「イスラーム映画祭2015」主催者インタビュー

イスラム過激派の弾圧に、非暴力で抵抗する―映画祭が伝えるイスラームの真実

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イスラム過激派の弾圧に、非暴力で抵抗する―映画祭が伝えるイスラームの真実

世界の宗教人口において23億人のキリスト教に次いで、16億人以上が信仰をしているのに、我々日本人にとっては馴染みの薄いイスラム教。身近ではないためによく知らないだけでなく、昨今では自分たちの理想を実現しようとテロ行為も辞さないイスラム過激派によって、ネガティブなイメージがつきやすくなってしまっているのが現状ではないだろうか。

渋谷ユーロスペースでは12月12日から18日まで、「イスラーム映画祭2015」が開催されている。中東だけでなく、トルコやフランス、インドネシアといった様々な国で製作された、バラエティ豊かな9本の作品を上映。国内で初めてとなる“イスラーム”をテーマにした映画祭について、主催の藤本高之さんにお話を伺った。

イスラーム映画祭

映画祭のメインビジュアル

9.11以前に感じた、イスラームの国の人々の温かさ

――藤本さんはこれまでイスラームの国々をたくさん旅されてきたそうですね。

藤本高之さん(以下、藤本):20代の頃、バックパッカーでバングラデシュ、パキスタン、イラン、トルコなどに行きました。特にバングラデシュやイランで出会ったイスラームの人々は、僕が日本人だとわかるとものすごく手厚く世話を焼いてくれていたのが印象的でした。日本に出稼ぎに来たことがあったので日本への恩を持っているという人が多かったんです。その時に「イスラームって面白いんだな」と強く思いましたね。人々の優しさや温かさももちろん、日本では見たことがない宗教美術や建築物、礼拝の時間を知らせるために街中に鳴り響くアザーン(「アッラーフ・アクバル(=神は偉大なり)」の四度の繰り返しから始まる呼び掛けのこと)など、文化自体もとても新鮮でした。

――ご自身で観てきたイスラームの真実を映画祭で伝えよう、と。

藤本:それが90年代だったのですが、その後9.11が起きてから今日まで「イスラーム=テロ、過激派」といったイメージが随分とついていますよね。僕としてはイスラーム圏に行ったことがあるので全然そんなことないのになあと思っていましたし、6年程前に映画のワークショップに参加してから「いつかはイスラームに関する映画祭をやりたい」と構想はしてきました。イスラームをもっと理解しようとか日本人は真実を見るべきだとか偉そうなことを言いたい訳でなく、面白くて素敵な国が多いのに流れてくる情報でネガティブなモザイクがかかるのはもったいないなという気持ちが大きいですね。

原理主義を批判して命の危険にさらされた監督の作品も

――今回は国内初ということですが、今まで日本で行われなかったのは何故なのでしょうか。

藤本:これまで東京国際映画祭やイラン映画祭、アラブ映画祭といったほかの映画祭の中でイスラームに関する映画は何本か上映されてきたのですが、このテーマでまとめて作品を集めたというのは今回が日本初ですね。もっと他に誰かがやっても良かったのにと思いますが、センシティブな宗教に触れるので映画祭としてハードルが高いというのはあると思います。

我々もそこは充分に気を付けていますが、「国によってイスラームの事情は違うのにざっくりまとめすぎではないか」という意見をもらう時もあります。宗派の違いや国同士の複雑な関係などがあることももちろん理解していますが、まずは映画としてイスラームへの入口を広くして、そこからお客さんが自分なりに考えてもらうきっかけを作りたいというのが強いですね。

――今回の映画祭ではだいたいここ10年で製作された9本の作品が上映されます。世界的に映画を通して、イスラームの真実を伝えたいという動きは広がっているのでしょうか。

イスラーム映画祭

『神に誓って』より

藤本:そうですね。今回の上映作品で言うと『神に誓って』(パキスタン、2007年)は、強引に結婚させられるパキスタン系イギリス人の女性や、その親と娘の意識の違い、タブーとされてきたイスラム教の様々な問題について、パキスタン国内における原理主義層とリベラルな層が極端に二分化している現状とともに描いています。監督は敬虔なムスリムの方なのですが、女性の人権を侵すような強制的な結婚はおかしいと主張して、原理主義を真っ向から批判しました。その結果、監督は原理主義者から脅迫を受けたりもしたのですが、映画が公開されるとパキスタンで社会現象になるほど爆発的に大ヒット。監督がとにかくパキスタンを変えようという気持ちだけで作ったのですが、彼の考えに賛同する人が国内にたくさんいたのです。

イスラム過激派の弾圧に非暴力で抵抗する家族を描く

イスラーム映画祭

『禁じられた歌声』より/(c) 2014 Les Films du Worso (c) Dune Vision

また、イスラム過激派の弾圧に非暴力で抵抗する家族の姿を描いたフランス映画『禁じられた歌声』(フランス=モーリタニア、2014年)は、今年1月にパリで起きたシャルリー・エブド襲撃事件の1か月後に、フランスのアカデミー賞である「セザール賞」のグランプリを受賞しました。ああいった大きな事件が起きると、どうしても片方の強い意見でどんなことでも反イスラームの動きに流れそうですが、フランスはしっかりとこの作品の中身を評価した。先日のパリのテロ事件の後にも、移民問題にも触れ「フランス社会とイスラム教はやっぱり相いれないものだ」というイメージがついてしまいましたが、実はこのような動きもあったんだということをこの映画で伝えられたらと思います。

イスラームの女性たちも変わってきている

――他の作品の中で、女性に是非観てほしいものはありますか。

イスラーム映画祭

『カリファ―の決断』より

藤本:『カリファ―の決断』(インドネシア、2011年)は、厳格なムスリムの夫と結婚した23歳のカリファ―が、「ニカブ(目の部分だけが空いたベール)」の着用を強制され精神的に追い詰められていく話なのですが、自ら誇らしげにニカブを着る女性との出会いなどによって真の抑圧や自立とは何かを学んでいく作品です。

実はムスリム女性のファッションもいろいろ変わりつつあるんですが、特にインドネシアではどんどんカラフルになっていっているんです。インドネシアは宗教の自由を認めているのですが、人口の75%と世界一のイスラム教徒を抱えています。宗教に寛容的なので今まではイスラム教であっても欧米の価値観や文化に流されニカブやヒジャブを脱いでいたりなどいましたが、最近ではムスリムの生き方を逆に実践して、自ら敬虔になっていこうという空気が強い。ヒジャブも受け身の感覚で「着せられる」のではなく、主体的に「自分から着る」という動きになっているんです。そうした時代の流れによって変わる女性たちの意識についても、この作品では描かれています。

――恋の話やファッションなど、エンタメ色の強いラインナップなので楽しみです。

藤本:作品ごとの風景も注目してほしいですね。僕も行って感じましたが、とにかくイスラームの街並みってエキゾチックで絵になるんです。堅苦しくなく、女性のお客さんも楽しめる映画祭になると思います。

時期的にはこれから日本でもイスラームが注目されてくるタイミングに来ているのかなと感じます。都内にあるモスクやハラール料理店などもじわじわ人気になってきていますし、あらゆる宗教文化を自分たちなりに楽しめる日本では、イスラームの文化や考えがもっと身近なものになっていったら面白いなと思います。

■関連リンク
イスラーム映画祭2015公式サイト

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