高齢出産、リスクはあるがメリットだらけ「きっちりと人生設計ができる」

産後のリアルや高齢出産のメリットを、株式会社ユナイテッドアローズの最年少・女性初執行役員で、41歳での高齢出産を経験した山崎万里子さんが語るイベントのレポート後編。「仕事のできる女性」ほど陥りがちな子育ての罠や賢い保活のやり方、山崎さんがしみじみ感じた高齢出産のメリットとは何なのでしょうか。
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仕事のできる女性が産後うつになりやすい理由
山崎万里子さん(以下、山崎):子育てについて「24時間態勢でいなければならない」とか「断続的にしか眠れない」とかは覚悟していたんですが、仕事の好きな女性ほど、完璧主義や強いこだわりで産後うつになりやすいということがよく分かりました。
たとえば、育児本を見ると「母乳が子どもを強くする」と書いてあるので、「絶対母乳で育てよう」と思うんですが、私の場合母乳は簡単に出ませんでした。子どもが生まれたら母乳は出るものと思っていたので、なんとなく自分が欠落した人間のように感じたんです。それで母乳ノイローゼになりかけました。
他にも、「新生児は一日30gずつ増えていく」と本に書いてあったりします。そうすると、毎日毎日体重を測って確かめないと気が済まないんです。一日27gしか増えてなければ、「3g足りない!」とパニックになったりして。普段だったらそんなにナーバスになったりしないんですが、仕事で複数のプロジェクトに分散していたモチベーションが、たった一人の赤ちゃんに向いてしまうんですね。
赤ちゃんが気まぐれで、コントロールのできない生き物だということは分かっています。それを受け入れよう、受け入れようと思っていても、仕事ができる人ほどコントロールしたくなってしまう……。それでどんどん辛くなってしまうんです。
産後うつにならないためのキーワードは「手抜き」と「判断の物差しは子どもの笑顔」です。母乳を飲まなくても、育児本通りに体重が増えてなくても、子どもがニコニコしていればOK。「頑張らないことを頑張る」って、すごく大事なんです。
ちなみに、私の母乳ノイローゼは、母の「まりちゃん……。今まで言ってなかったけど、あなたは母乳じゃなくてミルクで育ってるのよ」という一言で救われました。
産むよりも保育園探しのほうが大変だった
山崎:私は産後二ヶ月で仕事に復帰しました。労働基準法で定められている、最低限休まなくてはならない日数が56日なのでほぼイコール。「そんなに仕事をしたいんですか!?」と聞かれることもあるんですが、どちらかというと、保活(※保育園探しのこと)のために速やかに復職したんです。正直、産むよりも保活のほうが大変でした。産んでから保活を考えるのでは遅すぎます。妊娠が分かったら、同時に保活の準備を始めるのが賢いやり方ではないかと思います。
首都圏での保活って本当に大変で、申し込んめば入れるものではありません。ただ、認可保育園に入りやすくなる加点条件というものがあって、「共働きである」「夫、妻が復職している」「既に認可外保育園に入っている」などが挙げられます。そこで、妊娠4ヶ月くらいの頃になって、まずは入れる認可外保育園を探すことにしました。
保育園に入るためには見学会に参加する必要があるのですが、申し込みの時点で競争率が非常に高く、申し込みの開始とともに電話が殺到します。そこで私は家族や友人に協力してもらい、東京・福岡・沖縄から一斉に電話をかけて、見学会参加枠を獲得しました。結局30ヶ所くらい探して、ご縁があり。いまのプリスクールに息子を入れました。
保活をしていると「認可保育園か認可外保育園か」で迷うこともあるでしょう。認可にするか認可外にするかは、自分の育児方針に照らし合わせて決めるのがよいと思います。うちは男の子ですから、3歳4歳になったとき、友達と外で遊んだり喧嘩したりしてほしいと考えて庭が広く人数の多い認可保育園を希望していますが、女の子ならその限りではないかもしれません。
保活とあわせて、「今後どう子育てしていくか」という方針を固めていってください。
仕事の育児の両立には「馬力を上げる」のが大事
山崎:仕事と育児を両立させるために努力したのは、「馬力をあげること」です。産後うつの経験から、「完璧主義にならない」「誰かを頼る」ことが重要だと分かっていましたから。
実家は福岡なのですが、両親に上京してもらい、同じマンションに住んでもらいました。そして、夫と合わせて4人で育児を回していくようにしたんです。仕事の面では、かなり無理を言って打ち合わせの時間を私に合わせてもらったり、業務の棚卸をして人に振り分けたりしました。
今、私は「フルタイムジョブ、パートタイムママ」の状態です。これは日本経団連初の女性副理事吉田春乃さんの言葉です。実際私はフルタイムで仕事をし、帰宅すれば母の作ってくれた夕食ができていて、あとは子どもをお風呂に入れて寝るだけ。私が息子と触れ合うのは、実質2時間くらいです。「これで母親として本当にいいのかな?」と思うこともありますが、なかなか子どもと会えない分、一緒にいる時には濃密な時間を過ごすようにしています。「必ずしもかける時間が愛情じゃない」と割り切ることで、不安を払拭しているんです。
これはあくまで私自身の話で、フルタイムを推奨するわけではありません。ただ、どの選択肢をとっても、仕事と育児を両立する限りは不安を抱えざるを得ないと思うんです。そのもやもやを解消するためにも、「子どもが笑顔でいるかどうか」を判断基準にするのが重要です。
流産や遺伝子リスクを除けば、高齢出産はいいことばかり
山崎:私にとって高齢出産は、流産の可能性や遺伝子リスクを除けばいいことしかありませんでした。
41歳にもなると、周囲の友人に出産経験者が多くなるんですね。先輩がたくさんいるわけです。ですからさまざまなアドバイスや、お下がりを貰えます(笑)。
また、思いがけない妊娠で人生プランが変わることがないので、きっちりと人生設計をすることができます。貯金もキャリアもありますから、出生前診断などに投資できますし、「産休中こうしてほしい」「育休が明けたらこうしたい」という希望が職場で通りやすくなります。
ただし、そのためには、出産の前に「量ではなく、質で仕事をこなす」フェーズを作っておくのが不可欠です。復職したら、出産前と同じ仕事量をこなすことは絶対できません。ですから、「私にしかできない仕事」、専門性や実績を積み上げておくことが大切だと思いますね。