臨床心理士・濱田智崇さんインタビュー(前編)

DV加害者は、なぜ暴力を振るってしまう? 男性が陥りがちな思考を臨床心理士が解説

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DV加害者は、なぜ暴力を振るってしまう? 男性が陥りがちな思考を臨床心理士が解説

「女は/男はこうあるべき」という、社会的な「性別役割分担意識」は今も消えることがない。男性は「弱音を吐くべきではない」ではないとされ、悩みがあってもなかなか表面化しにくいものだ。警察庁が発表した2015年11月末までの自殺者数を見ると、女性は6748人、男性は倍以上の15357人(参照:「平成27年の月別の自殺者数について(11月末の速報値)」)。この結果からも、男性の生きづらさが見えてくる。

悩みを抱えた男性をサポートする団体に、電話相談の「『男』悩みのホットライン」がある。今回は同団体の代表で臨床心理士の濱田智崇さんに、男性の悩みの特徴や、DV加害者が抱えがちな問題などを聞いた。(編集部)

男性の悩みを男性が聞く意義

1995年の大学在学中、日本初の男性専門電話相談「『男』悩みのホットライン」の立ち上げに関わった臨床心理士・濱田さん。現在はホットラインの代表を務めながら、京都橘大学で臨床心理学の助教として研究や指導をし、男性を対象とした「カウンセリングオフィス天満橋」の運営をしています。男性の悩みに向き合い続ける濱田さんに男性の生きづらさの傾向や、男性も生きやすい社会であるためにはどのようなことが必要かを聞いてみました。

――どのようなきっかけで男性向けの男性専用電話相談を始めたのですか。

濱田智崇さん(以下、濱田):京都大学で心理学を学んでいた学生の頃に、男らしさに縛られない生き方を考えるためのメンズリブ研究会に入っていた友達から誘われたのがきっかけです。

研究会に可愛がっているはずの自分の娘に手を上げてしまうことを悩んでいたメンバーがいたんです。彼は自分の加害性に気付いてメンバーと話をし、考えた結果、男性が暴力を振るわず生きるお手伝いを目的とした電話相談を始めることになりました。

開設のための準備は1994年から始めたんですけど、その当時DVって言葉は誰も知らない状況で、DVについての相談を開設しても誰も掛けてこないだろうという話になりました。そこで当時、女性向けの相談窓口は行政の婦人会館とか女性センターなどはあったんだけど、男性が男性として生きる上での悩みを聞いてくれるところがないよねって話になり、じゃあ男が男の悩みを聞くことを、うちの独自性にすることに決めたんです。

「『男』悩みのホットライン」という名前を付ける時も、さんざん考えて2重カギカッコで『男』にしました。それは、男にまつわることを男が聞きますよという意味だったんです。

開設当初、いちばん多かったのは性の悩み

――開設された当初はどのような悩みの相談が多かったのですか。

濱田:開設して丸4年はDVについて掛けてくる方はいなかったですね。一番多かったのは性の悩みです。大阪市などで男性相談が開設されるようになった現在でも、行政に性の相談はしづらいようで、うちのホットラインに掛けてこられる方が多いのです。セックスの悩みとか、ペニスに関する悩みとか。そういうことは恥ずかしくて言えないし、周りの男たちに言っても、お酒が入った時の猥談みたいになって真剣な悩みとして受け取られないということもあるので。男性の悩みを男性が聞くってことで安心して掛けてもらえたと思ってお受けしています。

――学生の時にホットラインを始めたということは、自分よりもかなり年上の方から相談の電話が掛かることもあったんじゃないですか。緊張はしませんでしたか。

濱田:はい、なかなか大変でした。でも、最初に研修を受けた先生から「人生の経験は少ないかもしれないけど、話を聞く訓練を受けているから大丈夫」と言われましたね。

――男性は女性よりも男性に悩みを聞いてもらう方が話しやすいのでしょうか。

濱田:もちろん女性の方が話しやすいと言う男性もいるんですけども、どうしても男性って女性に対してカッコつけてしまう人が多いので、男性に対してのほうが本音で話しやすい傾向があると思います。

また、男性としての当事者性というものがありますね。男としてこのしんどい世の中生きている同士、同じ地平に立って話を聞くことができるという点を独自性としてやってきたんで。

DV加害者が抱えがちな問題とは?

