コーチ・ファシリテーター 谷益美さん×脳科学者 枝川義邦さんインタビュー

空気が読めない人は、脳の働きが鈍い? コミュ力を高める“トレーニング”とは

空気が読めない人は、脳の働きが鈍い? コミュ力を高める“トレーニング”とは

仕事では様々な立場の人と関わる必要があり、コミュニケーションに関する悩みは尽きないものだ。苦手意識を持っている人も多いだろう。不得意ではなかったとしても、場の空気を読んだり、会話を考えたりすることが面倒くさく感じられるときもある。人との出会いが刺激になるとわかってはいても、気持ちを変えるのはなかなか難しい。

コミュニケーション能力を高め、積極的に人と関わるにはどうすればよいのか。『タイプがわかればうまくいく! コミュニケーションスキル』を刊行した、コーチ・ファシリテーター・谷益美さんと脳科学者・枝川 義邦さんに、スキル向上に必要な行動や心構えを話をうかがった。

コミュ力を高める“トレーニング”とは

『タイプがわかればうまくいく! コミュニケーションスキル』(総合法令出版)

コミュ力を高めるために必要な“自己効力感”とは?

――「人と話すのが面倒」「上司や部下に苦手なタイプがいて困っている」など、コミュニケーションがうまく行かずに悩んでいるという声をよく耳にします。が、ズバリ、何が問題なのでしょう?

谷益美さん(以下、谷):コミュニケーションが苦手だと思っている人は、その苦手意識から自分の世界にこもりがちになり、無意識に人を寄せ付けないオーラを出していることがあります。まずはそこを意識して改善するだけで人との距離がぐっと近づくと思います。

私も今でこそ、全国の企業から官公庁まで様々なクライアントさんからお仕事のご依頼を頂けるようになりましたが、昔からコミュニケーションが得意だったわけではありません。元々は人を誘ったり、声を掛けるのが苦手で、「誰か誘ってくれないかな、声をかけてくれないかな」と受け身でした。そんな自分を変えたくなって、「実は人を誘うのが苦手で……」と友人に相談してみたんですね。すると相手から「谷さんは1人が好きなんだと思ってた」と言われてビックリ(笑)。自分が思っているセルフイメージと、周りに見せているイメージって、こんなに違うんだ!と驚きました。

枝川義邦さん(以下、枝川):たしかに考え方を「どうせ私には無理」から「私にはできる」とポジティブなものに変えるのはとても大切なことです。自分にはできるという心理状態の“ものさし”は「セルフ・エフィカシー(自己効力感)」と呼ぶのですが、この自己効力感が高い人は「よし、やってやる!」と前向きになることができるので、コミュニケーションも上手。自分はうまくコミュニケーションが取れるという自信が会話やしぐさを自然に魅力的なものにしてくれるので、周囲を惹きつけやすくなります。

:そうですよね。コミュニケーションが苦手だという人は、そもそも人と出会う機会が少なく、人とコミュニケーションを取ることに慣れていない方が多い気がします。まずは自信をつけるためにも色んな場に出向いて、人と接する機会を持つことがおススメ。コミュニケーションにもトレーニングが必要です。

コミュ力を高める“トレーニング”とは

左:コーチ・ファシリテーター・谷益美さん 右:脳科学者・枝川 義邦さん

コミュニケーションはスポーツと同じ。実践の場を増やそう

――具体的には何をすればいいのでしょうか?

:異業種交流会や興味のある勉強会などに参加して、ふだん会う機会の少ない人たちと接するのもオススメですが、いきなりそれはハードルが高いという場合は、友達を集めた飲み会やランチ会からスタートさせてみてはいかがでしょう? 参加メンバーそれぞれが、誰か紹介したい人を1人ずつ連れて来れば、そこは立派な交流会に早変わりです。会話が盛り上がるか不安なら、◎◎を食べる会、焼酎飲み比べ会といったようにテーマを決めると入りやすいですし、おしゃべりも弾むと思います。もしそういう場で自分から話すのが苦手でしたら、まずは周りを観察するだけでもOK。ほかの人がどうやってコミュニケーションして、話を伝えているかを観察するだけでも十分トレーニングになります。

枝川:そもそも「初対面の人と話すのが面倒」と感じるのも脳の仕業です。脳は相手の情報が少ない状態で会わなければいけない場合、相手が自分にとってどんな対象なのかを見極めることに注意を向けます。「この人は何を考えているんだろう?」「自分に敵意はないだろうか?」などなど。言葉だけじゃなく発言の行間を読んだり、しぐさや動作に込められた意味を探ろうとする。このようなとき、「脳は“認知負荷が高い情報”を処理している」と言います。認知負荷が高い情報の処理には脳のメモリ機能をめいっぱいに使う必要があるので、心理的に「あぁ、面倒くさい」「なんか嫌だ」という感情につながるのです。

