『女、今日も仕事をする』著者・大瀧純子さんインタビュー(前編)

女性が働き続けるための交渉術 会社に制度がなくても、時短や在宅勤務を実現させるには?

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女性が働き続けるための交渉術 会社に制度がなくても、時短や在宅勤務を実現させるには?

仕事をしながら結婚し、子供も持ちたいという女性にとって、仕事を続けていくこと、キャリアを継続することには、今も高いハードルがある。「会社に十分な支援制度がないから」「現状の勤務体系では両立は厳しすぎるから」、そうした理由で出産を機に退職を選ぶ女性も少なくない。

女性が仕事を続けていく、キャリアを重ねていくうえで、出産や子育てによるキャリアの中断をどう乗り越えていけばいいのか。

自身も出産して一時は家庭に入ったものの、仕事への情熱を捨てきれずにいたという経歴を持つのは、『女、今日も仕事をする』(ミシマ社)の著者・大瀧純子氏だ。新卒で大手金融系会社に入社、システエンジニア(SE)としてシステム開発にたずさわったのち、出産、子育てのために家庭へ。その後は仕事の方向性を大きく変更し、未経験からのサプリメント開発やバイヤーなどを経て、現在は、シナジーカンパニージャパンで最高経営責任者をつとめている。

作家のよしもとばなな氏も愛飲しているというオーガニックハーブ製品を扱う同社では、子どもを持ちながら働く社員も多いという。大瀧氏へのインタビュー前編では、女性が仕事を続けていくための「交渉術」を伺う。

『女、今日も仕事をする』(ミシマ社)

『女、今日も仕事をする』(ミシマ社)

結婚・出産…考え始めるだけで、女性は不安に

——著書によると、大瀧さんは会社員の経験を持ちながらも、独学で勉強しながらオーガニックハーブ製品を開発するなど、自分で自分の道を切り拓くような働き方をされていますよね。現在は女性の働き方について講演・執筆などをされていますが、どんな相談が寄せられますか。

大瀧純子氏(以下、大瀧):出産や子育てと仕事の両立が難しい、といった相談を受けることが多いですね。結婚、出産はおめでたいことですが、仕事をする上では悩みのタネにもなりがち。具体的に予定はなくても、考え始めただけで不安に駆られる人もいるでしょう。

ひとりひとり状況は違うので、「こうしたら必ずうまくいく」と断言はできませんが、私の今までの経験から言えるのは、「続けていきたい」という情熱を持ち続けるのが大事ということです。情熱と言っても、なにかすごいことをやってやろうという野心じゃなくていい。自分が仕事をしているときの手応えや、やりがいを忘れずにいるということです。

「こんな働き方ができたら」を抱え込まないで

——具体的にはどんなアクションを起こせばいいのでしょうか。

大瀧:会社に十分な制度がなかったり、制度があっても自分の希望に合わなかったりということは、往々にしてあると思います。制度では週5で毎日時短勤務だけれど、自分はフルタイムで週3勤務のほうが合っている、とか。また業務内容についても、同じ仕事でがんばりたいと思う人もいれば、部署が変わってもう少し負担の軽いところで仕事を続けていきたいという人もいるでしょう。

そんなときは、「こうだったらいいのに」と抱え込むのではなく、自分の上司や同僚に相談すればいいと思います。自分にはこういう仕事ができるから、子供を産んだあとにこんな形で働けないだろうか、と話してみるんです。

——会社に欠かせないエース級の社員ならともかく、自分なんかが要望を言っていいものだろうか……なんて悩む人も少なくないかと思いますが、まずは交渉だと。

大瀧:若いときって、交渉することが苦手という人も多いですよね。それで、話す前からあきらめてしまう人もいるのではないでしょうか。でも、そこは勇気を出して、話してみてほしい。

私も若いころは交渉が苦手で、うまく言えなかったこともたくさんありました。けれども、たとえ伝え方がつたなくても、自分より社会経験のある上司や同僚は理解してくれるかもしれない。自分は働きたいのだという気持ちを押し付けるのではなく、丁寧に説明する。一度でうまく伝わらなくても、少し時間をおいてまた話してみるなど、工夫してみてほしいですね。

伝えることで、新たな働き方が見つかることも

——相談することで気持ちが共有され、味方になってくれることもありますよね。

大瀧:上司や同僚の側も、出産を経た社員がどんな形なら働けるのかわからなくて、悩んでいる部分もあると思うんですよ。男性や独身の女性など、当事者ではない人には想像しにくいですよね。

