『Share! Share! Share!』イベントレポート

「豊かさは経済的なものではない」 住居、スキル、子育て…シェア需要が高まる背景

「豊かさは経済的なものではない」 住居、スキル、子育て…シェア需要が高まる背景

近年のシェアハウスブームや、民泊条例の可決で注目される「Airbnb」に象徴されるように、モノやコトを個人で独占するのではなく、周囲と共有することが特別なものではなくなっています。以前は、シェアハウスしかり「金銭的な余裕がない結果、仕方なくシェアせざるをえない」というネガティブなイメージもありましたが、いまでは人生を豊かにするために、あえてシェアを選択する人たちも増えてきています。

そうしたなか、今どきのシェアのあり方を考えさせられるイベント『Share! Share! Share!』が、11月末に表参道で開催されました。「住まい」「スキル」「旅」「子育て」など9つのカテゴリにまたがり、注目度が高い13ものシェアリングサービスの事業者やユーザーによるトークセッション、そして体験・展示ブースを展開。多くの人で賑わった、イベント当日の様子をレポートしたいと思います。

「住まい」と「職場」のシェアを考える

イベントの冒頭に実施されたのは、ライフスタイルをシェアするということについて、「住まい」と「職場」の両面から考えるトークセッション。

ウェブマガジン「greenz.jp」編集長(当時)の兼松佳宏さんがモデレーターを務め、横浜関内にあるビルの空室をリノベーションして、間伐材で作った小屋を並べたコワーキングスペース「mass×mass」を運営する森川正信さん、“贈り合う”暮らしを取り入れ単身者だけではなく子育て世代も入居する「ウェル洋光台」オーナー代行の戸谷浩隆さんが、それぞれのサービスのビジョンについて語りました。

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左から、「greenz.jp」編集長の兼松佳宏さん、「mass×mass」の森川正信さん、「ウェル洋光台」の戸谷浩隆さん

約70社の入居者がいるという「mass×mass」では、お互いにどんな仕事をしているか知る交流イベントを月1回開催しているそうです。

「7,8年制作会社で仕事をしていて、個人事業主でデザインの仕事しようと。地域に戻ったときにシェアオフィスが必要だと思っていたときに、『mass×mass』の話がちょうど持ち上がって、企画を手伝うことになりました。人とのコミュニケーションができることがシェアオフィスでは大事になってくる。誰かの仕事についてそんなことができるんですか、面白そうですねと関心を持ち誰かのアイデアにコミットしていくと、仕事につながっていくということがありますね」(森川さん)

豊かさは経済的なものではない

また、普段大手電機メーカーに勤務している戸谷さんは、妻と子ども3人でウェル洋光台に暮らしているそう。贈り合いの精神で成り立つシェアハウス「ウェル洋光台」では、入居者が食材や持っている道具などをシェアしているとか。

「学生時代にインドに旅行したとき、豊かさは経済的なものではないと気づいたんです。でも、同じような暮らしを都会でやろうとすると、たとえば料理にこだわりたいと思ったら広いキッチンがないとできないとか、手仕事をしようと思ったら裁縫道具を用意する必要がある。畑をやりたいと思ったらその畑を借りないといけない、そうなると働き世代には難しくて、リタイアメントライフになってしまう。でも、シェアハウスに暮らしたら分かち合いの精神のもと、コストを抑えて安く暮らすことができるんです。ウェル洋光台ではそのような試みをしているのですが、あんまり外にいかないのでお金が貯まって、仕事をやめてフリーランスに転身した人もいます」(戸谷さん)

コワーキングスペースが持つ“音”のメリット

対価交換ではなく“成り立たせたい人がいたら成り立つだけ” というシェアの精神を貫いているという戸谷さん。入居者には固定の役割を持たせないスタンスを維持しているといいます。さらに、リアルな場をシェアするメリットについて、森川さんは次のように語ります。

