」とか、「ダイバーシティ」とか、そういう言葉に振り回されないことです。

特にビジネスの世界は、常に新しい言葉があふれています。最近の例で言えば「健康経営」なんて言葉も急速に出て来ていますよね。

実は先日、詳しい人に話を聴いたんですが、実際は「健康経営」という言葉の定義すら曖昧らしいんですね。ボクも「健康経営」って何となくいいことだと思うんですけど、「じゃあ『健康経営』ってなんなの?」と。

なんとなく世間で認知されているのって、「従業員が健康になったら会社の業績が伸びる」ということですよね。それが本当なのかとか、「実は因果関係が逆で、会社の業績がいいから社員が元気なだけじゃないのか」とか、経営学者の目からすると考えてしまうんです。

実際、その詳しい方に話をきくと、例えば現在の健康経営の定義には、「オープンな職場で従業員が上司と一緒に腹を割って話せること」も入るらしいんですよ。「それは『健康』じゃないじゃん! オープンな環境にいる人達が強いってことじゃないの!?」と思っちゃうんですよね。

猫も杓子も口を開けば「英語を勉強しなきゃ」

入山:このように、巷にある「バズワード」には振り回されないことが重要です。「グローバル化」や「健康経営」もそうですし、「ダイバーシティ」も然り。学者はそれが気持ち悪いので、学術的に定義しようとします。そして統計分析等で、厳密に検証しようとする。逆にそういうプロセスを経ないと、言葉だけが先行してしまうことがある。

今、多くのビジネスパーソン達は、猫も杓子も「グローバル化しなきゃ」「英語を勉強しなきゃ」と躍起になってますよね(笑)。それはプラスのことかもしれないんですが、結構根拠なく言ってる場合が多いのかもしれません。

>>>後編に続く

この記事を読んだ人におすすめ

この記事を気に入ったらいいね!しよう

なぜ日本人は必死で英語を覚えるのか? 経営学者が分析する「グローバル」の弊害

関連する記事

編集部オススメ

仕事と恋愛、キャリアとプライベート、有能さと可愛げ……女性が日々求められる、あるいは自分に求めてしまうさまざまな両立。その両立って本当に必要?改めて問い直すキャンペーンが始まります。

後悔のない30代を過ごしたい。ありとあらゆる分野のプロフェッショナルに、40歳から自分史上最高の10年を送るために「30代でやっておくべきこと」を聞いていきます。

記事ランキング
人が回答しています