UNHCR(国連難民高等弁務事務所)広報官の守屋由紀さんへのインタビュー後編。
日を追うにつれて悪化していくシリア情勢。UNHCRの仕事はあくまで難民を支援をすることで、紛争を根本的に解決するのは紛争当事者たちの役目です。
しかし、シリア難民が周辺国から国外に命がけで移動していることに、守屋さんは責任を感じていると言います。そこには、難民たちへの食糧や衣類の支援が間に合っていない現状がありました。後編では、増える難民に対して安定的に支援をしていくことの難しさや、UNCHRが企業と協力して進めているプロジェクトについて聞きます。
【前編はこちら】難民は「国にとって負担」とは限らない 彼らの知られざる可能性を聞く
難民問題を直接解決することはできない
守屋由紀さん(以下、守屋):いま、シリア情勢は非常に状況が悪化していますが、紛争そのものを解決するのは紛争当事者などの政治的問題であってUNHCRは介入できるものではないのです。政治的な解決が必要です。
ただ、難民の人たちがシリアの周辺国からヨーロッパに向かおうとしているという状況を起こしている原因の1つは、私たちのような活動だけでは支援しきれていないというところにあると責任を感じています。
難民を支援しきれない現状
――支援しきれていないとはどういうことですか?
守屋:いまUNHCRだけでなく様々な人道支援団体でも活動資金が不足していて、たとえば今まで100人分の食糧を提供できていたところ、半分にしか提供できなくなったりしています。すると残りの半分の難民の方々は困ってしまいますよね。「ここにいてもいいことがない。でもヨーロッパに行ったら、もしかしたら自分で仕事をして生きていく糧をみつけることができるかもしれない」と移動を始めるんです。
移動の過程で命を落とすことも、拘束される危険も孕んでいるし、運よくたどり着いた目的地で仕事があるかどうかも分からないけど、何もしないよりはましだとチャンスに賭けていこうとしている。
もし私たちが計画通り100人分の支援ができていたら、彼らはそんなリスクを負わなかったかもしれない。
広報官としての私の仕事は、とても重要で責任があるものと思っています。この問題は、多くの人に知ってもらえないと、世界各国にいる難民支援のための理解が浸透せず、資金が集まらず、結果的に難民たちが犠牲となってしまうのですから。
――守屋さんが広報官としてやりがいを感じているのはどのような部分でしょうか。
守屋:現在、私は「いまシリアが大変なので活動資金が必要です」ということを、その理由や背景も含めて理解してもらえるようにと、活動しています。
今回もそうですが、取材していただいた記事をきっかけに、例えば一度寄付をしていただけたとする。寄付をすると、その後それがどう使われたのかなって気にするだろうし、大勢の人への問題意識に繋がっていくかもしれないですよね。
私の仕事で一番時間を費やし、力を入れているのは、ものを伝えるプロの方にこちらの状況をお伝えすることなんです。私はあくまでUNHCRの広報という立場で、「UNHCRはこんなことをしています」と言っても声が届く範囲はUNHCRのことにはじめから耳を傾けている人に限られています。
ものを伝えるプロの人たちに情報提供をしたからこそ更に広いフィールドに広まり、難民問題がより多くの人に伝わっていきます。
寄付が増えたら、現状100人のうち50人しか行き渡らなかった食糧が70人くらいまで行き渡るようになるかもしれないし、家を追われている人たちの生活が少し改善されていく。そうすると、死の危険を受け入れてまで国外に逃れた難民、あるいは同じような危険にさらされている国内避難民の方を救うこともできるのです。そういった時は、この問題を広めていた甲斐があったのかなと思います。
ユニクロと衣類提供で協力関係に
守屋:また、ユニクロは現在、UNHCRとグローバルパートナーシップの一環で難民へ送る衣類1000万着を集める試みを行なっています。着のみ着のままで逃れてきた難民たちですから、冬が来ると防寒ができる衣類が足りないんです。でもいま食糧を提供することですら精一杯の私たちには、十分な衣類まで決して提供することができません。そこにユニクロが、本業を通じて支援協力をしてくれているのです。
不要になったユニクロの衣料が店舗に持ち込まれて仕分けされ、我々が現場から吸い上げたニーズとマッチングをした上で、ユニクロの社員さんが直接難民キャンプに届けるんです。自分たちの服が難民の人たちへどう受け止められたかというのを現場で見届けて、それをまた更にウェブレポートなどで詳細にお客様に報告するというスキームを取っています。
またユニクロと共同で作った冊子を、子どもたちが服の役割と難民について学ぶテキストブックとして、全国で240校近くの小中高で活用してもらっています。そこから子どもたちが家庭や、地域に呼びかけて服を集め、難民に届ける活動をしているんです。ユニクロの社員が学校に先生となり出張授業として教えに行くこともあり、人ごとではいられません。同時に社内に対する啓発活動にもなっています。
「外に出られる服がないから学校にいけない」難民たち
難民の現場において服というのは安全衛生だけではなくて、暑さ寒さから身を守るものでもあり、子どもたちにとってはちゃんとした服があるから学校に行ける、ということにも繋がります。「外に出られる服がないから学校にいけない」という子どもは、実はたくさんいるんですよ。
また、女性に関して言えばずっと同じボロボロのものを着ていると性的搾取の対象にもなりかねません。ちゃんとした服を着ることで女性も社会に参加し発言できる機会を得られる、という意味があることも子どもたちには学んでもらっているんです。
――小学生のうちから理解を深められるのはいいですね。
守屋:子どもたちが「服がなくて大変な人もいるんだよー」なんて親に話し、家庭で難民について話し合ったというフィードバックも受けますし、それぞれのレベルでこの問題に関わり、深く理解できる素晴らしさがあるんですよね。
難民を継続的に支援する難しさ
守屋:その他もIKEAではLEDのランプや照明器具を買うごとに、難民支援に1ユーロ寄付するという画期的なプログラムを実施していますし、こういった社会的なムーブメントがどんどん継続してほしいです。
また難民問題を身近に感じる試みとして毎年10月に開催している難民映画祭というイベントは、ニュースで見るだけではない、自分で考えるきっかけ作りにもなると思います。
難民問題は危機的な状態だからニュースになっていますが、少し安定してくると、きっとあまりニュースに出なくなってしまうんです。しかし実際には、問題は長期化して解決しないから、一度支援したらいいっていうわけじゃなくて継続して支援していかなくてはいけないという難しさも孕んでいるんですよね。
そのためには普段払っている税金がODAとして有効に活用されているということを知ることも大切だし、自分名義で寄付して直接関わりを持っているという意識を持つのもいいし、着なくなったユニクロの衣類を持ち込むのも、IKEAでLED電球を買ってみることも、すべてが難民の笑顔に繋がります。身近なところで自分も難民支援に携われるんだよ、ということをこれからも発信し続けなくてはいけないな、と思っています。
公式サイト:国連UNHCR協会
支援活動:「難民キャンプに明かりを届けよう」
「1000万着のHELP!」