労働環境の多様化に伴い、20代での起業も珍しいことではなくなった。しかし、経営のアイディアは秀逸でも、雇用に関する法律に無知な経営者も決して少なくない。それを表すように、ベンチャー企業の増加に比例して、サービス残業や人間関係のいざこざも増加しているようだ。働いているなかで「なにかおかしい」と感じても、その時点で改善に向けて動く人はごく少数で、大きな揉め事に発展してからはじめて解決を試みる人が多いのも問題となっている。
労働者が困ったときベストな解決を図るために、雇用に強い弁護士や社会労務士が無料でアドバイスを送ってくれるTECC(東京圏雇用労働相談センター)で、最近増えている労働関係のトラブルについて、またこれから変えていかねばならない雇用の課題について、弁護士の倉持麟太郎先生、稻川静先生に伺った。
【前編はこちら】上司からの「彼氏いないの?」はセクハラなのか 弁護士にも困難なハラスメントの線引き
弁護士は問題解決のオプションを多数持っている
――労働関係のトラブルで悩むことがあっても、「転職して解決しよう」と考える人も多いと思いますが、弁護士さんや社会労務士さんに相談することで、なにが変わるんでしょうか?
倉持麟太郎さん(以下、倉持):我々弁護士は、さまざまな問題を解決するためのオプションを数えきれないほどたくさん持っています。ですので、その方の希望を聞いたうえで、もっとも良い形での解決方法をアドバイスできます。裁判になってしまう状況、その結果たる判例についての知識や経験の集積がありますので、「逆算」して考えられる。つまり、判例の事実関係等から「あそこでこうしておけばこうならなかった」と、雇用契約や就業規則等の作成などスタート段階から助言できるんです。法的な解決のサポートも可能ですので、「大嫌いな上司の顔を二度と見たくないから転職が一番」など決めつけずに、安心してプロに任せてください。弁護士は敷居が高い存在ではないんです。
稻川静さん(以下、稻川):みなさん個々の望みがあると思いますが、弁護士は依頼者の意思を最大限に尊重して対応します。この問題なら労働審判で解決できるとか、こういった事例だと勝訴はむずかしいなど、経験に基づいた具体的なアドバイスを送ることができるので、ぜひお気軽に相談していただきたいですね。
――最近だと、20代の起業家も珍しくなくベンチャー企業も増えていると思いますが、実際、相談に来た経営者で雇用についてカン違いしている人は多いんでしょうか?
倉持:多いですね。たとえば、知り合いに紹介されて健康診断のようなつもりで相談に来た方で、本来「雇用」にすべき契約をすべて「業務委託」で済ませていたということがありました。そうすると、契約書には業務委託契約と書いてあっても、実際の労働環境は雇用なので、実は最低賃金を割ってしまっていたとか、残業代が発生していたなどの問題が発覚するわけです。このままだと、労働者側に訴えられたら完全に負けてしまうので、業務委託契約として問題ない立てつけに変更しましょうとアドバイスしました。
あとはインターンの扱いについても、非常に勘違いや誤解をされている方が目立ちましたね。インターンって、学生を雇ってお小遣い的にお金を払っておけばいいんだろう等と安易に考えている人が多いんですが、毎日会社に出社させて指揮命令系統のもとで管理監督していたら、明らかな「雇用」なんです。それなら有期のアルバイトとして雇ったほうがいいですね。
サービス残業をさせる企業はまだまだ多い
――ここ最近で、労働トラブルの内容に変化はありましたか?
倉持:最近の変化といえば、残業代の請求が増えてきたことです。CMをたくさん流しているような法律事務所が、高速道路のサービスエリアで、トラックの運転手たちに「残業代を請求しませんか?」ってビラを配ってるんですよ。そういう法律事務所では、一昔前は消費者金融の返済で払いすぎた利息を返済してもらう「過払い」の請求を盛んに行っていたんですが、それがひと段落したので、次は残業代請求。エクセルの表に労働時間を入力するだけで、残業代があっという間に計算されるから非常にオートマティカリーに請求の基礎ができてしまいます。
トラックの運転手さんもそうですが、タイムカード上では残業代が発生していても、実際は支払われていない会社は相当あると思います。たとえば、雇用契約書に「○時間分の残業代を含む」と書かれている場合でも、大体超えていますしね。それに対して使用者側は、会社に遅くまで残っていてもパソコンを見たり休憩していた時間もあるはずだとして、残業時間の70%を労働時間として評価しているなどと主張する場合があります。本来は100%支払わなくてはいけないんですけどね。
あとは、「基本的に残業は使用者の指示のもとで行うべき」とされていますが、使用者側が「そんな指示はしていない、労働者が勝手に残っていただけだ」と争うこともあります。ですので、残業について疑問を持ったら、タイムカードの控えをとっておくなり、細かく残業時間を手帳にメモしておくなりしておくべきでしょう。
労働者の権利を守るために必要なのは経営者のホワイト化
――今後の雇用に関する一番の課題はなんだと思われますか?
倉持:ブラック企業を作らないために、未然に労働トラブルを防止していくことだと思います。それがTECCが開設された一番の目的です。労働者側の団体のなかには、我々が使用者の相談を積極的に受け入れていることで、「TECCは首切り特区だ」なんて言う人がいるんですが、それは大きな誤解です。使用者側の誤りを我々が指摘して正すことで、その企業に勤める何十人、何百人っていう人の権利を保護することになります。使用者の権利と労働者の権利は表裏一体です。企業をホワイトにすることが労働者の権利を守るということは、強く訴えていきたいですね。
あとは、最近メディア系の制作業界の就業規則に関する相談を受けたんですが、そこの社員は丸2ヶ月間働きつづけたあと、丸2ヶ月間休むっていう船乗りみたいな生活してるんですよ。そんな会社の就業規則なんて合法的に作れるはずがありません。いくら裁量労働制にしたって無理です。だから、そういった特定の業界を対象にした特別法を作るとか、柔軟な制度を作らないと対応できなくなってきています。
国が一億総活躍と言って、女性の活躍を推進したりするのであれば、多様化する働き方に対応できるよう法の整備を行っていくべきです。そうでなければ、雇用条件、労働条件の明確化は実現できません。それもこれからの見逃せない課題ですね。
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