かつて正社員になれれば永久就職、定年までいられるはずだったけど、最近は安心していられません。リストラの危機にさらされた経験があるアラサー女子もいるかもしれません。
お隣の国、韓国は世界でも雇用が不安定で勤続期間も短く、加えて女性の非正規採用が多く問題になっています。2007年「非正規職保護法」が施行される前に、この法案を快く思わない大財閥「イーランドグループ」は、傘下のスーパー「ホームエバー」の女性従業員を大量解雇。女性従業員たちが会社に対して反旗を翻し、ストライキを決行しました。韓国映画『明日へ』は、その実話をベースにした作品です。
彼女たちが、自分たちの雇い主である会社と闘うことを選んだ理由とは。この映画を通して紐解いていきましょう。
過酷業務に耐えてきた女性たちの怒り
女性従業員たちは正社員の男性上司のもと、懸命に働いてきました。主人公ソニの夫は出稼ぎに出ており、高校生の息子とまだ幼い娘、二人の子供を育てながら働いています。家計は常に火の車です。しかし、非正規採用で5年間懸命に勤めてきた彼女は、上司から「正社員に」と言われます。やっと少し楽になる。そう思ったとき、本社が女性従業員を解雇し、仕事は外部委託すると通告してきたのです。
生活が苦しいのはソニだけでなく、勤続20年の非正規の従業員、シングルマザー、正社員経験ゼロの女性など、いずれも「いつかは正社員に」という夢を持っていました。
おそらく“突然の解雇通告”というのが彼女たちの怒りに火をつけたのでしょう。こき使われて、屈辱的な扱いを受けても、耐えて来たのに……という思いが怒りの沸点に達した……というのが映画『明日へ』のストーリーです。
警察からの暴力で入院する女性も
女性従業員たちは実にルールに乗っ取ったストライキをしました。店内の商品には手を触れず、売り場の内側に入ることはしなかった。自分たちの権利を主張するという正しいことをしているだけだから、警察に捕まることはないと思っていたのです。しかし、警察が介入し、強制的にストライキを鎮圧してきました。暴力を振るわれ、入院する者も……。この荒々しさは映画の演出だと思ったら、事実であり、韓国では大々的に報道されたそうです。きちんとした話し合いもせず、力で牛耳ろうとする姿勢は、会社が従業員を物としか見ていなかったのでしょう。スーパーに並ぶ商品と同じ、会社の部品でしかなかったのです。
立ち上がった事実が重要
当時の報道では「おばさん組合員」と呼ばれた労働組合が立ち上がり、映画と同じようにストライキを決行しました。しかし、長引くほどに体調を壊す者も出て、人数は減っていったようです。結果、スト決行日から512日後に闘争は終結しました。
彼女たちは家庭を犠牲にして闘っていました。映画では、シングルマザーの息子がスト現場で怪我を負ったり、ソニの息子が家出したりと家庭も崩壊寸前になります。出る杭は打たれるじゃないけど、やはり大きな権力に立ち向かうと、周囲の風当りも強くなります。そこで屈してしまう人もいるでしょう。でも屈してしまうのもあり、屈せず闘うのもあり、両方ありなのです。何もしないよりも立ち上がった事実が重要です。
団結すれば社会を動かせる
「ホームエバー」ストライキで、労働組合員たちをサポートした労務士は、そのときの年配女性従業員の言葉が忘れられないと語っています。
「じきに仕事を辞めることになるかもしれないけど、やれるところまでやります。闘えるときに闘うのも悪くない」
アラサー女性だと、同じ状況に陥ったとき、闘うことに躊躇してしまう人も多いでしょう。まだ別な道でやり直せる年齢だからです。
映画で闘う女性たちは、みんなアラフォー近く、またはそれ以上のおばちゃん世代が中心です。今の仕事を失うと死活問題になる人ばかり。つまり崖っぷち。だからこそ、闘えたのかもしれません。
しかし、これだけブラック企業が問題視され、リストラ、失業が多い世の中。いつ同じ状況に陥るかわかりません。だからこそ、映画『明日へ』の女性たちの権利を主張する闘いは見る価値があります。本当はこんな闘い、無いほうがいいけれど“団結すれば私たちには社会を揺るがす力があるんだ”ということ、知っておいてもいいのではないでしょうか。
■公開情報
『明日へ』
公式サイト/公開中(TOHOシネマズ新宿ほか全国順次公開)
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■参考記事
映画『カート』でおばさん労組員を支えた労務士(the hankyoreh)
韓国 イーランド解雇争議が和解 非正規職のパワー発揮(しんぶん赤旗)