――近年はDVに関する相談もあるとのことですが、DV加害者が抱えがちな問題にはどのようなものがありますか。

濱田:「こうでなければならない」とか「こうあるべきだ」っていうハードルを自分に課してしまう傾向がありますね。自分への要求水準が高い人は、パートナーに対しても自然と高い要求をしてしまうんです。それが満たされないと暴力という形で表れていくことがあって、「ねばならない思考」って言うのは本人も周りも傷つけます。

また感情を軽視してしまう、たいしたことがないと思ってしまう傾向もあります。理屈とか現実とか論理の世界、それから目に見える結果を出さないといけないという世界に追い込まれていて、情緒的なものや感情的なことを共有するのが不得手なんです。しかし、そういうものに意味がないと軽視すると、逆に精神的な余裕をなくしてしまいます。

――殴ったり怒鳴ったりということの方が、感情的に思えるのですが。

濱田:自分の感情を受け止めず、言葉で表現せず抑圧してしまうと、マグマのように圧力でバンと出てしまう。自分の感情がわからないまま、感情が未分化の形で出てしまうんです。DV加害者の男性に「パートナーに自分の気持ちを伝えたことがあるか」と聞くと、「そんなこと伝えていいんですか」と言われることもあります。

――DV加害者からの相談の場合、どのような言葉をかけますか。

濱田
:DV加害者と言ってもいろんなパターンや状況があるんです。自覚して、例えばパートナーをこづいてしまったなどで自分の加害性に気付いて、あるいはパートナーに指摘されて治したいと相談される方に対しては、暴力を振るわなくても済む方法、「タイムアウト」(※1)や相手に対してどのように言葉をかければいいかなどアドバイスしながら、自分の感情と向き合ってくださいと言います。

※1タイムアウト:怒りを表現できずに爆発しそうになったら、「タイム」をとることを相手に伝え、頭を冷やすために一旦家を出て、落ち着いてから怒りの理由を相手に説明する方法。『脱暴力のためのプログラム―男のためのハンドブック』(p33~39参照)

自分の気持ちに気づいてもらうところから始める

濱田:もっと事態が進行してから来る人もいます。自覚がない、例えば「妻と子どもが出て行ってしまい、DVだと言われているんだけど自分ではそう思わない」という怒りの電話を掛けてくる方、「どうして自分がこんな目にあわないといけないんだ」と言う方もいます。

そういった場合は、いきなり「あなたのやっていることはDVです」って言っても電話を切られちゃうだけなので、まず相談員が気持ちを受けとめることから始めていきます。そうすると、ホットラインが自分の話を聞いてくれるところだとわかるので関係性ができます。それがDV加害者の方が苦手とする、自分の気持ちに気付き、向き合うことの出発点となります。

そして落ち着いて現実に対応していくプロセスの中で、徐々に脱暴力ってことに向かっていくことを目指すのですが、1回の電話だけではそこまでいかないんで、継続のカウンセリングを紹介したり、グループワーク(※2)を紹介したりとかしていますね。

※2「グループワーク」:濱田「メンズリブ研究会には『男』の悩みホットラインを立ち上げたメンバーの他に、メンズサポートルームを立ち上げたメンバーもいます。支援する側として電話相談がやりやすいメンバーもいれば、グループワークの方がやりやすいメンバーもいる。悩んでいる男性も相談の方が良い人と、グル―プで喋る方が良い人、両方併用する人もいます」

男性は悩みを自覚しにくいよう、社会から学んでしまっている

――なるほど。

濱田:一旦気持ちを受け止めるというのは、カウンセリングや電話相談の基本中の基本ですが、傾聴と共感に特に力を入れるというのが、男性の相談窓口ならではの部分だと思うんです。 

どうしてかと言うと、男性は自分がどうしたいかよりも、理屈で解決しようとしてしまうからです。男性の相談の特徴は、例えば「妻が出ていきました、子どもはこういう状態です、みなさんはどうしていますか」って聞くことなんです。自分がどうしたいのか、子どもと会いたいのか、っていう気持ちの部分を話さずに現実の状況だけを理屈で説明して、こういう場合にはどうすべきですかとか、答えを求めちゃう傾向がある。夫婦間の問題なんか個別の事例で、「自分がどうしたいか」がないと解決しないんです。

理屈でわかることはインターネットで調べればわかるので、相談ではきちんと悩んで頂けるようにする、自分の気持ちに気付く、自分の気持ちと向き合えるようにする、そういったことを大事にしています。

本来は、「男性特有の悩み」も「女性特有の悩み」もないような気がしていているんです。自分の感情や悩みに気付きやすいか気付きにくいかに、男女で違いがあるのではないかと。男性は悩みに気付きにくいように、社会から学んでしまっている傾向が強い。その部分を少し乗り越えて、感情に気付けば変わっていくはずなので、最初の突破口になりたい。

男性はしんどくなればなるほど心に「鎧」を着ようとする。自分がやったことのある理屈とか他の人の成功例とか、データから問題を解決しようとするんですけど、そうじゃなくて自分がどうしたいかの方に答えがある。そこに気付いてくれればいいんです。

【後編はこちら】熱々のフライパンで火傷させられる…女性からのDVを、男性が打ち明けない理由

■関連リンク
カウンセリングオフィス天満橋

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