「セックスワーク・サミット2015」レポート(後編)

行き場のない女性を救う現実―性風俗は最後のセーフティーネットなのか?

行き場のない女性を救う現実―性風俗は最後のセーフティーネットなのか?

女性の貧困が急速に社会問題化している。そうしたなか、「性風俗は最後のセーフティーネットなのか?」というテーマで、性風俗で働く女性の実態を知るイベント「セックスワークサミット2015」が11月に開催された。後編では、臨床心理士の鈴木晶子さんによる、デリバリーヘルス「鶯谷デッドボール」代表へのインタビューをレポートする。

【前編はこちら】セックスワークは貧困女性を救えるか “地雷専門”風俗店の代表が語る実情
【中編はこちら】風俗で働く女性に必要な支援とは 無料法律相談会「風テラス」実施のワケ

「稼げない」という悩みはつきない

鈴木晶子(以下、鈴木):他店では採用されない女性を採用される理由と、デッドボールのコンセプトである「即採用」は、どういう狙いがあってのことか教えていただけますか?

鶯谷デッドボール代表(以下、代表):風俗店って、女性の数をたくさん欲しい割には、「容姿がちょっと」とか「年齢的に」ということで、簡単に不採用と言ってしまうことがあるんです。であれば、その不採用の子たちを集めてしまえば、かなり大規模な店が早期で開業できるかなと思ったところがスタートです。ただ、他店で不採用になるにはそれなりの理由がありますので、そこは何か味付け、ちょっと一風変わったアピールが必要かなと。それで、広告会社のアドバイスもあって、日本人が一番分かりやすい野球の用語から店名も「デッドボール」にしました。

鈴木:今まで他店で不採用になっていた女性たちはどこに行っていたのでしょうか?

代表:うちと同じような価格帯の激安風俗店がありますので、そこで働いていたようですね。でも、やはり稼げないとか、そういう悩みはつきないと思います。

鈴木:同じくらいの容姿であっても稼げる子と稼げない子がいると思いますが、その違いはなんでしょうか?

代表:やはり自分で努力するということを知っている女性は売れますね。また一般常識としての会話がなりたつ人、というのは激安店ではかなり希少価値になってきますね。

鈴木:デッドボールで働く女性たちは、風俗業界が長い方が多いと聞いたのですが、皆さんの年齢や経歴についてお伺いしたいです。

代表:よくいるのが20年前の武勇伝を語る女性、若いときはすごく綺麗だったんだろうなという熟女達ですね。どんどん年齢上がるにつれて(容姿が)通用しなくなって、最終的にここに流れ着くというかたが多いです。

他店で通用しなくなり「鶯谷デッドボール」へ

鈴木:風俗では年齢の壁は大きいですか?

代表:大きいと思いますね。私も業界事情には疎いので、若い子がどうだとか、熟女がどうだとかよく分からないんですが、ただ価格帯的にみて高いところでは、だんだんと通用しなくなってくる女性が最終的にうちに来ますよね。

風俗は最後のセーフティーネットなのか

左:臨床心理士・鈴木晶子さん 右:デリバリーヘルス「鶯谷デッドボール」代表

鈴木:今回、無料の生活相談をデッドボールの待機部屋で実施されたわけですが、女性をたくさん確保したいという前提で始めたお店ですよね。先日私が代表にお会いしたときに、「支援を受けることで、女性たちがいなくなってしまったらどうしますか?」とお聞きしたら、「まあ多少は仕方ない」そして「でも戻ってくると思う」とおっしゃったんですよね。それはどうしてそう思われたんですか?

代表:やはり風俗ってメンタル的にすごく大変な世界ですが、実はだらしなくて、だらーっと働ける場でもあるんです。だから、朝9時に出社して夕方17時に帰るという生活を営める方が少ないと思うので、普通の社会では受け入れて貰えない女性が多いと思うんですよね。やはり戻ってくる確率のほうが高いのかなと。ただ、朝起きられないとか、お金の管理ができないというのは、病気ということなのでしょうか? 単にだらしない女性ということで片づけていいのか、その辺りの線引きが私達には全くできないのですが。

鈴木:そうですね。やはり個々あると思うんですが、うつ病などを患ってらっしゃると、症状や薬の影響で朝が一番きついんですね。あともう一つは、福祉とか医療とかでなんとか生活を整えていこうとして、例えば障がい者の作業所を活用してみようと思っても、「朝から来てね」と言われても行けないことが続くと、結局気まずくなったり、もう怒られちゃうので行けないといって辞めてしまったりするんですね。本人の状態が整わない段階で働けるところが少ない、練習する場所がないんですよね。

代表:やはり薬の服用歴とかを私が聞くようになったのも、(時間通りに)行けないことを隠して、嘘をついて、いなくなることを防止する目的からなんですよね。

“地雷専門店”は行き場のない女性をすくう

鈴木:障がい者を企業で雇うときに、その障がいの特性に合わせて合理的な配慮をするということがあるのですが、デッドボールではそれをナチュラルにやっているんだなという気がしています。試行錯誤した結果でしょうか?

代表:そういう意識はなかったんですけど、結果的にそれがベストなのかなと思ったんですね。

鈴木:おそらく、そういう配慮を他の仕事では受けられないし、福祉の枠のなかでもなかなか難しいものです。そうしたケアもあって、デッドボールは長期在籍される方が多いんだろうなと思いました。

性風俗をセーフティーネットと呼ぶことについての是非はある。その一方、性風俗以外の仕事に従事できない、あるいは性風俗で雇用されることが難しく生活に行き詰まる女性もいる。「あくまでも商売でボランティアではない」と言い切る代表だが、女性との信頼関係を築き「デッドボール」という働く場を提供するなかで、そうした行き場のない女性たちをすくい上げていることは確かだろう。

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