お笑い評論家・ラリー遠田さんインタビュー(後編)

笑いの本質はタブー破りなのか? マツコ、有吉が引かれないワケ

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笑いの本質はタブー破りなのか? マツコ、有吉が引かれないワケ

お笑い評論家のラリー遠田さんにお笑いの世界にある差別表現やモラルについて伺うインタビューの後編です。

【前編はこちら】女芸人が女を捨てたら、誰も笑ってくれない ラリー遠田が語る、笑いと女性差別

暴漢に拉致される「ドッキリ」はアリなのか?

――知り合いのライターさんが、とある人気番組の制作チームに取材にした際に、こんなことを言ってました。その番組制作のメインの部分に関わっているのは男性だけで、女性はアシスタント。制作チームの男性たちは「女が関わったら番組がつまらなくなるから」って言っていたと。未だに仕事の現場で「男」「女」という、個人ではどうしようもない属性で評価が下ることがあるんだなあ……と残念に感じます。こういう話を聞くと、バラエティの番組づくりは男の人が思う面白さが基準なんじゃないかと思ってしまいます。

ラリー遠田さん(以下、ラリー):うーん、確かにその例はどうかと思いますが、一概に全ての人にそういうところがあるとも言えないとは思いますけどね。なぜならテレビの視聴者は女性の方が多いし、女性に好かれる芸人の方が売れます。女性の意見や考え方そのものにニーズがないわけではありません。

――昨年ですが、ドッキリをやる企画で、カラオケで熱唱しているおかずクラブのスカートの下に「セクハラプロデューサー」がカメラを入れて中を撮影、反応を見るという企画があったんです。実際にスカートの下にカメラを入れていて、その時点でドッキリではなく性的嫌がらせだと思いました。あと最近では、いとうあさこさんが『イッテQ』で黒尽くめの複数の男性に拉致されるっていうドッキリがあって、あれについては批判も多かったようです。

ラリー:撮影されている本人にとっては、されているときは本当にされているのと同じですからね。業界側の言い訳としては、「『お笑いでやっていく』と言ってる以上、そういうこともありますよ」ってことなんだと思います。男芸人も日常的に人権侵害されてますからね。痛い思い、恥ずかしい思いをしたり。社会のルールを厳密にすべて当てはめてしまったら、お笑いの世界は今よりも狭くなってしまいます。

――「表現の自由」という話になると難しいですね。

ラリー:お笑いもテレビも単なる資本主義に沿って、大衆のニーズに応えているだけ、というところはあると思います。作っている人に「女性を差別している」という意識はないはずです。極端な話、お笑い界が男女平等を実践して、テレビに出ている芸人を男女1対1の割合にするとするじゃないですか。でもそんなことをしても何の意味もないですよね。結果的に面白ければ、男でも女でもどっちでもいい。その原則の結果として、今があるわけです。別に男が一方的に女の権利を抑圧してきたわけではないから、そこは仕方ないんじゃないでしょうか。

――でも、その「面白い基準」を決める人、番組の決定権を持っている人が男性ということが多いのでは。

ラリー:いや、さっきも言ったとおり、お笑いは女性ファンも多いですし、そこは男性の意見だけというわけでもないと思いますよ。テレビ制作者も芸人も、男性の割合が圧倒的に高いとは思いますが、それは単純に、そもそも男性の方がそういう仕事を目指す人が多いからだと思います。男性が女性を差別しているから女性が上に行けない、というような構造があるわけではないと思います。

笑いの本質はタブーに触れること?

――ブスいじり以外にも、ビジネスキスとか叩いたりとか、芸人が嫌がる様子を見て喜ぶ……みたいな定型がありますが、あれって何が面白いのかな、幼稚だな、と思うことがあります。

ラリー:根本的なことを言うと、笑いってよっぽどのことがないと起こらないものなんです。人を笑わせたければ、何かドカンと大きなことを仕掛けなければならないわけです。その方法の1つに「タブーを犯す」ことがある。たとえば親戚一同が大勢が集まっている席で、1人明らかにカツラのおじさんがいるとします。カツラだってバレバレだったとしても、その場にいる大人は誰も指摘しないですよね。この感覚が普通の社会です。でもその時に小学生が「おじさん、どうして家の中で帽子をかぶってるの?」って言ったら笑えるかもしれないじゃないですか。この「言っちゃいけないことを言う、やっちゃいけないことをやると面白い」っていうのが本質にあるんです。

――なるほど。

ラリー:人に「ブス」って言っちゃいけないのは当たり前なんですが、でも言っちゃいけないからこそ、それを言うと面白くなることがある。プロの芸人は、結果的に笑いが起こるなら、それをやってもいいという権利を与えられているわけですよ。ブスいじりがなくならない理由はこれだと思うんですよね。だから「ブス」と言った方も「セクハラをしてしまった」という罪悪感はほとんどないと思います。その感覚があったらお笑いなんてやってられませんから。どちらかというと、誰かを「ブス」と言って笑いが取れなかったときに、ブスとまで言ったのにウケなくて申し訳ない、という罪の意識を感じたりすることはありそうです。そちらの方が芸人さんっぽい感覚のような気がします。

――笑いの本質は、タブーを破ることなんでしょうか?

