静岡県沼津市で、風俗嬢を貧困から救い出すために新しい仕組みとサービスで経営を始めた女性がいる。新田さゆりさんだ。彼女は12月6日から人妻デリヘル「マダムローズ」を開店し、「風俗セカンドキャリアプロジェクト」という取り組みを始めた。
中年以降の貧困問題に挑む
新田さんは長く美容業を経営してきたが、事業の失敗から借金を負い、返済のためにデリヘルに1年ほど働いた。そうした経験から「風俗嬢と親しく接するうちに中年以降の貧困という問題に挑みたいという思いに至った」という。
「沼津の風俗店は、値下げ競争でデリヘルなのに本番(※セックスのこと。デリヘルは非本番系といい、基本的に挿入サービスはしない)でしか集客できないほど、良質なお客さんが離れてしまいました。『デリヘルで生中出しは当たり前』などと言っている利用者と、価格破壊しか営業努力が出来ない風俗業者によって、エイズの蔓延や、風俗業全体の衰退と破壊が進められています。性病チェックも避妊もやってない店が多く、何でもできる売春婦でないと稼げないのです。お金は払いたくないし、性病も気にしないという客層を相手にしていては、安心して働けません」(新田さん)
性的サービスのないプランとは?
そこで、「マダムローズ」では、通常のサービス以外に「ノータッチサービス」を設けた。女性と二人きりで話す機会がない、プレイをせず女性の裸を間近で見たい、裸でエッチな会話をしたい、オナニーを見てほしい、彼女とのセックスに自信がないので相談したい……などのニーズに広く応えるもの。デリヘル嬢の体に触るなどの性的サービスはなし。裸を見て、お風呂に入ることまでだ(写真撮影は厳禁)。ソフトサービスから通常ヘルスコースへの変更は可能で、その差額を払うだけでいい。
いきなりデリヘルを利用するにはハードルが高いと感じる人や、初めて女性とセックスをする前に身体や雰囲気作りを学びたい人、性的マイノリティの人なども対象に、デリヘル嬢がなかなか人に話せない悩みを聞き、性の充実を図るお手伝いをする。
女性たちの報酬を引き上げた
「性の悩みにも開発にも対応できる風俗嬢たちのスキルを、風俗のサービスだけに留めておくのはもったいないです。恋愛弱者の方がAVだけで性を学ぶのは危険ですが、デリヘル嬢には弱者の痛みや生きずらさに共感できる感性があります。弱味と思われていたものが、強味へと変わるかもしれない」
市場開拓だけではない。デリヘルで働く女性の報酬は利用者が払う額面の50~60%が相場だが、「マダムローズ」では70%に引き上げた。
「3割の手数料を広告宣伝と送迎費として売上からうちの店に入れてもらいます。空室の寮を抱え、たくさんの待機部屋を用意するような無駄な経費を抑えれば、70%バックでも一般企業並の収益は出せます。他店ではお祝い金や賞金は設けていますが、面接に行ってみるとだいたいウソなんです。『40キロ以下の体重でないと保証を出せない』とか、『容姿がこちらの基準を満たしてないから出せない』など、ウソがこの業界の常識。これを変えたい。女性の手にする現金が多いことは、身体的リスクと、年齢のリミットを加味すれば当然。稼ぐことの出来る適性を持った女性には確実に職業としての自尊心を持って臨んでほしい」
辞めたくなったら職業を選べるように
同店では、女性によって技術指導が行われる。働き出したら、税務相談や行政支援への相談なども無料で受けられる。
「風俗から抜け出せないのは、自立する術を持たないからです。女性は業務委託契約ですが、確定申告をすれば収入証明となり、立派な職歴となるため、子どもの教育ローンも組めますし、アパートやマンションも契約できます。一般の会社員や自営業者と同じように、辞めたくなったら職業を選べるようになります。そのための前提として、収入証明を持ち、職歴を持ち、定住所を持って貯蓄をできるようにしたい」
風俗嬢を辞めたくても昼の仕事をすることが難しいという事情を抱える女性もいるため、同店ではスタッフ側で働けるようにしたり、収益が出てからは特別なスキルがいらない職種に就けるように飲食店を作って雇うことも考えている。
「風俗の仕事しかできなくなりがちのバンス(前借り)制度はありません。その代わり、女性の採用基準を設け、基本サービスをきっちり教育し、ルールを徹底させ、衛生管理と健康管理については毎日簡易検査を行い、性病のリスクを最小に抑えます。消費者にとってもサービス提供する側にとってもWIN WINを目指します。
生きるか死ぬかの困窮状態で体を売るしかない女性は、確実に存在してます。シングル・マザー、夫が働かない、子どもの養育費に悩んでるなど、親にも頼れず、たった一人で子どもを養う彼女たちに、世間は同情しても、お金はくれません。セックスワーク自体を破壊することは、その影にいる不可視の最貧困層は死ねということ。
風俗嬢には年齢のリミットがあり、中年以降の貧困層を生み出し続けています。風俗業の内側で、彼女たちにとって親和性のある存在でいたい。風俗という巨大産業の常識を変え、最貧困女子の連鎖を断ち切りたい。これが起業に至った私の思いです」
日本の地方都市の片隅で、小さな革命が始まっている。
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