漫画家・沖田✕華さん×ルポライター・杉山春さん 対談(後編)

発達障害で、看護婦から風俗嬢へ 『透明なゆりかご』作者が明かす半生

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発達障害で、看護婦から風俗嬢へ 『透明なゆりかご』作者が明かす半生

漫画家・沖田✕華さんと、ルポライター杉山春さんによる「母性とは何か」をテーマにした対談の後編。

中絶や流産の苦しみ、虐待の実態など、産婦人科で経験した日々を元にした漫画『透明なゆりかご』を描いた沖田さんは、幼い頃に発達障害と診断され、看護師から風俗嬢になった過去を持つ。後編では、杉山さんが沖田さんの過去と現在を聞く。

【前編はこちら】ひとりで中絶後「あめを2つ舐めたら帰って」 産婦人科の知られざる実態
【中編はこちら】虐待しても、良いお母さんでいたい気持ちは強かった―母性とは何なのか?

ADHD、発達障害と知ったきっかけ

杉山春さん(以下、杉山):沖田さんが発達障害というのはいつわかったのですか?

沖田✕華さん(以下、沖田):子どものころに診断を受けたんです。あまりにも勉強ができないので見てもらったら発達障害とADHDってわかって。大人になってからアスペルガーというのもわかりました。

弟が2人いるのですが、一番下の弟も発達障害だったのでおかんも大変だったと思います。健常の子ですら手に余るのに、発達障害の子を2人抱えて。実家は中華料理店でしたが、お父さんは何かあったら全部お母さんのせいにするし、仲が悪くて、なんで離婚しないんだろうなって思っていました。

杉山:子どもにとって迷惑ですよね。

沖田:結局、離婚しちゃったんですけど。うちのお母さんも私を欲しくてつくったわけではなかったって言ってました。父はまったく母の好みのタイプではなかったけれど、「傷物」にされてしまったから結婚するしかなかったって。昔は貞操観念が強かった時代だから、傷物にした人にしかもらってもらえないと思って、そんなんで私はできちゃった。親に悪いなって思っていました。子どもは「どうして2人は結婚したの?」って聞くじゃないですか。そうしたら愛のない答えが返ってきたから(笑)。

杉山:私は沖田さんのお母さんと同じ世代。当時は確かに、「傷物」にされたら結婚しないといけないっていう刷り込みがあった。私自身は、結婚することで「性をエサに生活を稼ぐのはイヤ」という気持ちもあって、結婚したのは35歳、出産は38歳。当時としては遅かったけれど、それでも子どもを産まないという選択肢は意識の中になかった。結婚して子どもを持つということが、私の中では当たり前のことだった。私個人に対しても、20年違うと文化の圧力がかなり違うと感じます。

発達障害について、学校でケアは受けていたのですか?

沖田:受けていないです。でも学校の中ならなんとかやれていたけれど、社会に出たら全くコミュニケーションが取れないことにすぐ気づきました。看護師免許を取ったから頭が悪いわけじゃないって自分では思っていたけれど、たとえば名前を呼ばれないと自分が呼ばれているってわからないんです。「ねえ」とか「ちょっと」だとわからない。あとは「あれ取って」って言われても、その指示語がわからない。あれって何?って。アイコンタクトもできませんでした。それだと看護師はやっていけないから風俗嬢になろうって。風俗は本当の名前を言わなくていい、本当のことを言わなくていい、その希薄な関係がすごく好きで。

看護師から風俗に転職した理由

杉山:看護師から風俗への転職って、結構距離があると思うのですが、その理由は?

