キングジム開発本部長の亀田登信さんインタビュー後編。文字を入力することに特化した単機能型の「ポメラ」、会社で寝られる「着る布団」など、斬新な商品開発で評価を集めるキングジム。現在、この世にない物を作り出すということは、やりがいとともにプレッシャーも強いのではないだろうか。次々と新商品の発案が出てくるというキングジムの、会社内での雰囲気作りやアイデア出しのポリシーを伺った。
【前編はこちら】「市場調査はしません」文字しか打てないポメラを生んだ、キングジムの商品企画術
開発本部長の仕事は社員の創造欲を継続させること
——企画を出せ、と言われても実際自由にやるのはなかなか……という人も多いと思うんですけど、萎縮しないでどんどん提案ができるような雰囲気作りや心がけていることはありますか?
亀田登信さん(以下、亀田):個人の性格もあるので積極的に企画を出そうとする者もいれば、躊躇してしまう者もいます。ただ、幸いなことに「ポメラ」のヒット以降、メディアの露出も増えて、会社の認知度が上がっているので、「開発をやりたい」という意欲を持った社員が入社していますし、入社1年目からどんどん企画開発に携わっています。
だから、「開発をやりたい」って言う人間に対して、その気持ちを継続させるサポートをするのが私の仕事だと思っていますね。私自身が社員と商品企画についての具体的なやり取りもしますし、社員の方からも直接「ちょっといいですか?!」って聞いてきますよ。
——フィードバックをきっちりされているんですね。
亀田:キングジムの商品は、万人に向けて作っていないから、「俺はいらないよ」って言う商品でも売れたりする。だけど作りこみが足りないと、もともと少ないターゲットの人にそっぽを向かれてしまうし、ターゲット以外の人には当然売れない。これは失敗する例です。
だから、担当者にはすごく深いところまで追求して検討するように指示しています。私が商品についていくつか質問して「じゃあそれでいいよ」と言うと「何でここはこうしたのか、とか気付かないんですか?」って逆に聞かれることもあります(笑)。
それくらい商品をしっかり作りこんでくれ、ということを伝えている結果ですね。実際、「質問はそれだけですか?」と質問攻めにしてきた女性社員が作った「暮らしのキロク」は、その作り込みの丁寧さからユーザーの支持を集めていて、おかげさまで品薄状態です。
ヒット商品には顧客を納得させる作りこみがある
——ヒット商品には法則があるのかな、と考えていたのですがお話を聞いていると意外とないものなんですね。ただ全体を通して顧客満足とかユーザーロイヤリティみたいなものを重視してらっしゃると。
亀田:顧客満足を上げるために作りこみをしても中には売れない商品もあります。思っていたよりも市場が小さくてターゲットが少なかったパターンです。この場合、ターゲットがいると思って会社がOKしたわけだから、担当者を責めたりはしません。
商品開発は一見、華やかに見えますが、実は雑用が9割、クリエイティブ1割です。面倒なことが大半だから、モチベーションを下げないのも重要だと思っています。
自分のアイデアを抑え込むのは、他人のアイデアを抑え込むのと同じ
——どんな仕事でも自分から発案したり上司を説得しなきゃいけないと思うんですけど、なかなかできずにマゴマゴしている人にアドバイスはありますか?
亀田:どの企業でもきっと新しい商品やサービスを出そうとはしてるはずです。つまり、規模の大小はあるけど、そこでは提案が待たれているんですよ。アイデア出しをする時は他人のアイデアを絶対NGと言わないのが暗黙のルールですが、それは自分自身に対しても言えることで、「こういうことを思いついたけど、言うのは恥ずかしいからやっぱりやめとこう」って自分で自分のアイデアを抑えちゃってるということなんです。
売れない商品は記憶に残らないから気にするな
——くだらないこと言っても人は意外と気にしないもんなんでしょうか。
亀田:当社の社長が「売れたものはわずかで売れないものがたくさんあると、『この会社が出すものは売れない』って変な評判になっちゃったりしませんか?」と聞かれたときに、「売れない商品って流通もしないし、接する機会もないから、そんな商品あったなんてことも知られないし覚えてもいないから大丈夫だよ」って答えてましたよ(笑)。だからバカなこといっても「バカなこと言ってるな」の一回で済んじゃうんじゃないかな。
もちろん、頭では分かっていても、それぞれ企業の風土もあるでしょう。しかし、あるタイミングでダメだと言われた商品が別のタイミングでもだめかというとそうではなくて、環境が変わればアリかもしれない。だから、人のアイデアを抑えるのと同様に、自分の意見も抑えちゃダメだし「この提案は通らないと思うからやめちゃおう」ではなくてまず言ってみることが大切だと思います。
キングジムだって昔から今のような会社だったわけではなくて、走りながら形を変えていっています。ここ5年でさえ、昔とは変わったなと感じるので、これからもそれの繰り返しでしょうね。
関連リンク:キングジム公式サイト/Twitter