【ネタバレ】25年後の「東京ラブストーリー」 若い頃の恋愛に50歳は何を思うのか

【ネタバレ】25年後の「東京ラブストーリー」 若い頃の恋愛に50歳は何を思うのか

今週25日に発売された「週刊ビッグコミックスピリッツ」小学館)9号に、創刊35周年読み切り企画の一つとして『東京ラブストーリー』の25年後を描いた新作『東京ラブストーリー 〜After 25 years〜』(以下、新作)が掲載され、ネット上で賛否両論が飛び交っている。

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ドラマは月9で視聴率32.3%

Relaxed young  couple watching tv at home

元の作品は1988〜89年に発表された柴門ふみさんの代表作で、愛媛から東京の広告代理店に就職した永尾完治(カンチ)と同僚の赤名リカを中心に展開される恋愛マンガ。1991年には、当時人気絶頂だった鈴木保奈美と織田裕二のダブル主演でフジテレビ系の「月9」枠でドラマ化され、32.3%という視聴率(最終話)を叩きだした。

アフリカ育ちで開放的な性格ゆえに、カンチとつきあいながらも複数の男と無邪気に寝てしまうリカは、やがて上司の子を身ごもってしまい、シングルマザーとして生きることを決意。カンチは高校時代に好きだった同郷の女性と結婚した。

子どもを「アフリカ」と名付ける

Couple holding BOY and GIRL cards in hands near pregnant belly

新作は、その25年後を描いている。50歳になったカンチが娘から恋人の名前を「赤名アフリカ」と教えられ、動揺するところから物語が始まる。

娘からかつての恋人の息子を紹介されたカンチのケータイに、リカが電話してくる。リカは自分の働く農場にカンチを招き、昔と変わらない屈託のない笑顔で迎える。彼女は、昨今の恋愛しない若者を嘆いて「メスと一緒に過ごすことの楽しみ」を教えるために、稲刈り合コンを運営していた。

そんなリカを見たカンチは、「いい女になったなぁ」「なんで俺たち別れたんだっけ?」とうそぶき、「俺にもう少し強い気持ちがあれば…」と思ってしまう。そんなカンチは40歳を過ぎた頃に脱サラし、郷里の中学校で民間人教頭になっていた。

一方、リカは息子が幼かった頃に父親がいないことを問われて以来、男も断って「なりふりかまわず子どもを育てた」と言う。そして、自分の息子とカンチの娘との交際を認めてほしいと頭を下げるのだった。

別れても「話しかけていた」気がする恋

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リカがカンチとの別れを「たった一つの後悔」と考えているように、カンチもこの25年間「リカに話しかけていたような気がする」と述懐する。なんともいえない苦さだ。
ちなみに、ご覧の文章を書いているのは、50歳の独身男である。そんな読者が新作を見ると、農地にすくっと立っている農作業着姿の「50歳のリカ」を初めて見るカンチの少しだけとまどった顔に共感する。その直後にすぐ相変わらずの屈託のない笑顔を見せるリカに、なんともいえない懐かしさと安堵を覚える。

この新作は、柴門ふみさんが女の大らかな魅力と(それにとまどう)男の自意識を描く線とストーリー構成に天才的な仕事をするマンガ家であることを再認識できた傑作だ。

常見陽平さんは「駄作だと言ってもいい。というか、カンチとリカの現在のルックスにがっかりというか。これもまた現実なのだが。それでも読んでしまうのだが」と自身のブログで書いているが、そのとまどいも理解できる。読者によって年齢や生い立ち、人生経験はそれぞれ違うのだから、反応が違うのも当たり前。

現代人のもろさを浮き彫りにするマンガ

マンガ本

ネット上には、リカが息子に「アフリカ」という名前をつけたことを笑う若い読者も少なからず見受けられた。だが、幼い頃に育った「草原のアフリカ」という故郷は既になく、「近代的された都市」で生きる覚悟をしたリカが、わが子に自分のルーツを刻み込みたかったのは自然なことかもしれない(柴門さんと同世代の歌手・さだまさしさんは、自身の祖父母に縁のある中国への思いを込めて「大陸」という名前を息子につけた)。

『東京ラブストーリー』というマンガは、若さゆえの選択がもたらす苦さと、社会や時代、環境などの急激な変化によって「今ここにある関係」の内実が翻弄される現代人のもろさを浮き彫りにしている。

大好き同士で結婚という「奇跡」

Newlywed Couple on Beach

新作で、カンチとリカは自分たちの別れを「巡り合わせ」の妙だと受け入れる。二人の恋愛物語は、お互いの子どもが付き合い始めることを了解し合うことによって、はっきりと終わったのだ。二人の子どもたちは確かめ合う。「大好き同士で結婚できる…あたしたちって奇跡のカップルなのね!」と。

そう、本当に「奇跡」なのだ。そして、明日のことは誰もわからない。わからないからこそ「今ここにある関係」の内実に対して恐れずに向き合い、関係を育てていく努力を分かち合うことに賭けてみてもいいのではないか。『東京ラブストーリー』は、そう問いかけている気がする。

バブル期のチャラい恋愛中毒のマンガだと思い込んでいると、新作でリカの口から放たれるセリフにズキズキと胸をえぐられるだろう(とくに中年の男性読者は)。

そこでもう一度、小田和正さんが歌ったドラマ主題歌『ラブ・ストーリーは突然に』の歌詞を思い出してみてほしい。その歌詞のせつなさに改めて気づくとき、どんな時代、どんな社会になろうとも、恋愛関係の「確かさ」に賭けることを応援するこのマンガの本質的な魅力にもピンとくるだろうから。

なお、読切短編のため、スピリッツを買うなら今週しかないことも付記しておこう。

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