「パソナ東北創生」代表取締役戸塚絵梨子さんインタビュー後編です。
震災を受けて、会社を休職し東北に旅立った戸塚さん。そこで感じたのは東北の土地がもともと持っている0から1を生み出せる力強さでした。「東北に何かできることはないか」という思いでボランティアに向かった戸塚さんは、考えを改め、豊富な資源に魅せられたといいます。震災から時間が経ち、作業用重機が現地に入ることで、ボランティアができることは次第に減ってきました。
後編では、ボランティア期間を終え、東京に戻ってきた戸塚さんが会社を立ち上げるに至った経緯や、今後の東北に必要なものを聞きます。
【前編はこちら】「被災地ではなく、ひとつの街なんです」29歳の女社長が東北創生を目指す意味
社内起業制度に手をあげたきっかけ
――被災地でボランティアをしたのち、東京に戻ってきて、「パソナ東北創生」を立ち上げられたということですが。
戸塚絵梨子さん(以下、戸塚):営業職に復職した後は、会社の復興支援の有志団体の活動として、釜石や陸前高田を回るバスツアーを週末に企画するようになりました。ただ、2013年頃からは被災地に重機が入ようにもなり、土日でできるボランティアは減ってきていたんです。
漁師さんが本来の仕事をとめて、ボランティアを受け入れるための仕事を作ってあげるという本末転倒なことも起き始めていたし、流されてしまった漁具を再建し、これから産業を興していこう、地域の資源を使った商品を作っていこう、と経済を戻していく動きに対して、もっとこの復興のプロセスに深く責任を持って関わっていきたい、と思うようになり初めて起業するという選択肢ができました。
といってもいきなり起業という選択肢を考えたわけではなく、NPOの職員になるとか、フリーでやっていくとか、現地の一般社団法人に入るとか、いろいろな方法を考えていたときに先輩社員や上司に相談したら、やりたいことを社内で形にできるかもしれない、まずは社内でチャレンジしてみたらどうかとアドバイスをいただき、社内ベンチャー制度に手をあげ今に至ります。
パソナはそもそも創業者である南部が学生ベンチャーで立ち上げた会社ということもあり、風土としてベンチャー気質のある会社というのは入社前から知っていました。社外活動をしていたり二足のわらじで頑張っている社員も多く、それを応援してくれる風土はすごくいいなと思っていました。ただ、私が社内ベンチャーで起業するとは思っていませんでした。
地域資源を使った産業を興すことが目標
――「パソナ東北創生」では具体的にどういう事業をされているんですか?
戸塚:実践型研修ツーリズムやスタディツアーを企画して首都圏の方を被災沿岸部にお連れし、現地の地域課題や新しい街づくりの取り組みにご一緒させて頂きながら参加者の気づき、学びにつなげること、そして同時に現地の課題解決や産業復興に寄与することを目指してコーディネイトをしています。
今は釜石市の甲子(かっし)町というエリアの名産であった「甲子柿」を名産として復活させ地域化していく取り組みに力を入れていて、現地側での商品化や販路開拓といったプロセスに沿ってスタディツアーを組み、社会人や学生さんをコーディネイトしています。近年、高齢化で柿を作っている農家が減っていっているのですが、頑張れば生産できる量がどのくらいあるのか、また歴史や文化、ここでしか知られていない柿の作られ方・食べ方などを地元の活性化協議会と一緒になって調査し、マップに起こして、地元の方に発表したりしました。
それをもとに地元の人とまち歩きのツアーをしたり、柿を使った商品のレシピを開発したり、協議会の代表の方が経営されている農家レストランでメニューを作って、地元の人に食べてもらって品評してもらったりもしています。
また、スタディツアー参加者の学生と社会人に対しては、ツアーから帰ったあとも販路の拡大のために都内だからこそできる発信の仕方を考えてもらったり実行に移してもらったりするなど、地域資源を使った産業を興すことを目標にスタディツアーをコーディネイトしています。
――今年創設されたところで、まだ試行錯誤という感じでしょうか。
戸塚:一営業から、経営に携わる経験なく今のような立場につき、株式会社であることの意味や、経営者として会社を拡大させていくこと、ビジネスとして継続させるにはどうしたらいいかということを日々考えています。自分がやりたいことをやる、という行動原理で動いてしまうのではフリーで活動するのとは変わらないから、経営者としての視点を持ち、事業を継続させることで釜石に、地域に貢献することを常に心がけるようにしています。
釜石で雇用を創出し、経済の循環をつくることが、会社と地域との持続可能な関係性を作るのだと思っています。現在、パソナ東北創生の社員は数人ですが、ソトモノの会社でありながらも、もっと地域に根ざした会社にしていきたいですね。
――戸塚さんの意志に対して、周りがついてくる、というような印象を受けましたが、人に意見を通すために考えていることはありますか?
戸塚:私自身は「迷ったらやる」派で、やらないとそもそも自分がやりたいことだったのかも分からない。そして何かやることに対して失うものは思ったほど、いや、むしろ何もないんじゃないかと思います。ただ、私はすごく心配性で、寂しがりやなので、誰かと一緒にやりたいんですよね。
自分が何かやりたいとしたら、たいてい誰かに「一緒に行かない?こういうことしたら面白そうじゃない?」と誘います。最初のボランティアも友人と一緒に行きましたし、今回の起業も1人で興したのではなく、提案している間、ちょうど私と同じようにパソナを休職し釜石で活動している後輩がいたのですが、一緒にやろうよ! と誘って、状況を共有しながら一緒に準備を進めました。上司や先輩が応援してくれ、後押ししてくれたのも、ものすごく心強かったです。
「地域で生きる」を身近にしたい
――いま目標にしているものは何でしょうか?
戸塚:三陸沿岸部の一番の魅力は、ものを生み出せるところだと思っていて、農業や漁業や、釜石だと鉄がありますが、小さくてもいいから地域の資源、素材を活かした産業を育てていきたいなと思います。
そのプロセスにスタディツアーという形で首都圏からのソトモノが一緒に何かを行う機会を作り、人材育成につなげていきたいと思っています。そこで仕事を生み出し、経済的にも成り立つような、地域での仕事を自分のキャリアにできる人を増やしていきたい、「地域で生きる」という選択肢を身近にしたいですね。
産業を生み育てることは、地元以外の人の視点が入ってくることで加速する部分もあるでしょうし、首都圏の方が地域に入り、地元の方々から教わること、気づくことも多いと思います。地域とソトモノが出会い、双方にとってのプラスになるような循環を生み出すことを、目指していきたいです。
■イベント情報
株式会社パソナ東北創生取締役の石倉佳那子さんが登壇します。パソナ東北創生を戸塚さんと創業された方で、現在は東北に住み、新しい働き方や暮らし方を推進する業務に従事しています。
「~ Asu-Pro Vol.1 ~」
アスリート、音楽家、起業家……あらゆる分野で頑張る人がコラボレーション!
ディナーとともに、トークと音楽を楽しむイベントです。
日時:2015年12月16日(水)19:30~21:30(受付19:00~)
会場: 東京タワーTOWER’SDINER
住所:東京都港区芝公園4-2-8東京フットタウン2F
(東京メトロ大江戸線「赤羽橋駅」徒歩8分)
参加費:一般3,000円/学生2,000円
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【お申込み方法】
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