そうすると、相手がよかれと思ってやったことが逆効果になってしまうかもしれない。負担が少ない部署に異動させてみたけど、本人は今までのところで仕事をしたがっていた、とか。お互いに話をすることで、そうしたすれ違いを避けられると思います。

まだ具体的な働き方がイメージできない、自分がどのくらいなら働けるかわからないといった場合にも、そこも含めて話してみるといいんじゃないでしょうか。そんなにがんばりたいのなら一緒に考えてみましょう、というきっかけになるかしれません。話し合いを通じて、時短や在宅勤務はワガママではなく、パフォーマンスを高めるための方法だと理解してもらえれば、働きやすい形で続けていくことも可能になります。そのためには、伝え方を工夫する必要はありますね。

交渉は「権利の主張」では失敗する

——伝え方には、どんな工夫がいるのでしょう。

大瀧:若いころの私は、交渉となると自分の権利を主張し、相手に納得させる方法しか思いつきませんでした。しかし振り返ってみると、それって結局、あまりうまくいかないのです。「私はこの制度を使う権利がある、それを使って働き続けるのは当たり前なのだ」といった態度でいると、待遇的には希望が通ったとしても、上司や同僚が自分に対して協力的でなくなってしまうかもしれない。あるいは、あの人は育児中で時短勤務だから重要な仕事は頼めないよね、なんてことにも繋がる。そうすると、そこで長く良い仕事を続けていくのは難しくなります。

だから視点を変えて、権利を主張するのではなく、自分の状況をまわりの人と分かち合い、共感を得て、「新しい働き方をみんなで模索していく」んです。子育て中はこの働き方をすべき、とルールを適用するだけではなく、「私の場合はこう」「あの人はこう」とみんな少しずつ違っていい。仕事で大事なのは成果を出すこと、そして続けていけることです。そのためにどこまで柔軟にルールを変えうるのか、みんなで知恵を絞るべきだと思います。

——なるほど。

それによって、後に続く女性たちも仕事が続けやすくなる。だから、自分がこう働きたいと言うことを、単なるワガママや甘えだとは思わないでほしい。最初に声をあげるのは大変かもしれませんが、一人ひとりが意思を言葉にしないかぎり、状況は変わりません。スタート地点は個人の話でも、やがて女性が長く輝いて働ける会社を作ることにつながっていく可能性があります。

育児、介護、病気…休まない可能性のない人はいない

——大瀧さんの会社では、産休明けのかたもいらっしゃるそうですが、実際にどのようなかたちで仕事を続けておられるのでしょうか。

大瀧:私の会社は少人数でやっているのですが、そのなかには子供が小学生や保育園児のママがいて、14時や15時に退社する勤務体系になっています。あとは残りのフルタイムのスタッフで回しています。チームでカバーし合うのが当たり前という考え方で、従来は担当者ごとにやっていた仕事のうち、ある程度の範囲を複数の人がカバーできるよう、各人がこなせる仕事の範囲を広げてきました。

——実際の仕事の割り振りではなく気持ちの面では、社員のみなさんはどう過ごされていますか。

大瀧:時短勤務でなくても、お子さんがいると病気などで突発的に休むこともありますが、そこは基本的に「お互いさま」ということをよく話しています。子どもがいない人でも、いつ自分が病気になって長期間休むかもしれないし、親の介護で時短勤務が必要になるかもしれません。そういう可能性が一切ない人って、性別や立場にかかわらず、存在しませんよね。

だから、例えばあるスタッフが子供の病気で休んでいるあいだ、代わりにその業務をこなすことで、その人の家族も自分たちが支え、守っているんだと考える。その家族の人には実際に会うこともなかなかないけれど、一生懸命仕事をすることで、同じ会社や同じチームの人の家族を自分たちが支えられると思うと、それはとてもすばらしいことじゃないかと思います。

もちろん、時短勤務の人とフルタイムの人で不公平感がでないように、給料など待遇に差をつけるのは企業として当然考えます。待遇のことも含めて、チームで働くことの意味や、お互いさまということについて、育児休暇から復職する人がいるタイミングなどで話をしています。もう今では言わなくても伝わっていると思うのですが、ときどききちんと言葉にすることで、「あの人だけ時短でずるい」といったことでギスギスしなくなるだろうと考えているんです。誰かが我慢して組織を成り立たせるのではなく、みんなが納得して働けるようなコミュニケーションが重要だと思います。

【後編はこちら】「仕事」と「業務」は別のもの 働くことを面白くする視点の変え方

(下司 智津惠)

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