「コワーキングスペースにおいて周囲の音は“グッドノイズ”と呼ばれることがあります。たとえば、自宅で仕事をしていると、クライアントやパートナーもずっと同じメンバーですが、コワーキングスペースで仕事をしていると、なかにはうるさい人もいます。でも、リアルな場での人の会話って、なんか引っ掛かるキーワードに出会うことがあるので、電話とかプロジェクトのテーマはすごく気になったりするんです。それがきっかけで話し掛けにいったりすると知識も広がります。もちろん効率的に仕事をしたかったら、自分だけで時間を所有する方が楽なことは確かです。でも、コワーキングスペースだからこそ、会話で気づけることがあるというのは豊かさにつながるのではないでしょうか。効率を求めていったらそういう豊かさに出会えないと思うんですよね」(森川さん)

“教える”をシェアすることの魅力

また、トークセッションだけでなくブースも賑わっていたのが、教えると学ぶをつなぐスキル共有サイト「ストリートアカデミー」。誰もが持っているWebや語学、趣味の分野などのスキルを活かして、幅広い講座を気軽に開催することができるマーケットプレイスです。

「身近な人から気軽に学べる社会を創る」をミッションにしているストリートアカデミーは、登録ユーザー数は5万4000人、受講者数も3万5千人を超えているそう。講座は1000円台からとリーズナブルな料金設定も魅力。講師初心者ながら、講座開催をきっかけに本を出版する人もいるといいます。講師のなかには、プロの世界でも第一線で活躍している人もいます。その一人がカメラマンのミック・パークさん。

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左は、世界的なアーティストやアスリートをはじめ、被写体のジャンル問わず活躍するカメラマンのミック・パークさん。近い距離でスゴ腕カメラマンから、撮影技術を学ぶことができるのは貴重な体験だ

「僕は、28年間カメラマンをやっていますが、あるときストリートアカデミーのサイトを発見して、ストリートレベルで教えられるということに興味を持ちました。講座の価格は安いですが、これまで自分が生きているなかで、時間を共有することがなかった方たちと接点を持てるということに大きな意味を感じています。生徒さんから教えてもらうことも多いので、毎回講座が楽しみです。講座でつながった皆と一緒に飲みに行ったりして、本当に世界が広がりました。人間は生きているうえで、教えること教えられることばかりです。シェアというのは、自分が知らなかったことを知るということだと思っています」(ミック・パークさん)

また、ストリートアカデミーを運営する代表の藤本崇さんは、“教える”をシェアすることの魅力について、次のように語ります。

「私たちのサイトでは、教えたいと思う人の背中を押す要素を取り揃えています。たとえば場所がないという人には場所も紹介しますし、教えるということに自信が持てないという人は、教え方のワークショップも開催しています。上手に集客できる方法もブログで発信しています。2時間くらいですぐに講師デビューできるのも魅力です。シェアとは機会、時間の選択肢を広げる、社会全体のパイを広げるということだと思っています」(藤本さん)

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左はストリートアカデミー、通称ストアカ代表の藤本崇さん。12月4日にTSUTAYA を展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブが主催するベンチャー企業向けのビジネス支援プログラム「T-Venture Program」第2期で最優秀賞を受賞した

長距離ライド、子育て…シェアサービス続々

ほかにも、訪日外国人旅行者をガイドするソーシャル・ガイドマッチングサービス「Huber」や、同じ目的地のドライバーと乗客をつなぐ、ヒッチハイクを仕組み化したような長距離ライドシェアサービス「notecco」、以前ウートピでも紹介した子育てのシェアサービス「AsMama」など、新しさを感じるシェアサービスが目白押しのイベントでした。

関連記事:1時間500円で子どもを近所にお預け 子育てシェアサービス「アズママ」が話題

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寒空の下、イベントには大勢の人が訪れ登壇者のトークに耳を傾けていた

かつて日本の生活者のなかで、しっかりと根付いていた分かち合いの精神。とくに都会では、家庭や個人が孤立化する傾向にあり、かつてのような暮らしは廃れてしまいました。しかし、単独での社会生活や消費だけでは満たされないものもあるはず。シェアのニーズが高まっている背景には、そうした気づきがあるのではないでしょうか。モノだけではなくライフスタイルもシェアするという、原点回帰とも新たな価値とも感じられるこの流れの先には、どのような豊かさが待っているのでしょうか。シェアにまつわる多種多様なサービスを利用することで、見えてくるものがあるのかもしれません。

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