一般社団法人ホワイトハンズが開催したイベント「セックスワーク・サミット2015」の中編。前編では、地雷専門風俗店「鶯谷デッドボール」代表による、働く女性とお店の実態についてのトークをお届けした。中編では、同店の待機場所で今年10月に実施された法律および福祉相談「風テラス」の取り組みなどを紹介する。
【前編はこちら】セックスワークは貧困女性を救えるか “地雷専門”風俗店の代表が語る実情
無料の生活法律相談会「風テラス」とは
デリバリーヘルス店の「鶯谷デッドボール」では、デリヘル嬢として働く女性たちに自信をつけさせるため、専属ヘアメイクを雇い、化粧の仕方を学ぶ機会を設けるなどの支援にも力を入れている。さらに、今年10月には、ホワイトハンズの坂爪真吾氏の呼びかけで、同店の待機部屋で、在籍女性向けに無料の生活法律相談会「風テラス」が実施された。
こうした取り組みについて代表は、次のように話す。「最初は支援とかボランティアという気持ちはなかったんですけど、縁があって一緒に働いていて、それで私もご飯を食べさせてもらっているのであれば、彼女たちに還元ではないんですけど、何かをしてあげるのもひとつの仕事のうちかなと最近は思っています」
相談にきた9名の女性のうち大半が行政や福祉へつながっており、相談内容も一般的なものだったという。「風テラス」に参加した弁護士と社会福祉士は次のように振り返る。
一般の相談所には来られない人もいる
浦崎寛泰弁護士:弁護士目線から見ると、女性たちの相談は一般の相談と変わりはありませんでした。具体的には、9件中4件が債務整理、3件が離婚絡み。これだけみると町の法律相談と変わりませんが、法的に処理すればいいかというと単純ではありません。たとえば、福祉とつながってはいるんだけども、風俗で働いていることは弁護士やケースワーカーに隠している人がほとんどで、腹を割った相談をしていないことによる難しさも感じました。風俗で働いていることを前提に話せる場がないので、今回はとても貴重な機会だったなと思いました。
ただ、女性たちがここで働いていていいのだろうかという話になると、経営者と対立することになってしまうんですね。そうなると、我々としては経営者からお金をもらって働くことはできないわけです。プロとして関わっていく以上、仕事として成立させる必要があるので、今後継続していくにあたってはどういうシステムが可能なのか、考えていかなくてはいけないと思います。
徳田玲亜弁護士:今回9名の方が参加してくださいましたが、「相談します」と手を挙げられる人はまだ力があるんです。貧困層の方というのはダブルワークをしていたり、シングルマザーで子どもを抱えながら働いています。なかには、自分が法的なサービス、福祉のサービスを受けられるというのを自覚していない方もいます。相談に来る時間がない人も多いので、私たちが出向いて現場で話を聞けるというのは貴重な機会だなと思っています。今後活動を続けていくなかで、参加できない人にも接触できるようになるといいなと思っています。
及川博文社会福祉士:当初、社会福祉士という存在を知っている女性は少ないかと思っていたんですけど、実際は半数以上いました。生活保護を受けている方はケースワーカーさん、子どもがいる方は児童相談所に預けているとか、何らかのかたちで福祉と繋がっているという人はいるようでした。ただ、本音を話せずにつながっていることがほとんどなので、それは本当の意味でつながっているとは言えないのではないかと。本人が来るのを待っていればいいのかといえばダメだと思うので、私たちの方から生活の場所に出向きながら、本人がどのような思いで生活しているのかというのを、ゆっくりうかがっていくことが求められているのではないかと思っています。
女性たちは個人事業主。法の壁もある
今回、「風テラス」という取り組みを継続するにあたり、風俗経営者であるデッドボール代表と坂爪氏は次のように語る。
代表:お金の問題とかその辺りをどう解決するかですけど、会社側で負担して女性が無料相談できるということができれば理想なんですけど、従業員としてみなしたうえでの支援でしたら、会社としてもやりやすい部分もあるんですけど、女性たちが個人事業主である以上は、やりとりというのは法律の壁があります。そこをどう乗り越えるかを考えていきたいです。
坂爪:一種のファンドを立ち上げて寄付金を募集したり、イベントの売り上げを回したり、色んな角度からお金を集めてくるというのが法律的にも安全ですし、継続していけるのではないかと思います。
風俗店の経営者と、そこで働く女性の支援者双方の視点を通して語られた同セッションでは、性風俗に従事する女性たちの状況や困難の一片が浮き彫りになった。特殊な仕事として一般社会と隔てられがちなセックスワークだが、そこで働く女性たちが抱える悩みの多くは一般的なものと大きな違いはないようだ。
しかし、自らの実情をすべて明らかにしたうえで、福祉的な支援を求めることは彼女たちにとって極めて高いハードル。性風俗で生計を立てる女性たちが本当に必要としている支援を継続的に実現するには、法律や福祉に携わる側の積極的な姿勢が求められているのかもしれない。