13歳で結婚。14歳で出産。恋は、まだ知らない。――このキャッチコピーを電車内などで見かけたことがある人も多いのではないだろうか。一度目にしたら忘れない鮮烈なメッセージを放つこのキャッチコピーは、公益財団法人プラン・ジャパンが行う、世界の女の子を応援するキャンペーン「Because I am a Girl」を推進する目的で生まれた。
たとえば、日本からそう遠くない南アジアの貧困層の女性たちの大半は、決められた相手と10代で結婚し出産する。そして、恋を知らぬまま、まともな教育も受けられず家事と育児で一生を終えるのだ。そんな過酷な暮らしを強いられた少女たちは、日々なにを希望として生きているのか。現地の実態、当事者である少女たちの声、彼女たちを取り巻く周囲の感情について、プログラム部の寺田聡子さん、コミュニケーション部の後藤亮さんに伺った。
産む前に女児だとわかると、中絶することも
――南アジアの貧困層に暮らす少女たちは過酷な生活を強いられていると拝見しましたが、リアルな生活の実態を教えていただけますか?
寺田聡子さん(以下:寺田):南アジアと一言でいっても、国によって環境はさまざまです。私たちは現在、インドの女子教育を支援するプロジェクトを行っていますので、今回はインドの貧困層の実態をお話しますね。そこで女の子が直面する問題は、大きく4つあります。
1つめは「女の子だから生まれてこられない」という問題。インドでは生まれてくる子が女の子だとわかると、中絶する場合が少なくありません。なぜなら、息子は価値がある資産として扱われるのに対し、娘は将来結婚する時、嫁ぎ先に家財道具一式や結婚持参金を送る慣習(ダウリー制度)があり、負債と考えられてしまうからです。実際、1994年~2010年までに1,000万人の女の子が中絶されたというデータがあります。現地の男女比率は、男の子1,000人に対し女の子914人。世界平均は男の子1,000人に対し女の子934人なので、女の子が生まれる前から選別を受けていることがわかります。
2つめは「教育が受けられない」という問題。男の子は将来稼ぎ手になるので教育が必要と考えられていますが、女の子は水汲みなどの家事、農作業、幼い兄弟の世話などが主な役割とされています。たとえば、インドの農村地域では、男の子に比べ女の子の就学率が10%近く低い現状があります。教育費用の問題以外にも、学校のトイレが男女共同だったり、場合によっては屋外排泄を強いられたり、通学時に性暴力被害の危険性があったり、10代の少女にとってあまりに劣悪な環境も学校に通えない原因となっているんです。
たとえば年長になって生理がはじまると、洋服を汚してしまったり、屋外排泄をするのに強い抵抗感があったりしますよね。そうすると、学校に行かなくなる女の子が出てきます。また、通学時に性暴力被害に遭い、万が一妊娠してしまったら、家族は娘を一家の恥のように感じ、周囲も女の子だけを責めるんです。そんな道徳観念が浸透しているので、親が娘を学校に行かせたがらないということもありますね。
親同士が決めた相手と幼くして結婚
寺田:3つめは、キャッチコピーにもなっている「早すぎる結婚」です。インドの法律では、女性が18歳以上、男性が21歳以上で結婚が許可されているんですが、実際は18歳未満で結婚させられる少女が後を絶ちません。先ほど、女性側の両親が嫁ぎ先に結婚持参金を送るダウリー制度があるとお伝えしましたが、女の子の年齢が上がると金額が上がってしまうので、親には早くお嫁に出したいという思いがあるんです。
多くの女の子は、13~15歳ぐらいになると親同士が決めた男性と結婚します。相手の男性は大体かなり年上で、結婚式の当日にはじめて対面し、翌日から夫の家族とともに生活を始める場合がほとんどです。日本では考えられませんよね。ほとんどの女性は結婚と同時に学校をやめて、すぐに子供を産み家事や育児を任せられます。女性に家庭での発言権はなく、家事労働で一生を終えることも少なくありません。また夫婦関係においても、殴る蹴る、性的虐待など、約7割ほどの女性があらゆる形の暴力を受けているとのデータもあります。
――法律で決まっていることが、なぜ守られていないんでしょうか?
後藤亮さん:インドでは、出生登録をしていないために、そもそも公的に存在を認識されていない人も大勢いて、年齢の確認が難しい実態も一部にはあります。プランは、インドで出生登録を呼びかけるキャンペーンを行い、2014年までに約47万人の出生登録がなされましたが、それでもまだ途中段階です。
――夫婦仲がうまくいかず結婚生活がつらいものであったとしても、耐えて生活を続けていくしか選択肢はないんですか?
寺田:そのような状況でも、おそらく耐えて生活を続けていく人が多いのだろうと思います。これはアフリカの事例ですが、夫と別れたという事実は、現地では女性の恥と考えられているからです。一度お嫁に行ってほかの男性の子供を産んだ女性は、二度と結婚できないという地域もあります。そういった厳しい価値観の中で暮らしている女性も大勢いるんです。
――少女たちは年頃になれば恋愛感情をもつことも当然あると思いますが、そういった感情を表すことも許されないんでしょうか?
寺田:地域によっては、そもそも日本のように同年代の男女が交流する場があまりないんだと想像します。たとえ恋愛感情をもつことがあっても、結婚相手は親に決められるものだという考えがあるので、それ以上発展しづらいとも言えますね。姦通への仕打ちは女性にきわめて厳しい場合がほとんどです。
人身売買で、性産業に売られる
寺田:4つめの問題は「人身売買」です。10代前半の少女たちは、常に人身売買の危険にさらされています。だまされて売られたあとは、家事使用人として奴隷のような生活を送ったり、最悪の場合、性産業に売られたりするケースもあります。性感染症のリスクが低く、操りやすい少女たちは格好の餌食となってしまうんです。また、家事使用人として生活する女の子たちも、密室のなかで性的に搾取されている実態があり、どこにいても少女たちには、性被害のリスクがつきまといます。
――そもそも、女の子が希望をもつこと自体が非常にむずかしい状況かと思われますが、彼女たちは自分たちが置かれている状況をどのように感じているんでしょうか?
寺田:祖母、母の代からずっと続いていることですので、教育が受けられないことにしても、親が決めた結婚にしても受容しがちですね。希望をもてず、どう生きていけばいいかわからないという子が多いです。ただ、彼女たちと対話を重ねると、「本当はもっと勉強したかった」、「夢を追いかけたかった」という心の声を聞かせてくれます。過酷な環境に置かれていても、前向きに生きていこうとする力は本来誰もがもっているんです。私たちは、女の子たちがもっている内に秘めたパワーを信頼して、活動を進めています。
【後編はこちら】性差別をなくすべく、男性も変革者も闘っている 東アジア貧困層の希望の光
■関連リンク
公共財団法人プラン・ジャパン
「Because I am a Girl」プロジェクト
画像提供:プラン・ジャパン