その「魔性」ゆえに、周りの人間を死にいたらしめる女たちを綴った『「魔性の女」に美女はいない (小学館新書)』の作者、岩井志麻子さんインタビュー後編です。
特殊能力とも言える「魔性」を持つ女たち。彼女たちが身近に現れたら、私たちはどう対処すればいいのか? 岩井さんの体験談を交えて伺いました。
【前編はこちら】岩井志麻子が語る“魔性の女”論「ばびろんまつこはただの頑張り屋さん」
自分の彼氏が「魔性の女」に魅入られたら
――自分のパートナーや好きな男性が「魔性の女」に引っかからないようにするにはどうすればいいでしょうか?これって防ぎようはないものでしょうか?
岩井志麻子(以下、岩井):これは「風邪」と同じなんですよ。風邪ってなるべく人ごみには近づかないとか、早寝早起きを心がけて栄養のあるものを食べて、無理をしないようにって心がけても引くときは引きますよね。逆に徹夜してヨレヨレになって人ごみの中に行っても引かないときは引かないし。
だけど人ごみににも行かないし、健康的な生活もしてるのに引くのだとしたらこれは通り魔に遭うようなもの。本人に落ち度はないし、「そこにいたから」としかいいようがないですよね。
――潔く諦めるしかないんでしょうか。
岩井:英会話とかダイエットとかハウツー本って毎月のように新刊が出るけど、要するに決定版がないからなんですよね。それと同じで、色んな対処の方法とか攻撃の方法とかどれがベストってのはないんですよね。
印象に残ってるのは、韓国・ソウルでタクシーの運転手に「夫が浮気者で…」ってグチったとき、「韓国人はね、『早く早く』で、日本人は『ゆっくりゆっくり』なんだって車乗ってると思うよ」って言われたんですよ。
韓国人の客って言うのは、「少々危険があってもいいから早く行け!」ってのが大半だけど、日本人は少々時間がかかっても安全第一、確実な道を選んでくれ」と言うのだと。運転手は「あんたは日本人だから、日本式でいいんじゃないの。相手が韓国人でもあんたは日本人らしくゆっくりゆっくり彼を待つのがいいんじゃないか」って言ったんですよ。
夫の浮気相手は「奥さんといつ別れるの?早くして!」と言ってくるから夫もくたびれてしまったんだけど、私は他の愛人ができたからほったからかし気味にしてたんですよ。夫はそれをよく解釈して「志麻子はゆっくり待っててくれた」と。ただ、「煮え切らない妻に愛想を突かして、自分を熱望してくれた愛人のほうに行く」っていうパターンもありますから、全ての人にはお勧めできないし、相性、組み合わせ、人によるとしか言えないですわ。
闘うためには「何もしない」がベストかも
――魔性の女に対抗するのに「魔性度」を上げたからって勝てるってものではないんでしょうか。たとえば職場に「魔性の女」がいたら、そこで生き抜くためにはどうすればいいんでしょうか。
岩井:実は「何もしない」っていうのが一番失敗がないんじゃないでしょうか。クイズ番組に出ていても、成績順で立たされて、何位以下は切り捨てられるとか、何位以上しか次に進めないっていうルールで一番焦るのって「真ん中」へんにいるときなんですよね。だから私は2位、3位とかにいるときは動かないんです、勝手に下が自滅してくれるから。
下のほうは失うものがないから、一発勝負に出ようとして、正解が分からなくても回答するし、真ん中へんだと「あと1人脱落したら上にいける!」とお互い食い合って落ちていく。私がほとんど答えてないのに2位になれるのって、下が勝手に脱落して、繰上げ繰上げの結果なんですよね。
――漁夫の利みたいなものですね。
岩井:だから「待てる人」って強いと思いますよ。攻撃するよりも。待つのも忍耐力とか自制心とか抑制力とか大変なもので、冷静じゃなきゃできないですから。
私自身も過去の男性との失敗を振り返ってみると、自ら焦って喧嘩したり、いてもたってもいられなくなって電話攻撃してみたり、結局相手の女に有利になるようなことをしていたり。年をとったのもあるけど、待ちの姿勢の方が勝率が上がるっていうのが分かりましたよ。「無事これ名馬」じゃないですけど。
――韓国のタクシーの運転手さんが言っていた「ゆっくり待つ」っていうのがここでも繋がってきてますね。
岩井:「魔性」ではない私たちが、「魔性の女」に立ち向かうには、惑わされずに余裕を持つべきなのかもしれません。魔性の女たちは、その人を狂わせるスキルによって、自滅してしまうことも多くありますから。