「予算を組まない人生は潰れる」 企業会計のプロに聞く、30代から始める老後貯金

ベストセラーとなった『正しい家計管理』に続き、公認会計士・税理士である林總さんの『正しい家計管理・長期プラン編 老後のお金
』(いずれもWAVE出版刊)が好評を博している。『老後のお金』の帯には、「50代では、遅すぎる」の文字が! アラサー女性にとってもとにかく気になる老後と家計。どうしたら安心な老後、心豊かな老後を迎えることができるのだろうか。
“お金”は食料と同じ
――そもそも、人間にとってお金って何なんでしょうね。
林總さん(以下、林):食料と考えればいいような気がしますね。あまり多すぎると体を壊す。ふだんは節制しながら、ときに贅沢なものを食べるとうれしいでしょう? お金も同じで、やりたいことをやるためにふだんは貯めておくというのも大事なことなんです。充実した人生を送るためにお金は必要だと思います。
――でも、もしかしたら明日死んじゃうかもしれない……(笑)。
林:そう言う人は多いんですが、案外、人間は死なないんですよ(笑)。ですから、若いときから目標設定をして、ある程度、安心して暮らせるだけの準備はしておいたほうがいいと思います。正社員であれば、家は購入しておく。定年までにローンは払い終えておく。ただ、最近は非正規で働いている方が多いので、なかなかそうはいかないのが問題です。
――林さんも昔はご苦労されたことがあるとか。
林:独立したときは、けっこう大変でした。すべての生命保険を解約、車も手放し、管理不能支出を減らしました。うちの場合は、妻がしっかり者だったので、家計を任せたのも、なんとかうまくいった要因だと思います。
予算を立てない会社は潰れる
――生活に追われている30代も多いと思います。
林:ただね、入ってくるものを右から左へと使っているから、生活に追われている感じがするんだと思うんです。会社だって予算を組むでしょう? みなさん、ちゃんと収入と支出を把握してますか?
――してません(笑)。
林:現状を把握することが最優先です。いくら入ってきて、どのように使っているか。費目は5つくらいでかまいませんから、家賃、食費、交際費、娯楽費などと分けて、ざっくりと把握してみてください。そうしたら、今度は収入の中から1万でも2万でもいいから天引きで預金をしてしまう。その分入金がないものとして、予算を組んでください。結局、お金は脂肪と同じなんです。入ってくるものより出ていくものが少なければ貯まるわけです。
予算というと大げさだけど、だいたいの収入が見えていれば、だいたいの使い方は決まってくる。予算を組まない会社は潰れますよ。
将来のためへの投資はよく考えて
――目から鱗が落ちるような気分……。
林:お金のことは考えたくないという人が多いんですが、考えなければ破綻するだけ。考えて賢く使い、賢く貯める。
――30代だと自分に投資することも必要でしょうか?
林:そうですね。ただ、目標もなくてただひたすら資格を取る人がいますね。それはあまり意味がない。資格をとるなら、とったあとどうその資格を使うのか。そこまで見越しておかないと、ムダにお金を使うことになってしまう。自分を助けてくれるような資格をとるべきでしょうね。
――今の仕事でステップアップしていくための資格とか?
林:それなら役に立ちますよね。いくら専門性があっても、お金にならなければ意味がありません。もちろん、趣味の範囲での資格なら何でもいいんですよ。ただ、その資格を仕事につなげる、仕事を広げるために取得したいという気持ちがあるなら、どんな資格をとるのかは非常に重要です。
長期的視野に立てば、“幸せ”が変化する
――今が楽しければそれでいいや、という生き方はダメですね。
林:長期的視野に立たないと、今の幸せも成立しないと思うんです。それは将来のために今を犠牲にするわけではない。満足度の質を見極める必要があります。自分自身が、どこにお金を使えば満足なのかを見極めることが大事なんです。洋服が大好きな人なら、目についた1万円の服を7枚買うほうが幸せなのか、どうしてもほしい7万円の服を1枚買うほうが満足できるのか……。
自分の家計の現状を把握して、予算を決めて生活するということは、野放図にモノを買わず、熟慮して手に入れることにつながっていきます。
予算管理はダイエットと一緒
――なんだか窮屈そうな……。
林:月間予算できっちりやろうとすると、窮屈になりますよね。だから年間予算でいいんです。年末、あるいは年度末に、純財産が1円でも増えていればよしとする。そのくらいのゆるい感覚でやったほうがいいと思います。ただ、どんぶり勘定で暮らしていくと、いつしか二進も三進もいかなくなるんじゃないでしょうか。
――確かにそうですね。ダイエットも同じですが、まずは体重計に乗って、今の体重を知らない限り、痩せようとは思いませんもんね。
林:そうそう。まずは現状を把握。私も体重計には乗りたくないけど(笑)、現実を自分の目で見ることが大事。どこにお金を使っているかを書き出してみると、案外、偏った使い方をしているものなんですよ。それがわかったら、どうやってコントロールしていくかを考えることができるはずです。
そして、貯めようと意識しすぎるとストレスになるので、いつの間にか貯まってしまう仕組みを考えればいい。天引き預金もそのひとつだし、よく仕事で経費を使う人なら、立て替えた経費が振り込まれる口座を、給与振込口座と別にする。そして経費の口座には手をつけない。そうすれば、いつしか貯まっていくはずです。
予算を組まないと際限なく使ってしまう
――そして予算を組む。
林:ええ、ざっくりとでいいので予算を立てる。ある程度の予算を組んでおけば、上限に達しそうになったとき、人は自然と抑制が効くものです。予算を組んでいないから、果てしなく使ってしまう。後手後手にならないように、予算は早めに見直しておくこともオススメします。
――思い切って現状把握をしたら、何かが変わってきそうな気がしてきました。
林:それを早くやった人が、老後を楽しめるのだと思いますよ。月に2万貯めるとして、1年だと24万にしかならないけど、20年ためたら480万になる。大きいでしょう?
昔からひとり扶持は食えなくてもふたり扶持は食えるという言葉があります。独身の人は大変だと思いますが、その分、自分への投資もして収入が増える努力をしていく楽しみもある。長期的視野に立って、今の生き方を決めていく必要があるのではないでしょうか。
夫なし子なし家なし貯金なし。ないない尽くしの私には、耳が痛い話ばかり。私のようにならないよう、アラサー女性には林さんの意見に耳を傾けてほしい。長期的視野に立つからこそ、今を楽しみ、今を充実させることができるのだから……。
(亀山早苗)