ラリー:それだけとは思いませんが、1つの手法としてそういうものはありますよね。でもそこには本当に言ってはいけないことだったり、笑いを通り越して引かれてしまうラインがあります。極端な話、日本のバラエティ番組で天皇や皇室をジョークのネタにすることはできませんよね。いわゆるセクハラまがいの行為というのは、そのできる・できないのボーダーラインぐらいにあるんだと思います。「ババア」はセーフかなとか、「ブス」は言い方によるかな、とか。グレーゾーンがあって、そこで駆け引きが生まれる。もっと言うと、タブーはギリギリだから面白いんですよね。要はチキンレースなので、プロの芸人は引かれないギリギリのグレーゾーンを狙うんです。

――「引かれないギリギリ」を狙うのがうまい芸人さんって誰でしょう?

ラリー:今だと有吉弘行さんとか、芸人ではないけどマツコ・デラックスさんですね。崖っぷちまで行っているふりをしているけど、実際はもっとだいぶ手前で止まってるんです。有吉さんの芸風を表面的に真似して、笑えないただの悪口を言ってイタいことになってる人は多いと思いますよ。

――有吉さんはどんなテクニックを使ってるんでしょうか?

ラリー:漫画家の田房永子さんが以前コラムの中で分析していましたが、番組の中でSoweluさんが「痴漢にあった」という話をしたら、テレビのスタッフが「あなたが挑発的な格好をするからですよ」と言ったらしいんですね。その話について有吉さんが「そんなひどいことを言うスタッフがいたんですか!」って笑いながら言う。そこがギリギリのラインなんです。乗っかったらセクハラになるし、かといって真面目な顔で「そんなことを言う人がいるんですか」って言ったら正論すぎて盛り上がりに欠ける。ニヤニヤしながら「そりゃだめですよ」って言うのがラインなんですよね。そこを狙えるかどうか。

モラルとタブーの境界がわからない人もいる

――「ウケるためにあえてタブーをやっている」ということを理解できない視聴者もいると思います。タブーを破っている芸人さんを見て、「自分もあれをやっていいんだ」と思ってしまう人。それを現実社会でやられると困るなと。

ラリー:ウケたこととモラルとしてどうかってそもそも別の話なので、かみ合わないんですよ。数年前に『FNS27時間テレビ』の「爆裂お父さん」という企画で極楽とんぼの加藤さんがまゆゆ(渡辺麻友)の顔面を蹴ったことがあったんですけど、これは常識で考えればもちろんダメなことですよね。でもお笑いの現場的には「ウケたならOK」ということになるんです。現場としてはどういうコーナーで、どういう趣旨で、どういう振りがあって、っていう文脈があるんですよ。その文脈によると思います。

――お笑いの世界はお笑いの世界のルールで成り立っていることを視聴者が理解する……ということでしょうか。

ラリー:ぜひ理解すべきとまでは言いませんが、テレビの中で起こっていることはテレビの中だけのことだ、という当たり前のメディアリテラシーは持っていた方がいいかなと思います。いい意味で「たかがテレビ番組」と思って、軽い気持ちで見て楽しむぐらいが健全ではないでしょうか。お笑いの世界ではタブーを破って「笑える」。そこに救いがあると思います。

――救いがあるというのは?

ラリー:実社会は正しいこととそうじゃないことがあらかじめ決まっているので、ときに退屈に感じたり、窮屈に思ったりすることがあるわけです。でもお笑いは、悪いことでも笑えれば悪いことじゃなくなるという奇跡が起きる。例えば、目上の人や権力者に対する悪口でも、それがきちんと笑える風刺になっていれば許される。知性と勇気があれば、悪いことも笑いというポジティブなものに転換できる。そこに希望を感じるんです。「悪いことだからやめろ」というのは簡単なんですけど、でもその悪いことで救われる人もいます。お笑いの存在意義って多分そこだと思うんですよね。

――なるほど。少しわかった気がしました。ありがとうございました。

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