水木しげるの“気張らない”人生を振り返る「オモチロがって描くのが一番イイ」

SHARE Facebook Twitter はてなブックマーク lineで送る
水木しげるの“気張らない”人生を振り返る「オモチロがって描くのが一番イイ」

2015年11月30日、漫画家・水木しげるさんの訃報が日本を駆け巡った。享年93歳。水木さんといえば、ご存知『ゲゲゲの鬼太郎』の生みの親で、紫綬褒章を受章し、文化功労者にも選ばれている偉大な漫画家だ。御年90歳を超えてなお、隔週で漫画の連載をしたり、巨大なハンバーガーにかぶりつく写真がSNSに投稿されたりと、意気軒昂な生活ぶりがうかがえていただけに、惜念の情が尽きない。

しかし、「『ゲゲゲの鬼太郎』作者であることは知っているけれど、それ以上は知らない」というウートピ読者も多いのではないだろうか。

実は、水木さんは作品もさることながら、作家本人の壮絶な人生と、そこから生まれる「肩肘張らない人生観」で多くの人を魅了している。小学生の時分から現在に至るまで、水木さんの『図説 日本妖怪大全』(講談社+α文庫)を片時も離さなかった一ファンとして、また漫画の世界の端の端に片足を突っ込んでいる人間として、水木さんの漫画界に与えた影響を考察しつつ、「気張らない生き方のコツ」を紹介したい。「どうしてもがんばりすぎてしまう」という女性にも、必ず役に立つはずだ。

想像を絶する戦争体験を経て漫画家へ

「水木しげるの妖怪漫画」といえば、緻密かつおどろおどろしい絵柄が特徴だ。だが、幼少時代の水木さんの夢は「画家」。出身地である鳥取県境港市の漁港や、家族をモデルに色彩豊かな美しい水彩画や絵本をいくつも描いており、新聞に「天才少年画家」として取り上げられたこともある。

子どもの頃から自他ともに認めるマイペースな人物だった水木さんは、戦争中、所属していた鳥取の連隊でラッパを上手く吹くことができず、配置転換を願い出た。結果、激戦地のラバウルへ配置替えされることになる。ラバウルでは左腕を失いながらも部隊の中でただ一人生き残り、規則を破って現地民とも交流を深めた(そのため、銃殺刑に処されそうになる)。その想像を絶するような戦争体験の後、水木さんは画家の夢を諦め貸本漫画家としての道を歩み始めたのだ。

しかし、漫画家としてのスタートはしょっぱなから苦難の連続だった。作品が売れず、売れたとしても原稿料の不払いにより、糊口を凌ぐ毎日だった。長い貧乏生活を経て、『鬼太郎』シリーズでようやく人気漫画家として花開いたのだ。

その後、水木さんはつげ義春さんや白土三平さんらとともに雑誌『月刊漫画ガロ』の看板を背負っている。

『月刊漫画ガロ』は現代漫画の潮流を作り出したと言われ、現代まで語り継がれる漫画家を次々と輩出している。つまり、水木さんは妖怪ブームを巻き起こしただけでなく、娯楽としての漫画の黎明を支えた立役者の一人でもあったのだ。

水木さんの語る「幸福の7カ条」

波乱に満ちた生涯の中で、水木さんは以下のような「幸福の7カ条」を遺している。

第1条:成功や栄誉や勝ち負けを目的に、ことを行ってはならない
第2条:しないではいられないことをし続けなさい
第3条:他人との比較ではない、あくまで自分の楽しさを追求すべし
第4条:好きの力を信じる
第5条:才能と収入は別、努力は人を裏切ると心得よ
第6条:怠け者になりなさい
第7条:目に見えない世界を信じる

生前、著書『わたしの日々』の中で「自分がオモチロがって描くのが一番イイわけですョ」と笑っていた水木さんらしい7カ条だ。少年時代から一心に絵を描き続けていたことが独特な「水木漫画」の土台になっているのだろうし、とはいえ「第5条:才能と収入は別、努力は人を裏切ると心得よ」という一文は、あふれんばかりの才能を持ってなお、漫画家として不遇の時代を過ごした経験に裏打ちされていると考えられる。

7カ条の中でも目を引くのが「第6条:怠け者になりなさい」だ。『わたしの日々』の中で、水木さんはこの文章について次のように語っている。

「いくら好きなことでも、努力しなければ食えない。しかも、努力しても結果はなかなか思い通りにならない。だからたまにはなまけたくなるものです。のん気にくらしなさい、ということです」

もちろん、努力をおろそかにしていいという意味ではない。水木さんは最後に「ただし……若い頃になまけてはダメです!」と付け加えている。「努力は報われる」と期待するあまり、研鑽に研鑽を重ねた挙句壁にぶつかり、「私はこんなにがんばったのに」と心が折れてしまうくらいなら、最初から割り切ってしまったほうが気楽に生きられる、ということなのだ。

人生に絶対的な価値を求めるのは、心が弱いから

他に2つ、水木さんの名言を紹介しよう。「猫はカシコイ」と、「屁のような人生を目指す」だ。無類の猫好きでもあった水木さん。「なぜなら、猫は食うために働かない。これはニューギニアの森の人が言った言葉だが、真理をついているネ」と述べている。ごくごく短い言葉ではあるが、「自分は今、何のために働いているのか」と迷っている人には、かなり刺さるのではないだろうか。

そして、「屁のような人生を目指す」という言葉。ちょっぴり下品ではあるが、その意味するところは極めて深い。『わたしの日々』では以下のように書かれている。

「人生になんらかの絶対的価値を求めるのは、心が弱いからです。瞬時に消えゆく屁のようなものに価値を見いだし、満足するべきなんです。人生の幸せは八十歳を過ぎてからです」

結婚や出産、職場でのキャリアや押しつけがましい「女としての幸せはこうあるべき」という価値観。水木さんの「気張らない生き方」は、そうした居心地の悪いものを全て取り払ってくれる優しさに満ち満ちている。

この記事を読んだ人におすすめ

この記事を気に入ったらいいね!しよう

水木しげるの“気張らない”人生を振り返る「オモチロがって描くのが一番イイ」

関連する記事

編集部オススメ

仕事と恋愛、キャリアとプライベート、有能さと可愛げ……女性が日々求められる、あるいは自分に求めてしまうさまざまな両立。その両立って本当に必要?改めて問い直すキャンペーンが始まります。

後悔のない30代を過ごしたい。ありとあらゆる分野のプロフェッショナルに、40歳から自分史上最高の10年を送るために「30代でやっておくべきこと」を聞いていきます。

記事ランキング
人が回答しています