『先生の白い嘘』鳥飼茜さんインタビュー(前編)

身近な性被害を“男女平等”でごまかしたくない 『先生の白い嘘』作者・鳥飼茜が語る

身近な性被害を“男女平等”でごまかしたくない 『先生の白い嘘』作者・鳥飼茜が語る
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先生の白い嘘』(講談社『モーニング・ツー』にて連載中)は、女性教師を主人公にした学園漫画。性的弱者である女性が感じる不条理、苦しさを描くと同時に、男性も「男らしさ」「男性性」の枠に縛られていることの不自由さを指摘しています。

現在、多くの連載を抱える人気漫画家の鳥飼茜さんに青年誌で「性の不平等」を問いかける意義、私たちを縛り付ける「男らしさ」「女らしさ」の根っこにあるものは何なのか、話を聞きました。

女性に対しては「分かってほしい」と甘えてしまう

――『先生の白い嘘』連載に至ったきっかけを教えてください。

鳥飼茜さん(以下、鳥飼):女として生きていて男の人から受ける性的な不条理とか理不尽さみたいなものを、私生活では都度都度人に不満としてこぼしていたんだけど、喋ってもあまり伝わらないので、ちゃんと物語として表現して伝えてみたいと思っていました。

ただ、それはテーマとしてダークな部分が多く、難易度が高いという理由から、まだそういう話を描くのはちょっと早いかな、となかなか企画が通らなかったんです。

ある程度漫画家として長くやって実績ができたところで、次に何を描こうかって話になったときに、今なら大丈夫かもと『先生の白い嘘』の構想を話したところ、その当時の編集さんが「面白い、やってみよう」と言ってくれたので連載が開始しました。

――男性の性について、批判的な切り口も含んだ作品だと思うのですが、なぜあえて男性の目に触れる青年誌での連載を選んだのでしょうか。

鳥飼: その頃には女性誌でも連載を持っていたのですけど、革新的なことをしようというときに女性だけじゃないところ、他人の目みたいなものがあるほうが私は良かったんです。

同性を相手にこの題材で発表したとしたら、「わかるよね」と、共感に甘えてしまうんじゃないかと。

――男性に向かって作品を出すほうがインパクトが強い、と。

鳥飼:それはありますね。男の人のいるところのほうが闘っている、っていう気分になるんだと思う。「漫画」を使ってどれだけ伝えられるかという思いがあります。

レイプするキャラクターへの嫌悪は男性の方が強い

――男性読者からの反応はどんな感じだったんでしょうか。

鳥飼:連載当初は、「男性誌でこういうことを描かないでほしい」って声があったそうです。でも、思ったより大きな反対意見はなかったですね。

男性と女性の反応で意外だったところは、早藤という女性をレイプする、暴力的な「男性性」をもつキャラクターがいるんですが、彼に対する男性の嫌悪感の強さです。

女性からはそんな声はあまり聞かないんだけど男性の方が「あいつを何とかしろ」って怒っていましたね。

――男性は、自分の性の暴力性を重ねて、同族嫌悪しているのでしょうか。一方、女性の読者からは「レイプシーンがキツ過ぎて読めなかった」という意見も聞きました。これは描いているご本人も相当しんどいんじゃないかな、と思う部分もありましたが。

鳥飼:もちろんありますよ。描いてて気持ち悪くなることもあります。

また、私の漫画の中では登場人物が異性に向かって攻撃的な言葉を放つシーンが多いのですが、その時は表現をとくに深く考えるので。

攻撃したからには、こちらもされるし、そこに責任が生じます。

――攻撃的なことを描いたからには自分も返される覚悟が必要だと。

鳥飼:男性のキャラをかぶって女の人にキツイことを言わせたりもしているし、同じ女として暴露っぽいこともしているし。
普段人間が見たくない、目をそらしている男女の生態を描いているという自覚があるので、そういうものに対する批判や意見はお腹にズンとくる感じがあります。

男女が表面的に近づくことで生じる問題

鳥飼茜さん

鳥飼茜さん

――それでも性の不平等や不条理さを訴えかける意義っていうのは何なんでしょうか。

鳥飼:1つにはやっぱり抑圧されている人がいることを見聞きしている、実際に怖い目にあっている人がいるからですね。それはないことにはできない。

毎日「どこかで誰かがレイプされている」なんて四六時中考えていたらしんどくて生きていけないんだけど、私は私なりに、その被害をなかったことにしたくない。

50年前100年前に比べたら本当に男の人と女の人って表面的には近づいていると思うんです。同じ会社で働くし、同じ学校で同じ勉強をするし、性教育だって別々ではないし、男の人も主夫になったりするし。でも、表面的に接近したことによって、性差でおきる事件や被害が目に見えづらくなっていると思うんです。

男女で仕事する時、いちいち「この人にレイプされるかもしれない」と思ってたらやっていけないから、当然ながら「男女は関係ない、相手を信頼している」ってことにしている。

そうやっているうちにいろんなものが「なかったこと」になっていくような危機感があるんです。性被害とか性差別とか。それは女性から男性へのものも含めて。

でも実際にそういう被害は存在しているし、信頼ベースじゃないと進まないところにつけ込んでくる人もいるから、それをないことにしたままで「抑圧から完全に解放された」みたいな時代を迎えることは期待できないです。

今一度、男女の性差は「ある」っていうところから一回考え直していこう、という思いはあります。

【後編はこちら】AVを真似するのは自分の“快”がわからないから 「女らしさ」の正体を鳥飼茜が分析する

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