沖田:私は20歳ぐらいまで恋愛対象が女で、男に関心がなかったんですね。タイに行って性転換しようと思っていたんですけど、一度男の人としてみたら意外にできた。『透明なゆりかご』で描いているのは表向きな私です。裏には「性を知りたい」っていう気持ちがありました。中絶をすごく嫌だと思う一方で、お金を得られる「性」にも興味があったんです。

それまで看護師になれば何とかなると思っていたのに、看護師になったけれどうまくいかないとわかったのが22歳。私はお金を貯めることにはすごくこだわりがあって、仕事を辞めてお金を貯められない自分には価値がないって思っていました。高校1年生のときに、近所で飲食店を開いていたシングルマザーの女性が首を吊ってしまったんです。第一発見者は小学生の息子。そのときに彼女の借金が200万円だったって聞いて、200万円で人は死んでしまうんだって思いました。真面目な人ほど誰にも迷惑をかけたくないから、消費者金融にも行かないし誰にも相談しないで死んでしまう。お金があれば解決できたのにって。

杉山:本当にそうですね。

沖田:あとは、自分の家で気兼ねなくトイレにもお風呂にも行く生活がしたかったんですよ。家に風呂がないから銭湯通いだったんですが、行き帰りに痴漢が出るんです。自転車でついてきて触られるのが、5年間ぐらいずっとでした。家のトイレもぼっとん便所で外に向かって窓がついていたから通りがかりの酔っ払いによく覗かれてました。だから稼いでちゃんとした家に住みたかった。

風俗では若いうちしか働けないと思って、22歳で「これが最後のチャンス」と思って高級ヘルスで働こうと思いました。でももし漫画家を廃業したら、また看護師をやりたいと思っています。

「愛があれば何もいらない」感覚はわからない

杉山:作品を読んでいると、冷静な観察眼がすごいなと思いました。

沖田:人の人生にはすごく興味がありました。子どものころからまわりにおかしな人たちばかりいて、だいたい悲惨な最期で終わっちゃうのだけれど。自分と違う人たちに興味があって。風俗で働いていた頃、一緒に働いている子がホストの子どもを妊娠したりするんです。「お前が本命だよ」って言われて避妊もできない。でもそのホストのバースデーには同じような同業者の女の子がたくさん来て、自分だけじゃないって気付くんですね。それでピアス引きちぎり合いのけんかとか。それを私は冷静に見てしまうっていうか、「愛」でわーっとなる人が不思議でした。「愛があれば何もいらない」っていう人の気持ちがわからない。

杉山:愛って何なんでしょうね。愛という言葉や理想に引きずられると、愛を描いている物語をトレースしているような生き方になってしまうような気がします。

沖田:ドラマで主人公かヒロインが死んで「それが愛」みたいなね(笑)。

杉山:社会に対して違和感はずっとあったのですか?

沖田:常に違和感でした。でも自分探しの旅に出かけようとかではなくて、どうやったら極力ストレスなく生きていけるかを模索しようとしているというか。描いたものが漫画化したこともすごく不思議。今のパートナーさんから描いてみたらって言われたから描いてみたんですけど、ある日突然でした。今も小指と親指を逆に描いているような状況で、レビューを見ると絵のことをめちゃくちゃに言われてますけど、私は自分の絵が下手だって思ってないんです。

自分で稼ぎ、人生を全うしたい

杉山:私たちはそれぞれの時代が持つフィルターを通して社会を見てしまうけれど、沖田さんにはそのフィルターがあまりかからないのでしょうね。子どもを既存の価値観に合わせようとするのではなく、その子の後ろからついていってあげるような視点が沖田さんの漫画にはあると思います。その視点こそが、問題を解決するのではないかと。

沖田:描いているときはそう思わないけれど、本になった後に、「これはこういうことだったのかな」って、自分で気付くことはありますね。

杉山:先ほど、また看護師をしたいと仰っていましたが、看護師の仕事が好きな理由は……?

沖田:親とか病気したときに早期発見できるかもしれないし、給料が高いから食いっぱぐれない。あと、最後は一人で死ぬから、いかに迷惑をかけずに死ぬかを考えていて。最終的に孤独死になったらあれだから、人生の終わりのプランを今考えているところです。自分のことはちゃんと自分でやりたい。自分で金を稼いで人生を全うしたいと思っています。

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