『ジェンダー・マリアージュ〜全米を揺るがした同性婚裁判』レビュー

合法だった同性婚が無効に 愛する人との関係を否定する法律の罪深さ

合法だった同性婚が無効に 愛する人との関係を否定する法律の罪深さ
合法だった同性婚が禁止された――そんな出来事が、アメリカ・カリフォルニア州で起こりました。2組のカップルは、人権侵害だとして州を提訴。その闘いを描くドキュメンタリー映画『ジェンダー・マリアージュ〜全米を揺るがした同性婚裁判』が公開されています。多様性への理解が叫ばれるなか、同作は私たちに何を伝えるのでしょうか。ライターの渋井哲也さんが解説します。

法廷を描くドキュメンタリーは珍しい

『ジェンダー・マリアージュ〜全米を揺るがした同性婚裁判』という映画を観ました。同性婚が合法とされていたアメリカ・カルフォルニア州で、2008年11月、結婚を男女間のみとする州憲法修正案「提案8号」が成立しました。それまで認められていた同性婚が無効とされたのです。愛する人同士の結婚を異性間に限定するのは人権侵害だ、として、2組のカップルが原告となり、連邦最高裁で同性婚を認める判決が出るまでのドキュメンタリー映画です。

裁判の映画でイメージするのは陪審員をテーマにした『十二人の怒れる男』や『12人の優しい日本人』、冤罪をテーマにした『13階段』『それでも僕はやってない』などがありますが、いずれもフィクションです。

一方、冤罪事件として有名な布川事件を扱った「ショージとタカオ」は仮釈放後から再審公判までの14年間を扱ったドキュメンタリー映画です。「ジェンダー・マリアージュ」と人権という共通のテーマではありますが、法廷ものではありません。そのため、テーマだけでなく、映画の作りにも興味がありました。

「自分自身より、相手を愛している」

冒頭では、法廷でどのように対応するのかの事前の練習が繰り返される映像が流れていました。最初は論理の中身に関心が行き、映像としては単純なものが繰り返されていましたが、進行するにつれて、2組のカップルたちの表情の豊かさに引き込まれていきます。

女性カップルの一人は相手の女性を選ぶ前は男性と結婚していました。そのことを問われると、「彼女に出会って初めて、本当の愛を感じることができました」とカメラの前で語りました。また男性カップルの一人は「自分自身よりも相手のことを愛している」と言いました。

愛する人との関係を否定する法律の罪深さ

それを聞いて、果たして自分はそこまで相手を思ったことがあるのか? と振り返りました。性自認や性的指向は選ぶことができないものです。と同時に揺らぐことがあります。2組のカップルはそれをわかりやすく伝えています。だからこそ、愛している人との関係を否定する法律の罪深さを十分感じることができます。

一方で、同性婚を認めない世論があるからこそ、同性婚を禁じる「提案8号」が可決されたわけです。2組のカップルは嫌がらせを受けます。裁判所付近でも、同性婚を認めないデモやヘイトスピーチも行われ、反対の声も自覚していました。しかし、2組のカップルの行動によって世論も変化していきます。さらに同性婚を禁じた州側の証人として出廷する専門家が、最終的には「同性婚を認めることがアメリカらしさ」と、事実上賛成に回ったのです。

2組のカップルを支えた弁護士の個性も見所です。

LGBTへの理解、日本はまだ「途上」

この映画は性自認や性的指向、恋愛、結婚……様々な点について考えることができる作品です。アメリカ社会の寛容さが感じられると同時に、人が真摯に訴えれば、社会制度も変えられるのだと実感。学生時代に読んだ、イエーリング著『権利のための闘争』を思い出しました。

日本でも東京都渋谷区で同性間のパートナーシップを認める条例が成立しました。そのとき、条例制定を喜ぶ同性カップルたちの表情は実ににこやかでした。しかし、一自治体の条例ですので、その効果が及ぶ範囲は限られています。まだ日本はその途上にあります。

ちなみに、映画が始まる前、「裁判モノのドキュメンタリーで泣けるの?」と、一緒に見た知人に言っていた私ですが、結婚が認められたときの男性カップルが泣きながら本当に嬉しそうにしていたのを見て涙が溢れ、周囲からも鼻水をすする音が聞こえてきました。2組のカップルの豊かな表情を見て、難しい論理抜きに、祝福したいと思えたのです。

■公開情報
『ジェンダー・マリアージュ〜全米を揺るがした同性婚裁判』
公開中
公式サイト(上映スケジュールはこちら)
配給:ユナイテッド・ピープル
監督:プロデューサー ベン・コントナー、ライアン・ホワイト
編集:ケイト・アメンドA.E.C

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