――なるほど。そしてそれがつい表情にでてしまって相手に不快感を与えてしまったり、壁を感じさせてしまうという悪循環になっているわけですね。

:そうですね。そうならないためにも初対面のときはまず自分のことを簡潔に話すことがポイントです。例えば勉強会なら簡単な自己紹介や、「どこでこの会を知ったか」「参加しようと思ったきっかけ」など定番のことでいいんです。それを短くちゃんと伝えることが大切。それができたら相手に「あなたはどうですか?」と同じ質問をしてみる。自分はどういう人で、どんな目的でここにいるかが伝われば、相手も自分のことを安心して話せる様になります。

枝川:ポイントは「この人はこういう人なんだ」とわかってもらうこと。これができると相手の脳での認知負荷が下がるので、受け入れてもらいやすくなります」

正しさは人それぞれ。「思い込みメガネ」を外してみよう

――短く、簡潔に話すってことが大事ですよね。たまにいきなりバーッとしゃべり出す人とか、空気を読まずに1人でずっとしゃべっている人とか…。正直疲れます(苦笑)。

枝川:場の空気が読めないというのは、単に考え方のクセのように思われがちですが、実は脳の機能がスムーズに働いていないことが原因の場合もあります。とくに前頭前野と呼ばれる場所の働きが重要です。前頭前野は言葉や社会性、価値判断やプランニング、欲望や感情の制御などを担う社会生活に大切な部位なので、この部分がうまく働かないとコミュニケーションをはじめ、感情のコントロールなどもうまくいかなくなってしまうのです。

:なるほど。同じ人でも、状況や相手次第でうまくいかないこともありますよね。人は誰でも自分なりの世界の見方を持っています。『これが常識、○○すべき』といった考え方ですね。これを私は『思い込メガネ』と呼んでいるんですが、これをかけていると自分と違う世界の人を批判しがちです。たとえ同じことを体験していても、感じ方は人ぞれぞれ。正しさは人によって違うということを認識し、相手の立場を想像してみるとコミュニケーションもスムーズに運びますよ。

枝川:例えば、初対面なのに自己紹介からいきなり本題に突入するような話の展開が早い人もいますよね。レストランで言えば前菜やスープを飛ばしていきなりメインディッシュがでてくるようなタイプです。でもこれも『この人無理!』と拒絶するのではなく、『あぁ、メインディッシュ先行型なんだな』と考え方を変えて見るとスムーズに受け入れられる。その人はこういうタイプなんだとタグ付けすることで、脳の認知負荷が下がって受容性が増すのです。

タイプ分けでコミュニケーションの戦略を

――そのタグ付けをしやすくするためにもこの本に書かれたタイプ分けがポイントになるんですね。

:そうなんです。自分と相手の特徴と対応法を知ることでコミュニケーションを円滑にするアプローチの仕方や、会話のヒントが見えてきます。詳しくは本書に書きましたが大きく分けてタイプは4つ。「指図されるのは大嫌い、自分勝手にやらせてよという現実派タイプ」「楽しくなければ意味がない、盛り上がって行こう!という感覚派タイプ」「みんなのためなら頑張れる。きちんとお役に立ちたいという協調派タイプ」。そして最後が「やるべきことは正確に。計画通りに進めましょうという思考派タイプ」です。

なんとなくこれだけでも自分はどのタイプかな、あの人はこのタイプかな?と思い浮かぶのではないでしょうか。「この人と私のタイプは合わないから」と決めつけるのではなく、自分が苦手だな、と思う相手とのコミュニケーションにこそ活用してもらえたら嬉しいです。自分と相手のタイプを知ると、うまくいかない理由や、どうすればうまくいくかがわかってきます。色んな人と上手にコミュニケーションするための、良いヒントになると思います。

枝川:でも「この人はこのタイプだから」と当てはめることにこだわり過ぎるのはNG。人はそんなに単純ではないので、ひとつのタイプに絞り込めることばかりではありません。大事なのは相手に合わせてそのときベストな対応を選択できる自分であることです。

:先にもお話した通り、コミュニケーションスキルを上げるためには実践のトレーニングが必要不可欠です。スキルアップを狙いたいと思った今こそ実践のチャンス! うまくいく対話のコツを身につけて、たくさんの人と次に繋がるコミュニケーションを楽しんで下さいね。

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